神暴き

黒幕横丁

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捌日目その1

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「今度は高田か」
 広場に高田が転がっていると酒井から連絡を受けてやってくると、まるで気持ちよく寝ているような高田の姿を弐沙達はみつけた。
 最初は酔いつぶれているとか薬物の効果で気絶しているだけだと思って脈を確認したが、脈は動いていなかった。
「なーんだ、酔いつぶれてるとかじゃないのか」
「首筋に赤い点のようなものがあるな」
 脈を確認するときに、弐沙は動脈が通っている部分に赤い点があることに気が付いた。
「これは……注射痕か?」
「ということは、薬物注射?」
「おっ、やってるねぇー」
 弐沙と怜が二人で議論をしているところへ、月丘と杉溝がやって来た。
「おはようございます」
「今回はあのアングラ系のおっちゃんかー。オレ苦手だったんだよね。この人」
 月丘は倒れている高田を見る。
「あれ? あのヤンキーさんが来てないけど」
 怜はキョロキョロと見回しながら、金上の姿を探す。
「あぁ、金上さんなら……」
「次はオレなんだーって喚きながら泊まっている民家で引きこもってるぞ。確か昨日一番強烈な死体を見たんだって? ヤンキーのプライドがズタボロになるくらいのトラウマを植え付けられたんだろうよ」
 その会話に興味がない弐沙は彼らの話を聞き流し、死体を一番に見つけた酒井に最初の状況を尋ねる。
「何時に見つけてどんな状況だった?」
「見つけたのは7時頃よ。眠っているように見えたけど、死体だと思ったから動かさないでおいたからこのままよ、そういう基礎はちゃんとお芝居とかで学んでいるのよ」
「ということはついさっきか」
 再び弐沙は高田の首筋に手を触れる。
「体温が冷たいし、死後硬直も始まっているということは夜にやって、ここに投げ込まれたのだろう」
 冷静にそう考察し、弐沙はこの場にいる全員の顔をチラリと見る。
「金上は引きこもっていると聞いているが、柏木の姿が見えないということはやはり昨日殺害されたのは柏木で決定なのだろうな」
「あら、柏木さん殺されたの? 折角お抱えのホストにしようと思ったのに」
 心底残念そうな顔をする酒井。
「そんなに男遊びが激しいといつか痛い目に遭うんじゃないか」
「この神暴きに参加している以上、痛い目に遭っていると言ってもいいじゃない? 弐沙さん」
「それもそうだ」
 弐沙はそう鼻で笑う。
「それにしても本当に人数が少なくなってきたねー。今何人いるんだろー?」
 怜は指を指しながら、人数を数えていく。
 残る人間は、弐沙・怜・杉溝・月丘・酒井・金上の6人。
「6人だねー」
「最終日までに殺される生贄はあと3人。暴き手・狩り手・狩り手を護る守護者を合わせて6人で丁度だな」
 淡々とそう述べていく弐沙。
「そういえば、暴き手さんも結局誰か分からないままですね」
 杉溝がそういうと、皆確かにと納得をする。
「もしかして、暴き手は既に死んでたりとかいうオチじゃねぇのか?」
「案外今絶賛引きこもっている金上の可能性も捨てきれないぞ」
 本物の暴き手である弐沙が、金上を暴き手と見立てて推理する。
「あのヤンキーさんが? ありえないでしょ」
 酒井はそう言って弐沙の推理を否定する。
「そして、案外その暴き手に対抗する狩り手が私、そして守護者が怜だったりしてな」
 弐沙がニヤリと笑うと、残りの人間はザッと一歩後ろへと後ずさりをした。
 皆弐沙の顔を見て青ざめていた。
「言っておくが冗談だ」
 弐沙が真顔でそういうと、周囲が安堵の空気に包まれた。

「弐沙も凄い冗談を言うようになったんだねー」
 拠点で怜が嬉しそうに話す。
「ちょっとカマをかけてやろうと思ったのだが、失敗だったようだな」
 弐沙は残念そうにアジのみりん干しを口に放り込む。
「でもさ、俺と弐沙はニコイチのはずだよね? なんで生贄3、役割者3なんて説明をしたの?」
 朝、弐沙が言っていたことに妙な引っ掛かりを覚えていた怜が弐沙に訪ねる。
「まだ暴き手が誰かということは知られていないからな。役割者が2とか言うと逆に怪しまれるだろう? それに」
 弐沙は箸をビッと怜に向ける。
「私はお前がもしかしたら狩り手サイドに回っていて、いつでも私を処分する準備が整っているという可能性を捨てきっていないからな」
「えー、俺を疑うの? 酷いなぁ」
「当たり前だ。疑うべきはまず味方からというしな。それに」
 ずずっとわかめの味噌汁をすすって弐沙は怜を見た。
「そうやって、人を裏切り続けてきたのがお前だろ?」
「ハハハッ。それは昔の話じゃないかー。今は違うよー」
 ケタケタと怜は笑う。
「これでも弐沙に助けられて十分改心したんだよー? 昔の自分からしたら怖いくらいにね。その信頼の証がこの格好だし、俺は弐沙に忠義を誓ってもいいと思ってるよー?」
「そんな気持ち悪い笑い方を浮かべられても説得力に欠けるな」
「出会った頃からこんな感じだったろ? だって俺は物心付いたときには“感情”なんてものとっくの昔に壊されているんだからさ。だから、こんな顔をしていても、弐沙のことだけは信じているし、信じて欲しいと思っているよ」
 だからさ……と怜は笑う。


「俺は弐沙の影だ。君の思うがままに俺を使ってくれていいんだよ」
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