神暴き

黒幕横丁

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漆日目その2

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「朝早いから他のメンバーは来なかったみたいだな」
 死体が村長たちの手によって片づけられた後、弐沙はまだ周囲をうろついていた。
 証拠品が無いか探しているのである。
「あの発砲が出入り口から抜けて脱走した時の音なら、出入り口を探したほうが手取り早いのかも知れないが……」
 弐沙はブツブツ呟きながら考える。
 初日に怜と一緒に門のところを調べた際、狙撃班はサイレンサー、つまりは発砲音を消音して撃ってきていた。
 しかし昨夜の発砲音は大体の人間が気づく位の音。
「もしかすると、“柏木が脱走したかのように偽装させたかった”ってことなのか?」
 トコトコと自らの拠点に戻りながら、推理を頭の中で整理する弐沙。

 途中、足音が急に二つに増えていく。

「……」
 弐沙はあえて振り返ることはなく、歩き続ける。
 足音の相手が怜だとしたら恐らく飛びついてくるし、他の人だとしても声をかけてくるなりしてくるだろうと考えたためである。
 しかし足音は弐沙に声をかけることなく、ひたすらについていくのみ。
 段々と足音の人物が何者であるか分かってきた弐沙は、歩く方向を雑木林の方へと変更していく。
 雑木林を数分歩いたところで後ろに向かって弐沙が口を開いた。
「ココまで来れば監視カメラは無い。存分に私を始末できるのではないか?」
 そう言って後ろを振り返ると、そこには弐沙の思っていた通り白い人が経っていた。
「……」
 白い人は無言で弐沙を見つめる。
 しかし、真っ白い仮面を付けている為に、どんな表情をしているのか、こちらから見ることは出来ない。
「煽って早速お出ましとは、村長も相当気が短い奴なのだな」
 呆れた調子で弐沙は呟く。
「さぁ、来るなら来い」
 弐沙は直ぐ横に落ちていた丁度いいサイズの木の棒を持って構える。
 すると白い人は軍刀を構え、弐沙に向かって走ってくる。
「おいおい、弓だけじゃなかったのか」
 白い人の思わぬ武器に目を見開く弐沙。その一瞬の隙を突かれ、白い人は弐沙との距離を縮めていた。
 軍刀を振り下ろす刹那、弐沙は持っていた木の棒で防ごうとするが、棒はスパンと真っ二つに斬られてしまう。
 斬られたら一溜まりも無い。そう考えた弐沙は白い人と距離を取ろうと逃げる場所を考えるために、視線を白い人から外してしまう。
「どの方向へ逃げるべきか」
 また視線を白い人へと戻そうとすると、奴の姿が消えていた。
「奴は何処だ」
 すると背後に気配を感じて、弐沙は瞬発的に避けると、目線の先に軍刀が光輝く。
「いつの間に背後に来た……っ」
 首に微かな痛みを感じて確認してみると、どうやら軍刀の刃先が首を掠めたらしい。弐沙の巻いている包帯がじわじわと赤く染まっていた。
 白い人の攻撃は尚も続く。
 弐沙は振り下ろされる軍刀を避けるので精一杯で、木の陰に隠れたりしては懸命に白い人の攻撃から逃れていた。
「アイツは一体何者なんだ。雑木林という狭い空間の中でアレだけ刀を振り回せるとなると、剣術とかを習っている者か……」
 やっと白い人の視界から身を隠すことが出来た弐沙は奴に見つからないように木の陰で様子を伺っていた。
「ココに隠れていても時間の問題か。奴に見つからないように。さっさと移動し……」
 弐沙はそう呟きながら、足を一歩前に出した。その時、

 ガシャン。

「いっ……がっ……」
 雑木林に仕掛けられたトラバサミに左足を思いっきり挟まれたのだ。
 トラバサミの刃は容赦なく弐沙の足の肉を抉り、足からは血が止め処なく流れていく。
 しかも、刃に塗られていると思われる毒の効果なのか、心臓の鼓動がまるで破裂しそうな位強く打ちつけ、早くなっていく。
「刀を避けるのに必死になっていたらこのザマだ」
 弐沙は挟まれた痛みに耐えながら、ちらりと白い人の動向を確認する。まだコチラに気づいているような気配は無かった。
「今の内に外さないと」
 弐沙はトラバサミに手をかけて必死に外そうと頑張るが、刃は相当深く弐沙の足に食い込んでいるため、なかなか外れない。
 しかも、外そうとする度に激しい痛みで弐沙はうっ……と呻いてしまう。
「うっ……はぁーはぁー」
 深く息を吐きながらトラバサミを解除しようと奮闘する弐沙。
「はぁ……あ゛あ゛ああああ」
 やっとの思いでトラバサミが弐沙の足から離れ、トラバサミは虚しくガシャンという音を立てた。
 その音を白い人は聴き逃さなかった。
「……しまった」
 白い人と目が合い、こっちに向かってくるのを確認した弐沙は急いで他の陰へと隠れようとするが、踏み込むたびに左足がズキンズキンと激痛が走る。
 それでも逃げなければ、あの軍刀の餌食になってしまうと考え、左足を引き摺りながらも何とか逃げようとする。
 白く閃く軍刀を避けながらも、木々に隠れる弐沙。だが、毒の効果で視界が徐々にぼやけ、反応速度が鈍ってしまい、刀が弐沙の体を掠める頻度が高くなっていった。
 はぁはぁと息を荒げながら、必死に逃げる弐沙。体力もかなり消耗され、気力だけで立っているような感じで、軸はふらふらとふらついていた。
 一方の白い男はまだ疲労はそれほど溜まっていないらしく、動きに無駄が無いように感じられた。
「アイツは怜みたいなバケモノか」
 弐沙はそう悪態をつきながら、逃げ出そうとしたとき。


 ガクン。


「あ……」
 足の力が急に無くなり、弐沙は雑木林に転がってしまう。
「しまった。毒が体内に回ったのか」
 必死に体を動かそうとするか、自由が利かない。
 そこへ白い人がやって来て、倒れている弐沙を見下し、軍刀を縦に構える。
「シネ」
 白い人は重低音でそう呟き、弐沙の心臓目掛けて、軍刀を突きたてた。
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