神暴き

黒幕横丁

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参日目その1

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「これはなんとも酷いねー」
 朝6時。弐沙と怜は広場に転がる死体を囲む。
 二日目の犠牲者は、一日目に木ノ里の死体を発見した平越だった。
 両腕をもがれて、広場に転がっていた平越を朝の調査に向かおうとしていた弐沙達が見つけることとなった。
「朝にまた門の調査に行こうと思ったらコレだ」
 弐沙はため息混じりに屈んで、死体の状態を確かめる。
「もがれた部分の断面はボロボロだな。何回も執拗に刃物を振り下ろされて切断したみたいだな」
「でも、初日あんなにギャーギャー叫んでいた人なんだから、執拗に刃物投げられたら悲鳴の一つや二つ上げて、皆、起きちゃうよね?」
 怜は棒付きキャンディーを舐めながら、弐沙が死体を調べている様子を見ていた。
「確かに、あの煩さだと起きてしまう可能性があるな。しかし、それが無かったということは、薬で眠らせたか死なせたか……」
 そういいながら弐沙は平越の死体をぐるっと裏返す。すると、背中の部分の衣服が裂かれたような跡を見つけた。
「……まさか、背中から心臓を一突きした?」
 弐沙は裂かれた部分を手で触って感触を確かめる。左肩甲骨の下に幅5センチくらいの溝っぽいものが手で感じられた。
「結構難しいと思うよ? 背中から心臓に向けてトドメの一撃を食らわせるだなんて。だって、人間には肋骨があるもの」
「でも傷がある。体の構造に詳しい人間の犯行か?」
「それなら真っ先に疑われるのは弐沙だね」
 飴を舐め終わり、棒だけになったその棒を弐沙の額に当てる怜。
「別に、疑われるのならそれでもいいがな」
「ちぇ、ノッてくれないのか。つまんないのー。あと、弐沙、手が真っ赤だよ」
 怜に指摘されて、弐沙は両手を見る。さっきまで平越の死体を触っていたお陰で手は平越の血で濡れていた。
「手を洗わないといけないな」
「だねー」
 怜は楽しそうに返事をし、またバッグから今度は板チョコを取り出す。
「……な、なんだよ、コレ……」
 弐沙達が振り向くと、そこには金上の姿があった。
「お、お前らがやったのか?」
 平越の死体と手が真っ赤に染まった弐沙を見て、みるみる顔が青ざめていく金上。
「そんなに簡単に犯人が分かるなら苦労しない。私達はただの第一発見者だ」
「それで今は実況検分の途中だよ」
「朝の早くからお医者さんは元気に死体と触れ合っているのかしら?」
 今度は田力と柏木がやってきた。
「皆さん、おはようござ……うわっ。今度は平越さんですか。これは酷い……」
 柏木はショッキングすぎて、両腕を切断された平越の死体から目を背けた。
「あらあら、昨日あんなにピーピー鳴いていらした方じゃないですか。ご愁傷さまですわ」
「お前ら、こんな状況でよく平常心でいられるな。俺は戻るぞ!」
 金上はそう吐き捨てて帰っていった。
「あーいうのって、ミステリーだとすぐ殺されちゃう奴だよねー」
「怜、煽るのは辞めろ」
 弐沙の注意にやる気のない返事で返す怜。
「……また死んだ奴が出たのか」
「うわっ」
 柏木の背後からにゅいと紅葉が出てくる。
「もう紅葉さん、急に背後から現れてびっくりさせないで下さい!」
「……」
 柏木の言葉に紅葉は一切返事をしない。
「あーあ、どんどん人が減っていく、僕もいずれは死ぬのかなぁ?」
 焦点の合ってない目で周囲を見回す、紅葉。
「ねぇ、僕も死んじゃうの? ねぇ? ねぇ!!」
 紅葉は更にココにいる四人に突っかかってくる。
「ねぇ、教えてってば! なぁ!」
 紅葉が弐沙に突っかかってこようとする前に、
「いい加減、黙れ。弐沙に近づくな」
「なっ……」
 怜が紅葉に掴みかかり。押し倒して拘束した。
 その目はいつもの怜とは違い、殺気に満ち溢れていた。
「そんなに死にたいのなら、今すぐここで……」
「怜、やめろ」
 弐沙の声で怜は我に帰り、紅葉への拘束を解いた。
「ごめーん、余りにも煩かったから黙らせたくて」
 怜の別の一面を見てしまった弐沙以外の三人はまるで時が止まったかのように硬直してしまった。
「……時々、スイッチが入る時がある。あまりコイツに変なことをしない方がいいぞ」
「えー、酷いことをされない限りは大丈夫だよー。ね?」
 怜はそう言ってニッコリと笑った。

 それから一時間後、一日目と同様に死体を村長が引き取りにやって来た。
「そこをどけ。邪魔だ」
 相変わらず弐沙に対する態度は酷く、弐沙も睨み付けるようにして平越の傍を離れる。
「昨日は随分と嗅ぎまわっていたらしいな。お前らはこの祭りのことだけ集中していればいいんだ」
「おやおや? 監視カメラに私達の姿が映らなかったから、逃げ出したんじゃないかとヒヤヒヤしていたのか? 小心者め」
「なんだと……」
 村長と弐沙がにらみ合う。
「まぁまぁ、村長さんも弐沙さんも落ち着いて。睨みあってばかりじゃ何も始まりませんよー」
 その間を柏木が割って入り、仲裁しようとする。
「フン。お前なんかくたばってしまえばいいんだ。祭りの参加者でなければ直ぐに私の手で……」
 そう言って村長は平越の死体を持って去っていった。
「何で村長さんはあんなに弐沙さんのことを毛嫌いしているんでしょうねぇ?」
「どうせ、何か嫌なことでもあったのだろう? それを私に当たりたいだけだ」
 柏木の質問に鼻で笑いながら弐沙が答える。
「おっと、そうだ。おいっ」
 何かを思い出したらしく、弐沙は帰ろうとする一人の男に声をかけた。
「はい、なんでしょうか?」
「コレを頼みたい。届けるのは明日でいいと伝えてくれ」
 そう言って弐沙は男に一枚の紙切れを手渡した。その紙切れの内容を男は確認する。
「……了解です。明日、お泊りになっているところへ届けさせて頂きます。それでは、わたくしはこれにて」
 男は村長の後を付いていくように、駆けて行った。
「何を頼んだんですの?」
 田力は弐沙に近づいて訊ねる。
「ただの生活必需品だ。怜が使う量が半端無くてな。持ってきた分が底を付きそうだから、注文したまでだ」
「えー? 俺のせい?」
 弐沙に文句を垂れる怜。その様子を見て田力はクスクスと笑う。
「何がおかしい」
「いえ、お二人の様子をみてついつい噴出してしまっただけですわ。あ、それはそうと、弐沙さん、怜さん。今日はあたしの泊まっているところで今後のことについて話し合うお茶会をしようと思っているのだけれど、参加されます? 昨日、お誘いしようと思ったのですけれど、お出かけになっていたようだから。一応、金上さんと高田さん以外はいらっしゃいますのよ?」
 田力はそう言って弐沙たちをお茶に誘うが、
「私は結構だ」
 弐沙はそれをスッパリと断った。
「あら残念。美味しいお菓子も出ますのに」
 田力のその言葉に、
「お菓子出るの!? じゃあ、俺は参加する! ねぇ、弐沙もでよーよー」
 甘味には目がない怜が釣れた。そして、怜は弐沙にお茶会に参加するようにせがむ。
「……コイツが煩くて仕方ないから参加する」
 耳を手で塞ぎながら、弐沙は吐き捨てるようにそういった。
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