神暴き

黒幕横丁

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弐日目その2

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「あー、ご飯美味しい」
 住居スペースへと戻ってきた二人は既に朝食の用意がされていることに気づいた。
 ソレをパクパクと口に入れていく怜。
「コレが“お袋の味”って言うんだね、弐沙」
 そう感動しながら味噌汁を飲み干していく。
「良く食べるな、あんな状況に遭遇しても」
「そういう風に躾けられたからねー。ご飯は美味しく食べる、コレ大事」
 頬にご飯粒をつけながら怜が力説する。
 そんな怜をじーっと凝視する弐沙。
「本当に私とお前って似ているよな……」
 弐沙が向ける視線は何処か嫌なモノを見るような、そんな視線。
「…… 気 持 ち 悪 い ほ ど に」
 その言葉に怜は動かしていた箸を止める。そして、クツクツと嗤う。
「だから何度も言ってるじゃないか、俺は弐沙の鏡だって。こうしていることで、弐沙に一歩でも近づけるのなら、俺は気持ち悪がられても平気だよ」
「結局、お前は私に近づいてどうするつもりなんだ」
「ふっふーん。それは秘密だよ。さてご飯も食べ終わったし、探索に行こうよ弐沙」
 そう言って怜は楽しそうに住居スペースから外へと出て行った。
「おい、はぐらかなすな」
 弐沙もその後を追って外へと飛び出していった。

 F村は周囲を巨大な丸太の柵で囲まれており、北側と東側の二箇所に出入り口となる大きな門。南側には雑木林、西側にはため池のようなものがあった。
 弐沙達は北門のほうへとやって来た。すると、門の前には柏木と杉溝の二人が何やら話をしている様子だ。
「あ、弐沙さんたちも門が気になってきたんですか?」
 柏木は弐沙達の気配に気づいて、話しかけてきた。
「ちょっと気になることがあってな」
 そういう弐沙の手には何処かから拾ってきたのか掌サイズの小石を握られていた。
 小石をポンポンと片手で投げたり、小石を握って腕をブンブンと振り回したりと遊ぶ弐沙。
「その小石で何をするんですか?」
 杉溝は怪訝そうな顔で弐沙に尋ねる。
「この小石でちょっと遊ぶんだよ。こういう風にな!」
 弐沙は小石を門の外へと向かって思いっきり投げる。小石は勢い良く門の外へと出るが、門の外へ出たその刹那。

 ピシュッ。 パーン。

 微かな音と共に小石は何かに当たり、音を立てて粉々に砕け地面に落ちた。
「なっ」
 突然のことで柏木と杉溝は青ざめて硬直する。
「怜、見えたか?」
 そんな二人はお構いナシに弐沙は怜に問う。
「辛うじて、あそこの方かなぁ」
 怜は指を指して答える。
「それにしてもサイレンサーまで用意しているなんて、ハンターさんも用意周到だねぇ。それに……」
 怜はニヤリと怪しく笑う。
「掌サイズの小石をあの距離から的確に狙えるなんて、普通の猟師とかじゃありえないよねぇ。村人に化けた凄腕の掃除屋か、はたまた……」
「あ、貴方たちは一体……」
 その様子を見ていた杉溝が弐沙達に訊くが、弐沙は杉溝を見て一言、
「ただの一般人だ。さて、次は雑木林に行くか」
「りょーかい。今日の弐沙はなんだかアグレッシブだねぇ」
「煩い」
 弐沙と怜はそんな感じで口喧嘩をしながら、北門を後にした。

 そんな弐沙達の後ろ姿を見ながら唇をぎゅっと噛む杉溝の姿を二人は知らない。

 南側の雑木林。長年手入れはされていないらしく、文字の通り、木々が鬱そうと生い茂っていた。
 弐沙はスマホを取り出し、とある画像を表示させる。
「つーぐさー。地図っぽいけど、それ何?」
「見ての通り地図だ。二百年前くらいのものだがな」
「ほー。そんな古い地図なんて使わずにスマホのアプリで見ればいいじゃない」
「……試しにこの村を地図で検索してみろ」
 怜は弐沙に言われた通りにスマホの地図アプリを起動して、F村と検索した。

 しかし、一切ヒットしないのだ。

「あれ? 検索にかからない」
「そう、この村は地図に無い村。というか、存在自体抹消された村だからな。だから、頼りになるのはこの古文書レベルの古い地図なのだ」
 そう鼻で笑う弐沙。
「地図通りだと雑木林の先に大きい川原に辿りつけるはず。村長は脱出手段を、門を通ることだけ言っていたが、この雑木林の先のことを言っていなかったからなソレを調べようと思ってな」
「雑木林探検だね!」
 怜はワクワクしながら準備運動を始めていると、
「そんナカは気をつけな」
 気づけば、高田が煙草をふかしながらやってきていた。
「どういう意味だ?」
 弐沙が訊くと、高田があるものを弐沙に見せる。それは害獣駆除用の罠として取り付けられるトラバサミのように見えた。
「これは……トラバサミか?」
「そうだ。林の中のあちこちに仕掛けられていた。しかも、歯のところを良く見てみろ」
 そういわれて弐沙は目を細くしてトラバサミの歯の部分を見ると、何やら紫色っぽい色が塗られているのが見える。
「……毒でも塗られていそうだな」
「ご名答。さすがだな。持って帰って簡易検査してみたが、植物の毒を濃縮生成したものだった。死にはしないが、挟まれたら高熱と嘔吐で寝込むレベルの毒性がある。最悪、壊死して切断だな」
「そんな事を私たちに教えて、お前に何か利益でもあるのか?」
 弐沙は冷ややかな目で高田に問う。
「この祭りが楽しみっていうのもあるが、俺はお前達に興味がある。俺の長年の勘がそう言っている。お前達には何か大きな秘密があるってね」
 高田の言葉に弐沙はため息をついた。
「その長年の勘と言うのはハズレだろうな。私たちは特に何も無いただの一般人だ」
「長年アングラ系の記事を書いているんだ、俺の勘は絶対だ」
「じゃあ、勝手にすればいい。ところで……」
 弐沙は高田を睨みつけながら近づいていく。
「その煙草、普通の煙草ではないな」
「流石俺が興味をもった奴だけのことがある。普通の煙草みたいに偽装しているが、この国では違法な奴だ」
 ガッハッハと高田は豪快に笑う。
「あまり人前で吸うなよ。臭いでくらっときそうだ」
「分かっている。だから雑木林の中で吸おうとしたらトラバサミを見つけた。まぁ、俺から提示できるモノはこれぐらいしか無いけどな。頑張れよ。お二人さん」
 ヒラヒラと手を振って高田は去っていった。
「弐沙、あのおっさん危険人物っぽいけどどうする?」
 怜は去っていく高田を見ながら弐沙に訊ねる。
「放っておけ。それより、雑木林に向かうぞ。罠には気をつけながらな」
 そう言って弐沙は雑木林の中へと入っていった。



「それにどうせ皆、殺されるんだ」



 そうボソッと呟いた弐沙の声はガサガサと揺れる木々の音でかき消されていった。
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