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壱日目その1
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木ノ里が探偵社を訪れた翌日、弐沙へと村長自ら連絡が来た。
用件はもちろん、弐沙が出した条件をのむというものだった。
その時の声がいささか嫌そうな声を出していたことを弐沙は聞き逃さなかった。
「それでは、明後日お邪魔させて頂きます。精々、お祭りの準備は怠らないようにしてくださいね。私が即座に狩り手を暴かれても癪に障るでしょう?」
そういって弐沙は電話を切った。
「随分と嫌味を言っちゃうんだねぇ」
その一部始終を聞いていた怜はニヤニヤとしていた。
「私を表舞台に引きずり出す訳なんだから、これぐらいのことは言っておかないとな」
そう言って弐沙は自室へと入っていった。
そして運命の日の朝九時。豪勢なリムジンが探偵社の玄関前へと止まった。
「弐沙様、怜様、お迎えに上がりました」
探偵社に訪れたのは白髪混じりのオールバックでスーツ姿の男性。恭しく二人に頭を下げた。
「アンタもF村の人間なのか? どうも田舎っぽさを感じないというか」
弐沙は怪訝そうな顔でスーツの男を上から下へと見た。
「いえ、私は弐沙様たちをF村へと送り届けるために雇われた唯の運転手です。丁重に送迎しなさいというご依頼で」
「当日に逃げないようにするためか。村長も考えたな」
「これは一本取られたね」
怜が笑うと、弐沙の顔が引きつった。
「荷物はコレのみだ。トランクへと積んでおいてくれ」
「かしこまりました」
弐沙が運転手に玄関に置いてあったやや大きいトランク一つを軽く叩くと、運転手はソレをもって外へと出て行った。
「十日間も篭もるのに随分と鞄小さいんだねぇ」
怜が不思議そうに訊く。
「殺伐とした空間に大荷物を持っていく気にもなれないだけだ。怜、お前にはコレを渡しておく」
弐沙が怜に渡したのは、紺色のメッセンジャーバッグ。
「一応、甘味の部類を詰め込んである。スイッチが入る前に食べておけ」
「あいあいさー」
怜はビシッと敬礼をしてバッグを背中へと背負った。
「さ、そろそろ行こうか」
「そうだねぇー」
二人は互いに視線で合図を取って、玄関を出た。
「さて、この探偵社へと無事帰れるかどうかは神暴きの内容にかかっているわけだ。私を選んだことを後悔させてやろうじゃないか」
弐沙はそう笑いながら、探偵社の玄関を施錠した。
探偵社から車で4時間半。F村。山に囲まれた舗装されていないでこぼこ道を進むとそこには切り開かれたように村がぽつんとあった。
まるで、時代に取り残されたような茅葺屋根の家が10軒ほど、まばらに点在しているそんな村。
「到着しました」
運転手がそう言ってリムジンの扉を開けて二人を降ろした。
「おー、随分と年季が入っている村だねー」
一番に車から降りた怜は目を爛々と輝かせて村の周囲を眺める。
その様子を弐沙は呆れ半分で見ていた。
「本当に怜は子どもみたいな反応をするよなぁ」
「だって、こういうところは初めてだからねー」
走り回って楽しむ怜に弐沙はフンと鼻を鳴らす。
「……前の仕事以外では初めての間違いだろ?」
「えー、なんのことかなぁ?」
弐沙の言葉ににっこりと笑いながら怜ははぐらかした。
「その顔で笑うな。私が笑っているようで気色が悪い」
弐沙の注意も聞かず、怜はニコニコと笑ったままだ。
「いいじゃん。弐沙も笑いなよー。その方が人生楽しいよ」
怜の言葉を弐沙は嫌だと拒否。怜はちぇっとつまらないそうな顔に変わった。
「弐沙様、怜様、荷物は運び入れておきました。コチラの集会場の方で、最初の説明があるそうなのでどうぞ中へ。それでは私の役割はこれまでなので、これにて失礼します」
二人が言い合っている間に運転手は手際よく弐沙たちの荷物を運びいれ、乗ってきたリムジンで村の出入り口へと消えていった。
「怜、いいか? 私達が探偵ということは今喋るなよ?」
「え、なんで?」
「……中に入って説明を聞けば分かる」
弐沙達が運転手に教えられた場所へと入ると、そこには既に11人という結構な人数が囲炉裏の周りを取り囲んでいた。
その中には先日探偵社へやって来た木ノ里の姿もあった。
「随分と大盛況だねぇ」
怜は楽しそうに集会場の中へと上がりこむ。
「これの何処が楽しそうに見えるのかしら? お気楽な人も居たものね」
上手のほうに座っていた濃い目の化粧をしている女がそう言った。
「ほ、本当です。僕達、何がどうして、こんな目に」
「おい、俺に近寄るんじゃねぇよ! 貧相なのがうつるじゃねぇか!」
「ヒィ! ごめんなさい」
おどおどしているサラリーマンっぽい男性が、ガラの悪い男に近づくと、ガラの悪い方がサラリーマンのほうの胸ぐらを掴んで怒鳴る。
「どうせ、いい事じゃないだろ……」
「おー、おめぇさんも呼ばれたのかい。珍しいねぇ双子なんて」
根暗な男性はずっと囲炉裏の火を眺め、まるで仙人かのように髭を蓄えている男は入ってきた弐沙たちに興味しんしんの様子。
「私なんて十日間も拘束されるって聞いて着て行く服選び困ったわよ」
「いいよなぁ、女は万国共通で気楽で」
「それ、どういう意味よ」
その横では、銀髪の男性が派手なスーツ姿の女性に呆れ果てていた。
「これ、どう? 新作の香水なの」
「いえ、俺は別にそういうのは、男なので」
「男でも身だしなみはキチンとしないとね。私に任せなさいよ」
一方、弐沙たちの横では若い男性が今時の服装の女性に言いくるめられてタジタジになっていた。
「これで全員なのか」
弐沙は周りを見回していると、背後から、遅れてゴメンなさいという声が聞こえた。
家へ入ってきたのは二十代くらいの優男。どうやら急いできたらしく、ハァハァと息を切らして中へと上がりこんだ。
「すいません、寝坊しちゃって」
優男はすいませんねー。軽い感じで謝った。
これで、集会場には十四人という大人数が収容されていることになる。
「これで全員だな」
村長は最後に現れた優男を確認すると、口を開いた。
「これより神暴きの説明を始める。皆のもの心して聞くように」
村長の言葉の次に木ノ里が深々とお辞儀をする。
「まず、このF村についての歴史をお話しましょう」
遥か昔、この村は流刑を免れた罪人達が再犯を犯さぬようにと閉じ込めた収容場として作られました。
ある日、その村で不可解な死人が出ました。
それはまるで、磔にされているような姿でした。
その磔にされた死人には文が括りつけられていました。
その文にはこう書かれていました。
『この罪に塗れた村を粛清しにやってきた。これから十日間、私はお前たちの罪を裁くだろう。この村に紛れ込んでいる、私、神を暴けば命だけは助けてやろう』と。
村人はその文を見て恐怖に怯え、また、紛れ込んでいる神を見つけようと疑心暗鬼になっていきました。
そんな村の中で一日毎に行われる裁き。
あるモノは手をもがれ、あるモノは口を縫われ、またあるモノは心の臓が抜き取られていました。
そして運命の十日目を迎え、村人達はこれで村はおしまいだと誰もが確信していました。
しかし、この村に見覚えのない罪で収容されていた一人の青年だけは違いました。
彼は村に紛れている神を見事暴きました。
暴かれた神、イサ様は彼を賞賛し、山の奥へと消えていきました。
こうして、村に平和が訪れたのでした。村人は神暴いた彼を何時までも称えていました。
しかし、イサ様はコレだけでは満足しませんでした。
次は、自分の分身である“狩り手”を寄越し、村人に挑むようになりました。
用件はもちろん、弐沙が出した条件をのむというものだった。
その時の声がいささか嫌そうな声を出していたことを弐沙は聞き逃さなかった。
「それでは、明後日お邪魔させて頂きます。精々、お祭りの準備は怠らないようにしてくださいね。私が即座に狩り手を暴かれても癪に障るでしょう?」
そういって弐沙は電話を切った。
「随分と嫌味を言っちゃうんだねぇ」
その一部始終を聞いていた怜はニヤニヤとしていた。
「私を表舞台に引きずり出す訳なんだから、これぐらいのことは言っておかないとな」
そう言って弐沙は自室へと入っていった。
そして運命の日の朝九時。豪勢なリムジンが探偵社の玄関前へと止まった。
「弐沙様、怜様、お迎えに上がりました」
探偵社に訪れたのは白髪混じりのオールバックでスーツ姿の男性。恭しく二人に頭を下げた。
「アンタもF村の人間なのか? どうも田舎っぽさを感じないというか」
弐沙は怪訝そうな顔でスーツの男を上から下へと見た。
「いえ、私は弐沙様たちをF村へと送り届けるために雇われた唯の運転手です。丁重に送迎しなさいというご依頼で」
「当日に逃げないようにするためか。村長も考えたな」
「これは一本取られたね」
怜が笑うと、弐沙の顔が引きつった。
「荷物はコレのみだ。トランクへと積んでおいてくれ」
「かしこまりました」
弐沙が運転手に玄関に置いてあったやや大きいトランク一つを軽く叩くと、運転手はソレをもって外へと出て行った。
「十日間も篭もるのに随分と鞄小さいんだねぇ」
怜が不思議そうに訊く。
「殺伐とした空間に大荷物を持っていく気にもなれないだけだ。怜、お前にはコレを渡しておく」
弐沙が怜に渡したのは、紺色のメッセンジャーバッグ。
「一応、甘味の部類を詰め込んである。スイッチが入る前に食べておけ」
「あいあいさー」
怜はビシッと敬礼をしてバッグを背中へと背負った。
「さ、そろそろ行こうか」
「そうだねぇー」
二人は互いに視線で合図を取って、玄関を出た。
「さて、この探偵社へと無事帰れるかどうかは神暴きの内容にかかっているわけだ。私を選んだことを後悔させてやろうじゃないか」
弐沙はそう笑いながら、探偵社の玄関を施錠した。
探偵社から車で4時間半。F村。山に囲まれた舗装されていないでこぼこ道を進むとそこには切り開かれたように村がぽつんとあった。
まるで、時代に取り残されたような茅葺屋根の家が10軒ほど、まばらに点在しているそんな村。
「到着しました」
運転手がそう言ってリムジンの扉を開けて二人を降ろした。
「おー、随分と年季が入っている村だねー」
一番に車から降りた怜は目を爛々と輝かせて村の周囲を眺める。
その様子を弐沙は呆れ半分で見ていた。
「本当に怜は子どもみたいな反応をするよなぁ」
「だって、こういうところは初めてだからねー」
走り回って楽しむ怜に弐沙はフンと鼻を鳴らす。
「……前の仕事以外では初めての間違いだろ?」
「えー、なんのことかなぁ?」
弐沙の言葉ににっこりと笑いながら怜ははぐらかした。
「その顔で笑うな。私が笑っているようで気色が悪い」
弐沙の注意も聞かず、怜はニコニコと笑ったままだ。
「いいじゃん。弐沙も笑いなよー。その方が人生楽しいよ」
怜の言葉を弐沙は嫌だと拒否。怜はちぇっとつまらないそうな顔に変わった。
「弐沙様、怜様、荷物は運び入れておきました。コチラの集会場の方で、最初の説明があるそうなのでどうぞ中へ。それでは私の役割はこれまでなので、これにて失礼します」
二人が言い合っている間に運転手は手際よく弐沙たちの荷物を運びいれ、乗ってきたリムジンで村の出入り口へと消えていった。
「怜、いいか? 私達が探偵ということは今喋るなよ?」
「え、なんで?」
「……中に入って説明を聞けば分かる」
弐沙達が運転手に教えられた場所へと入ると、そこには既に11人という結構な人数が囲炉裏の周りを取り囲んでいた。
その中には先日探偵社へやって来た木ノ里の姿もあった。
「随分と大盛況だねぇ」
怜は楽しそうに集会場の中へと上がりこむ。
「これの何処が楽しそうに見えるのかしら? お気楽な人も居たものね」
上手のほうに座っていた濃い目の化粧をしている女がそう言った。
「ほ、本当です。僕達、何がどうして、こんな目に」
「おい、俺に近寄るんじゃねぇよ! 貧相なのがうつるじゃねぇか!」
「ヒィ! ごめんなさい」
おどおどしているサラリーマンっぽい男性が、ガラの悪い男に近づくと、ガラの悪い方がサラリーマンのほうの胸ぐらを掴んで怒鳴る。
「どうせ、いい事じゃないだろ……」
「おー、おめぇさんも呼ばれたのかい。珍しいねぇ双子なんて」
根暗な男性はずっと囲炉裏の火を眺め、まるで仙人かのように髭を蓄えている男は入ってきた弐沙たちに興味しんしんの様子。
「私なんて十日間も拘束されるって聞いて着て行く服選び困ったわよ」
「いいよなぁ、女は万国共通で気楽で」
「それ、どういう意味よ」
その横では、銀髪の男性が派手なスーツ姿の女性に呆れ果てていた。
「これ、どう? 新作の香水なの」
「いえ、俺は別にそういうのは、男なので」
「男でも身だしなみはキチンとしないとね。私に任せなさいよ」
一方、弐沙たちの横では若い男性が今時の服装の女性に言いくるめられてタジタジになっていた。
「これで全員なのか」
弐沙は周りを見回していると、背後から、遅れてゴメンなさいという声が聞こえた。
家へ入ってきたのは二十代くらいの優男。どうやら急いできたらしく、ハァハァと息を切らして中へと上がりこんだ。
「すいません、寝坊しちゃって」
優男はすいませんねー。軽い感じで謝った。
これで、集会場には十四人という大人数が収容されていることになる。
「これで全員だな」
村長は最後に現れた優男を確認すると、口を開いた。
「これより神暴きの説明を始める。皆のもの心して聞くように」
村長の言葉の次に木ノ里が深々とお辞儀をする。
「まず、このF村についての歴史をお話しましょう」
遥か昔、この村は流刑を免れた罪人達が再犯を犯さぬようにと閉じ込めた収容場として作られました。
ある日、その村で不可解な死人が出ました。
それはまるで、磔にされているような姿でした。
その磔にされた死人には文が括りつけられていました。
その文にはこう書かれていました。
『この罪に塗れた村を粛清しにやってきた。これから十日間、私はお前たちの罪を裁くだろう。この村に紛れ込んでいる、私、神を暴けば命だけは助けてやろう』と。
村人はその文を見て恐怖に怯え、また、紛れ込んでいる神を見つけようと疑心暗鬼になっていきました。
そんな村の中で一日毎に行われる裁き。
あるモノは手をもがれ、あるモノは口を縫われ、またあるモノは心の臓が抜き取られていました。
そして運命の十日目を迎え、村人達はこれで村はおしまいだと誰もが確信していました。
しかし、この村に見覚えのない罪で収容されていた一人の青年だけは違いました。
彼は村に紛れている神を見事暴きました。
暴かれた神、イサ様は彼を賞賛し、山の奥へと消えていきました。
こうして、村に平和が訪れたのでした。村人は神暴いた彼を何時までも称えていました。
しかし、イサ様はコレだけでは満足しませんでした。
次は、自分の分身である“狩り手”を寄越し、村人に挑むようになりました。
応援ありがとうございます!
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