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消えたデータ編

その7

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「で、見つかったデータは何処に?」
「友人の解析によると、どうやらデータバンクに保管されていたらしいですよ。でも、パスワードがかけられてあって、スティーブ氏の意識が戻らない限り閲覧できるのは不可能という見解です」
「くっ、スティーブの意識さえ戻れば」

 スティーブ氏の意識が戻ったのは、ナカタニ氏にはまだ伏せてある。
 さて、これからの一言で彼がどう動くか。

「でも、そのパスワード。俺になら解除できるといったらどうしますか?」

 俺の一言に、ナカタニ氏の表情が変わった。

「ソレは一体どういうことだ?」
「俺、パスワードを解くのが好きなので。教えてもらったデータバンクを確認してみたのですが、俺には優しすぎるパスワードでした。お困りのようでしたら、解除しますけど?」

 俺はニッコリと笑いながらナカタニ氏に話を持ちかけると、

「それは本当か! いや、パスワードを解いてくれるなら有難い。ぜひ、そうしてくれ」

 かかった。

 ナカタニ氏は心底嬉しそうに、俺にパスワード解除を依頼してきた。
 俺は、倉庫でノートパソコンが置けそうなスペースでパスワード解析作業を始める。

「それにしても、本当にお困りなんですね。スティーブ氏の回復を待たずにそんなにデータが見たいのですから」
 解除作業をしながら、俺はナカタニ氏に話しかける。
「アレが無いと、研究に支障をきたしてしまうからな」
「その研究ってもしかして……」

 俺は、カバンに忍ばせていた一枚の紙切れを取り出して、ナカタニ氏に見せ付ける。

「コレのことですかねぇ?」

 その紙切れには、【心理データを用いた軍事用新兵器開発について】と書かれていた。

「なっ、何故それを君が持っている」
「その筋の関係者から入手しましてね。ナカタニさん、貴方も相当のワルですねぇ。あれだけ殺戮兵器に転用されていたのを恐れていたのに、ご自身が軍事兵器として使うことを目論んでいたとは」

 実はこの書類はミエラ氏から入手した。
 何を隠そう、彼女は、アメリカの諜報部隊のエージェントだったのだ。
 ナカタニ氏が秘密裏に兵器の研究をしているという情報を入手し、教授という身分として潜入。監視と情報収集を行っていたらしい。



 何故、彼女の正体を見破ったかというと、暇つぶしに学会参加者の名前を検索して遊んでいたときのこと。

「えっ?」

 ミエラ氏の経歴が、大学院卒業後、教授になるまで空白の8年があったことに気が付いたことから始まった。
 乙女の秘密は多いとはいえど、いくらなんでも入社したのなら企業とかの名前を書くだろうとちょっと疑問に思ってしまったのである。

「試しに学校のデータベースでもいじってみるか」

 ちょっとした遊び心で、ミエラ氏が所属していたとされる大学院のデータベースに侵入して、ミエラ氏の名前で検索してみた。
 無論、所属していた学生としてヒットはしたのだが、

「データが書き加えられた痕がある……」

 学生番号順に並べられていたハズの名簿が、ミエラ氏以降、並び方が雑になっていたのである。つまり、ミエラ氏はこの大学院の学生ではない可能性があった。
 その後も検索したら、ミエラ氏の偽装疑惑が出る出る。
 これだけの情報を一気に偽装する必要があるとなれば、潜入捜査が必要な仕事なのだろうと、カマをかけてミエラ氏に取引を持ちかけたら、あっさりと認めてくれた。
 そして、ミエラ氏と俺が“ナカタニ氏が軍事兵器を作ろうとしているという確たる証拠”を見つけるという取引をし、この1枚の書類を受け取ったのである。


「さぁ、兵器利用をしようとしていると分かった以上、どうしてくれましょうねぇ?」

 俺はそう言って解析作業中の手を止めた。

「ぐっ……」

 ナカタニ氏は悔しそうに俺を睨みつけてくる。
 お、これは最終手段を出さなくて済みそうかと考えていた次の瞬間。


 ドンッ!


 倉庫に響き渡る破裂音と共に、俺の真横を何かが掠めていった。

「嘘だろ……」

 ハラハラと俺の金髪の髪が幾つか落ちた後に火薬の臭いが広がる。
 ゼーハーと息を荒げるナカタニ氏の手には拳銃が握られていた。
 なんというモノを持っているんだ、あの人は。

「命が惜しければ、大人しくパスワードを解析しろ」
「ナカタニさん、それ以上発砲なんかすると、日本でも罪を被ることになるんですよ」
「いいから! 解析しろ!」

 ナカタニ氏に理性というものは既に無いような感じだった。
 コレは、やはり最終手段を出すしかないのか……。

「そんなに、犯罪者の精神心理データって兵器転用できるようなシロモノなんですかねぇ?」
「……そりゃ、終身刑の犯罪者のデータだ。狂ったデータばかりのハズだ」
「コレを見ても、そういえるのですか?」

 俺はパスワード解析完了して、開いたデータをナカタニ氏に見せる。パソコンの画面に広がっていたのは……、


 犯罪者がひたすら自分を責めていたり、被害者への伝えきれない後悔が表記されていたデータだった。


「なんだこれは……。何かの間違いだ、こんなデータありえない」
「いえ、正真正銘。本物のデータですよ、ホラ」

 俺は、データのプロパティをナカタニ氏に見せる。間違いなく、スティーブ氏が作成したデータだった。

「そんな……、では一体何のために私はこのデータを……」

 ナカタニ氏はその場に座り込み、放心状態になった。
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