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消えたデータ編
その4
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「話を整理しましょう」
控え室の椅子に俺たち三人は腰をかけ、俺は事のあらましを整理する。
万が一、人が入っては困るので、控え室のドアは施錠しておいた。
話を整理すると、
中年男性こと、ロボット技術者であるケン・ナカタニ氏は、犯罪心理学者のスティーブ・カンザス氏との共同研究で、アメリカの刑務所に配備予定の犯罪者のケアをする、AI搭載の看守ロボットを製作していた。
その看守の知能データとして、終身刑の犯罪者の精神心理データが使われる事となったが、その知能データが悪用されると、データの内容が内容だけに、兵器などにも転用可能になってしまう危険性があるらしく、スティーブ氏が大事にデータを持っていたらしい。
しかし、スティーブ氏が何者かに襲われ、彼が持っていたデータも消えた。
「恐らく、何者かがデータをスティーブが持っていることを知って、襲ったんだ。そうに違いない」
「うーん。そう考えるのがしっくりくるかもしれないのかなぁ?」
「問題は、本当にデータを狙っての犯行かどうかなんだよなぁ」
データ狙いと決め付けるのはまだ早い気がする。
「そうに決まっている! 過去にもデータを狙って何回か我々の命が狙われたことがあるんだ。今回だってきっとそうだ!」
ナカタニ氏はそう言って机を力任せに叩いた。
「何回も命を狙われるだなんて、そんなに危険なデータなんですか?」
「犯罪者の心理データなんだぞ! 恐らく、殺意などの負の感情が沢山詰め込められているハズだ」
ナカタニ氏の発言に少し引っかかる点があるのを俺は聞き逃さなかった。
「ん? 今、“恐らく”って言いました?」
「あぁ、私はそのデータを見ていないんだ。全て、スティーブに管理させていたからな。一度見ようとしたが、強固なプロテクトがかけられていて、見ることが出来なかった」
「ということは、どんな内容かも本当は分からないということですよね?」
「となると、データ目的じゃない可能性も出てく……」
「絶対そうに決まっている!」
ナカタニ氏はデータを狙ってスティーブ氏が襲われたのだと完全に思い込んでいた。
「頼む! データを探してくれ」
此処まで聞かされたところで逃げると、後から何をされるか分からないような気がしてきた。
渋々ではあるが、ナカタニ氏の依頼を引き受けることにした。
「分かりました。とりあえず、探してみます。史はスティーブ氏の意識が回復したら、俺に連絡してくれないか?」
「いいよー、任せなさい! じゃあ、俺は捜査に戻るねー」
そう言って、史は控え室を出て行った。
「さて、俺も失礼します。そうだ、見つかったらご連絡をしたいのですが」
「私の名刺を渡しておこう。ここへ連絡をくれ。あと、このことは内密にな」
そう言ってナカタニ氏は俺に名刺を差し出す。俺は受け取ると、スーツの内ポケットへと忍ばせた。
「それでは、失礼します」
そう言って、俺はナカタニ氏と別れた。
「ふぅ。酷い目にあった」
俺が第一会議室へ戻ると、懇談会は終了していて、残っている人は数人ほどになっていた。
「あ、おかえりー。ゲッソリしてるけど、何かあったのかい?」
親父が俺の疲れきった顔を見るなり、心配して声をかける。
「いや、別に」
俺は、例の件について愚痴を言いたかったが、ナカタニ氏に口止めをされているので、言える訳がない。
「ただ、また史にしつこく絡まれただけだよ」
咄嗟に、史を言い訳に使ってしまったのだが、強ち間違いじゃないよな?
「貴方たち仲が良いのねぇ」
ミエラさんはニコニコと微笑む。
「仲がよく見えるのなら、今すぐに眼科へ受診することをオススメします」
「あら、そうなの? どうしましょう。老眼がもう始まったのかしら?」
俺の言葉に目をきょとんとさせるミエラさん。横で親父が、『日本式の冗談だよ』と注釈を入れてあげると、ようやく理解したらしく、ミエラさんはクスッと笑った。
「懇談会も終わったし、父さんはミエラ教授を宿泊先まで送ってくるけど、神那もついてくるかい?」
「いや、俺は家に帰って寝る。慣れない場所だから疲れた」
俺は、親父に欠伸交じりにそう答えた。それに、帰ってからいろいろと調べなきゃいけない。スティーブ氏やナカタニ氏についての情報も必要そうだ。
ナカタニ氏の言動は、どうも引っかかる点が多すぎるのだ。何かを隠している可能性がある。
もしかすると、彼が……。
「何か考え事でもしているみたいだけど? 本当に大丈夫なの?」
そんな事を考えていると、ミエラさんがぬっと顔を近づけてくる。
「おわっ。何でもないですよ。ただ眠くなっただけです」
「そう? 私達は帰るけど、貴方も気をつけて帰るのよ?」
そう言って、ミエラさんと親父は、ミエラさんの宿泊先へと向かっていった。
「ナカタニ氏は日系三世なのか、にしては日本語ペラペラだったなぁ……」
俺は帰ってから、【テリトリー】でナカタニ氏とスティーブ氏についての情報を収集していた。
とはいっても、事件に関するようなモノは殆ど無く、更に階層を下げて探すことになりそうだけど、これ以降はゆっくり休んでからにした方が良さそうだ。また明日もラジオの生放送があるし、仕事に影響しても困る。
後は、史の連絡次第だなと考えた。
「どうせなら、学会参加者の名前でも検索して遊ぼうか」
そう思い立って、俺は、学会参加者の名前を検索するというお遊びを始めたのだが……、
「えっ?」
ある人物の検索結果で、俺は唖然となった。
控え室の椅子に俺たち三人は腰をかけ、俺は事のあらましを整理する。
万が一、人が入っては困るので、控え室のドアは施錠しておいた。
話を整理すると、
中年男性こと、ロボット技術者であるケン・ナカタニ氏は、犯罪心理学者のスティーブ・カンザス氏との共同研究で、アメリカの刑務所に配備予定の犯罪者のケアをする、AI搭載の看守ロボットを製作していた。
その看守の知能データとして、終身刑の犯罪者の精神心理データが使われる事となったが、その知能データが悪用されると、データの内容が内容だけに、兵器などにも転用可能になってしまう危険性があるらしく、スティーブ氏が大事にデータを持っていたらしい。
しかし、スティーブ氏が何者かに襲われ、彼が持っていたデータも消えた。
「恐らく、何者かがデータをスティーブが持っていることを知って、襲ったんだ。そうに違いない」
「うーん。そう考えるのがしっくりくるかもしれないのかなぁ?」
「問題は、本当にデータを狙っての犯行かどうかなんだよなぁ」
データ狙いと決め付けるのはまだ早い気がする。
「そうに決まっている! 過去にもデータを狙って何回か我々の命が狙われたことがあるんだ。今回だってきっとそうだ!」
ナカタニ氏はそう言って机を力任せに叩いた。
「何回も命を狙われるだなんて、そんなに危険なデータなんですか?」
「犯罪者の心理データなんだぞ! 恐らく、殺意などの負の感情が沢山詰め込められているハズだ」
ナカタニ氏の発言に少し引っかかる点があるのを俺は聞き逃さなかった。
「ん? 今、“恐らく”って言いました?」
「あぁ、私はそのデータを見ていないんだ。全て、スティーブに管理させていたからな。一度見ようとしたが、強固なプロテクトがかけられていて、見ることが出来なかった」
「ということは、どんな内容かも本当は分からないということですよね?」
「となると、データ目的じゃない可能性も出てく……」
「絶対そうに決まっている!」
ナカタニ氏はデータを狙ってスティーブ氏が襲われたのだと完全に思い込んでいた。
「頼む! データを探してくれ」
此処まで聞かされたところで逃げると、後から何をされるか分からないような気がしてきた。
渋々ではあるが、ナカタニ氏の依頼を引き受けることにした。
「分かりました。とりあえず、探してみます。史はスティーブ氏の意識が回復したら、俺に連絡してくれないか?」
「いいよー、任せなさい! じゃあ、俺は捜査に戻るねー」
そう言って、史は控え室を出て行った。
「さて、俺も失礼します。そうだ、見つかったらご連絡をしたいのですが」
「私の名刺を渡しておこう。ここへ連絡をくれ。あと、このことは内密にな」
そう言ってナカタニ氏は俺に名刺を差し出す。俺は受け取ると、スーツの内ポケットへと忍ばせた。
「それでは、失礼します」
そう言って、俺はナカタニ氏と別れた。
「ふぅ。酷い目にあった」
俺が第一会議室へ戻ると、懇談会は終了していて、残っている人は数人ほどになっていた。
「あ、おかえりー。ゲッソリしてるけど、何かあったのかい?」
親父が俺の疲れきった顔を見るなり、心配して声をかける。
「いや、別に」
俺は、例の件について愚痴を言いたかったが、ナカタニ氏に口止めをされているので、言える訳がない。
「ただ、また史にしつこく絡まれただけだよ」
咄嗟に、史を言い訳に使ってしまったのだが、強ち間違いじゃないよな?
「貴方たち仲が良いのねぇ」
ミエラさんはニコニコと微笑む。
「仲がよく見えるのなら、今すぐに眼科へ受診することをオススメします」
「あら、そうなの? どうしましょう。老眼がもう始まったのかしら?」
俺の言葉に目をきょとんとさせるミエラさん。横で親父が、『日本式の冗談だよ』と注釈を入れてあげると、ようやく理解したらしく、ミエラさんはクスッと笑った。
「懇談会も終わったし、父さんはミエラ教授を宿泊先まで送ってくるけど、神那もついてくるかい?」
「いや、俺は家に帰って寝る。慣れない場所だから疲れた」
俺は、親父に欠伸交じりにそう答えた。それに、帰ってからいろいろと調べなきゃいけない。スティーブ氏やナカタニ氏についての情報も必要そうだ。
ナカタニ氏の言動は、どうも引っかかる点が多すぎるのだ。何かを隠している可能性がある。
もしかすると、彼が……。
「何か考え事でもしているみたいだけど? 本当に大丈夫なの?」
そんな事を考えていると、ミエラさんがぬっと顔を近づけてくる。
「おわっ。何でもないですよ。ただ眠くなっただけです」
「そう? 私達は帰るけど、貴方も気をつけて帰るのよ?」
そう言って、ミエラさんと親父は、ミエラさんの宿泊先へと向かっていった。
「ナカタニ氏は日系三世なのか、にしては日本語ペラペラだったなぁ……」
俺は帰ってから、【テリトリー】でナカタニ氏とスティーブ氏についての情報を収集していた。
とはいっても、事件に関するようなモノは殆ど無く、更に階層を下げて探すことになりそうだけど、これ以降はゆっくり休んでからにした方が良さそうだ。また明日もラジオの生放送があるし、仕事に影響しても困る。
後は、史の連絡次第だなと考えた。
「どうせなら、学会参加者の名前でも検索して遊ぼうか」
そう思い立って、俺は、学会参加者の名前を検索するというお遊びを始めたのだが……、
「えっ?」
ある人物の検索結果で、俺は唖然となった。
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