22 / 34
消えたデータ編
その4
しおりを挟む
「話を整理しましょう」
控え室の椅子に俺たち三人は腰をかけ、俺は事のあらましを整理する。
万が一、人が入っては困るので、控え室のドアは施錠しておいた。
話を整理すると、
中年男性こと、ロボット技術者であるケン・ナカタニ氏は、犯罪心理学者のスティーブ・カンザス氏との共同研究で、アメリカの刑務所に配備予定の犯罪者のケアをする、AI搭載の看守ロボットを製作していた。
その看守の知能データとして、終身刑の犯罪者の精神心理データが使われる事となったが、その知能データが悪用されると、データの内容が内容だけに、兵器などにも転用可能になってしまう危険性があるらしく、スティーブ氏が大事にデータを持っていたらしい。
しかし、スティーブ氏が何者かに襲われ、彼が持っていたデータも消えた。
「恐らく、何者かがデータをスティーブが持っていることを知って、襲ったんだ。そうに違いない」
「うーん。そう考えるのがしっくりくるかもしれないのかなぁ?」
「問題は、本当にデータを狙っての犯行かどうかなんだよなぁ」
データ狙いと決め付けるのはまだ早い気がする。
「そうに決まっている! 過去にもデータを狙って何回か我々の命が狙われたことがあるんだ。今回だってきっとそうだ!」
ナカタニ氏はそう言って机を力任せに叩いた。
「何回も命を狙われるだなんて、そんなに危険なデータなんですか?」
「犯罪者の心理データなんだぞ! 恐らく、殺意などの負の感情が沢山詰め込められているハズだ」
ナカタニ氏の発言に少し引っかかる点があるのを俺は聞き逃さなかった。
「ん? 今、“恐らく”って言いました?」
「あぁ、私はそのデータを見ていないんだ。全て、スティーブに管理させていたからな。一度見ようとしたが、強固なプロテクトがかけられていて、見ることが出来なかった」
「ということは、どんな内容かも本当は分からないということですよね?」
「となると、データ目的じゃない可能性も出てく……」
「絶対そうに決まっている!」
ナカタニ氏はデータを狙ってスティーブ氏が襲われたのだと完全に思い込んでいた。
「頼む! データを探してくれ」
此処まで聞かされたところで逃げると、後から何をされるか分からないような気がしてきた。
渋々ではあるが、ナカタニ氏の依頼を引き受けることにした。
「分かりました。とりあえず、探してみます。史はスティーブ氏の意識が回復したら、俺に連絡してくれないか?」
「いいよー、任せなさい! じゃあ、俺は捜査に戻るねー」
そう言って、史は控え室を出て行った。
「さて、俺も失礼します。そうだ、見つかったらご連絡をしたいのですが」
「私の名刺を渡しておこう。ここへ連絡をくれ。あと、このことは内密にな」
そう言ってナカタニ氏は俺に名刺を差し出す。俺は受け取ると、スーツの内ポケットへと忍ばせた。
「それでは、失礼します」
そう言って、俺はナカタニ氏と別れた。
「ふぅ。酷い目にあった」
俺が第一会議室へ戻ると、懇談会は終了していて、残っている人は数人ほどになっていた。
「あ、おかえりー。ゲッソリしてるけど、何かあったのかい?」
親父が俺の疲れきった顔を見るなり、心配して声をかける。
「いや、別に」
俺は、例の件について愚痴を言いたかったが、ナカタニ氏に口止めをされているので、言える訳がない。
「ただ、また史にしつこく絡まれただけだよ」
咄嗟に、史を言い訳に使ってしまったのだが、強ち間違いじゃないよな?
「貴方たち仲が良いのねぇ」
ミエラさんはニコニコと微笑む。
「仲がよく見えるのなら、今すぐに眼科へ受診することをオススメします」
「あら、そうなの? どうしましょう。老眼がもう始まったのかしら?」
俺の言葉に目をきょとんとさせるミエラさん。横で親父が、『日本式の冗談だよ』と注釈を入れてあげると、ようやく理解したらしく、ミエラさんはクスッと笑った。
「懇談会も終わったし、父さんはミエラ教授を宿泊先まで送ってくるけど、神那もついてくるかい?」
「いや、俺は家に帰って寝る。慣れない場所だから疲れた」
俺は、親父に欠伸交じりにそう答えた。それに、帰ってからいろいろと調べなきゃいけない。スティーブ氏やナカタニ氏についての情報も必要そうだ。
ナカタニ氏の言動は、どうも引っかかる点が多すぎるのだ。何かを隠している可能性がある。
もしかすると、彼が……。
「何か考え事でもしているみたいだけど? 本当に大丈夫なの?」
そんな事を考えていると、ミエラさんがぬっと顔を近づけてくる。
「おわっ。何でもないですよ。ただ眠くなっただけです」
「そう? 私達は帰るけど、貴方も気をつけて帰るのよ?」
そう言って、ミエラさんと親父は、ミエラさんの宿泊先へと向かっていった。
「ナカタニ氏は日系三世なのか、にしては日本語ペラペラだったなぁ……」
俺は帰ってから、【テリトリー】でナカタニ氏とスティーブ氏についての情報を収集していた。
とはいっても、事件に関するようなモノは殆ど無く、更に階層を下げて探すことになりそうだけど、これ以降はゆっくり休んでからにした方が良さそうだ。また明日もラジオの生放送があるし、仕事に影響しても困る。
後は、史の連絡次第だなと考えた。
「どうせなら、学会参加者の名前でも検索して遊ぼうか」
そう思い立って、俺は、学会参加者の名前を検索するというお遊びを始めたのだが……、
「えっ?」
ある人物の検索結果で、俺は唖然となった。
控え室の椅子に俺たち三人は腰をかけ、俺は事のあらましを整理する。
万が一、人が入っては困るので、控え室のドアは施錠しておいた。
話を整理すると、
中年男性こと、ロボット技術者であるケン・ナカタニ氏は、犯罪心理学者のスティーブ・カンザス氏との共同研究で、アメリカの刑務所に配備予定の犯罪者のケアをする、AI搭載の看守ロボットを製作していた。
その看守の知能データとして、終身刑の犯罪者の精神心理データが使われる事となったが、その知能データが悪用されると、データの内容が内容だけに、兵器などにも転用可能になってしまう危険性があるらしく、スティーブ氏が大事にデータを持っていたらしい。
しかし、スティーブ氏が何者かに襲われ、彼が持っていたデータも消えた。
「恐らく、何者かがデータをスティーブが持っていることを知って、襲ったんだ。そうに違いない」
「うーん。そう考えるのがしっくりくるかもしれないのかなぁ?」
「問題は、本当にデータを狙っての犯行かどうかなんだよなぁ」
データ狙いと決め付けるのはまだ早い気がする。
「そうに決まっている! 過去にもデータを狙って何回か我々の命が狙われたことがあるんだ。今回だってきっとそうだ!」
ナカタニ氏はそう言って机を力任せに叩いた。
「何回も命を狙われるだなんて、そんなに危険なデータなんですか?」
「犯罪者の心理データなんだぞ! 恐らく、殺意などの負の感情が沢山詰め込められているハズだ」
ナカタニ氏の発言に少し引っかかる点があるのを俺は聞き逃さなかった。
「ん? 今、“恐らく”って言いました?」
「あぁ、私はそのデータを見ていないんだ。全て、スティーブに管理させていたからな。一度見ようとしたが、強固なプロテクトがかけられていて、見ることが出来なかった」
「ということは、どんな内容かも本当は分からないということですよね?」
「となると、データ目的じゃない可能性も出てく……」
「絶対そうに決まっている!」
ナカタニ氏はデータを狙ってスティーブ氏が襲われたのだと完全に思い込んでいた。
「頼む! データを探してくれ」
此処まで聞かされたところで逃げると、後から何をされるか分からないような気がしてきた。
渋々ではあるが、ナカタニ氏の依頼を引き受けることにした。
「分かりました。とりあえず、探してみます。史はスティーブ氏の意識が回復したら、俺に連絡してくれないか?」
「いいよー、任せなさい! じゃあ、俺は捜査に戻るねー」
そう言って、史は控え室を出て行った。
「さて、俺も失礼します。そうだ、見つかったらご連絡をしたいのですが」
「私の名刺を渡しておこう。ここへ連絡をくれ。あと、このことは内密にな」
そう言ってナカタニ氏は俺に名刺を差し出す。俺は受け取ると、スーツの内ポケットへと忍ばせた。
「それでは、失礼します」
そう言って、俺はナカタニ氏と別れた。
「ふぅ。酷い目にあった」
俺が第一会議室へ戻ると、懇談会は終了していて、残っている人は数人ほどになっていた。
「あ、おかえりー。ゲッソリしてるけど、何かあったのかい?」
親父が俺の疲れきった顔を見るなり、心配して声をかける。
「いや、別に」
俺は、例の件について愚痴を言いたかったが、ナカタニ氏に口止めをされているので、言える訳がない。
「ただ、また史にしつこく絡まれただけだよ」
咄嗟に、史を言い訳に使ってしまったのだが、強ち間違いじゃないよな?
「貴方たち仲が良いのねぇ」
ミエラさんはニコニコと微笑む。
「仲がよく見えるのなら、今すぐに眼科へ受診することをオススメします」
「あら、そうなの? どうしましょう。老眼がもう始まったのかしら?」
俺の言葉に目をきょとんとさせるミエラさん。横で親父が、『日本式の冗談だよ』と注釈を入れてあげると、ようやく理解したらしく、ミエラさんはクスッと笑った。
「懇談会も終わったし、父さんはミエラ教授を宿泊先まで送ってくるけど、神那もついてくるかい?」
「いや、俺は家に帰って寝る。慣れない場所だから疲れた」
俺は、親父に欠伸交じりにそう答えた。それに、帰ってからいろいろと調べなきゃいけない。スティーブ氏やナカタニ氏についての情報も必要そうだ。
ナカタニ氏の言動は、どうも引っかかる点が多すぎるのだ。何かを隠している可能性がある。
もしかすると、彼が……。
「何か考え事でもしているみたいだけど? 本当に大丈夫なの?」
そんな事を考えていると、ミエラさんがぬっと顔を近づけてくる。
「おわっ。何でもないですよ。ただ眠くなっただけです」
「そう? 私達は帰るけど、貴方も気をつけて帰るのよ?」
そう言って、ミエラさんと親父は、ミエラさんの宿泊先へと向かっていった。
「ナカタニ氏は日系三世なのか、にしては日本語ペラペラだったなぁ……」
俺は帰ってから、【テリトリー】でナカタニ氏とスティーブ氏についての情報を収集していた。
とはいっても、事件に関するようなモノは殆ど無く、更に階層を下げて探すことになりそうだけど、これ以降はゆっくり休んでからにした方が良さそうだ。また明日もラジオの生放送があるし、仕事に影響しても困る。
後は、史の連絡次第だなと考えた。
「どうせなら、学会参加者の名前でも検索して遊ぼうか」
そう思い立って、俺は、学会参加者の名前を検索するというお遊びを始めたのだが……、
「えっ?」
ある人物の検索結果で、俺は唖然となった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
薬師シェンリュと見習い少女メイリンの後宮事件簿
安珠あんこ
キャラ文芸
大国ルーの後宮の中にある診療所を営む宦官の薬師シェンリュと、見習い少女のメイリンは、後宮の内外で起こる様々な事件を、薬師の知識を使って解決していきます。
しかし、シェンリュには裏の顔があって──。
彼が極秘に進めている計画とは?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


言霊の手記
かざみはら まなか
ミステリー
探偵は、中学一年生女子。
依頼人は、こっそりひっそりとSOSを出した女子中学生。
『ある公立中学校の校門前から中学一年生女子が消息をたった。
その中学校では、校門前に監視カメラをつける要望が生徒と保護者から相次いでいたが、周辺住民の反対で頓挫した。』
という旨が書いてある手記は。
私立中学校に通う中学一年生女子の大蔵奈美の手に渡った。
中学一年生の奈美は、同じく中学一年生の少女萃(すい)と透雲(とおも)と一緒に手記の謎を解き明かす。
人目を忍んで発信された、知らない中学校に通う女子中学生からのSOSだ。
奈美、萃、透雲は、助けを求めるSOSを出した女子中学生を助けると決めた。
奈美:私立中学校
萃:私立中学校
透雲:公立中学校
依頼人の女子中学生:公立中学校
中学一年生女子は、依頼人も探偵も、全員、別々の中学校に通っている。
それぞれ、家族関係で問題を抱えている。
手記にまつわる問題と中学一年生女子の家族の問題を軸に展開。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける
緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。
中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。
龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。
だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。
それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。
そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。
黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。
道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる