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消えたデータ編
その2
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「なぁ、お願いだよー。父さんの命と仕事どっちが大事なんだよー」
涙交じりで親父は俺に擦り寄ってくる。
「学会で命が狙われるってどんな状況だよ。まさか、国家の今後を左右する重大な研究をしていて、その研究を狙ってとかか?」
「いや、父さんの研究は、ロボの動きを滑らかにする研究だから、国家機密になるもんじゃないぞー」
親父はドヤ顔で答える。
「じゃあ、一体なんで命を狙われているんだよ」
俺の質問に、親父はチラチラと落ち着かない様子で俺を見る。
「怒らない?」
親父は怯えながら俺を見る。
「俺が怒るようなことなのか……、場合によりけりだな」
「えっとね、父さんね、神那があまりにも可愛すぎてね、神那の可愛らしさをね、研究室中に自慢して回ったんだ。そしたらね、一緒に研究している教授がね、『そんなに可愛いのなら連れてきて吟味してやろうじゃないか』と言ってきてね、『今度の学会の時に連れてこなかったらコロス』とも言い放ったからね、神那を連れて来ないとヤバイのですよ」
幼児のようにたどたどしく話す親父に段々と腹が立ってきた。
「よーし、親父。俺は行かないからそのまま始末されて来い。一生帰ってくるな!」
「そんなぁ! お願いだよ、かんなぁー」
「まぁまぁ、神那はお父さんの顔を立てると思って付いていってあげなさい。お父さんも、神那に無理なお願いは今度からしないこと」
「ちぇっ。分かったよ。一回きりだからな!」
「おー!ありがとう神那―! 母さんもありがとう。やっぱり、頼れる人は母さんだけだよー」
お袋の仲裁に、親父は大喜びしていたが、俺はなんだか煮え切らない感じだった。
「その学会っていつから始まるんだよ」
「明日からだよー。ちゃんと、神那の分の衣装も用意しているんだー」
親父は持って帰ったスーツケースからなにやら大きな袋を取り出す。その袋の中から出てきたのは……、
ダークブルー色の女性モノのスーツだった。
「親父、歯を食いしばれよ」
俺は真顔で親父の顔に向けて拳を構える。
「嘘です! 冗談です! こっちが本物です」
あまりの俺の殺気に、親父は冷や汗を流しながら、別の袋を取り出した。
先ほど取り出した女性モノと同色の男性モノのスーツ。
「こっちの方を着て欲しかったんだけどなぁ」
親父は残念そうな声で、女性モノの方を再び袋に入れなおした。
「そっち着させようものなら、親父とは一生話さないから」
「えぇっ!?」
「ところで、学会は明日とか言ったな。明日は満腹中枢大爆破の生放送と、ナレーションの仕事があるから、行けるとしたら15時になるけれど、いいのか?」
満腹中枢大爆破は正午から13時までの生放送。それに明日は、ラジオコマーシャルのナレーション依頼が三件ほど入っていた。それをこなして会場へ向かうとなると、15時くらいになってしまう。
「その時間だと、学会のメインは終わって、懇談会の時間帯だから大丈夫。神那、本当にありがとー!」
親父は嬉しさのあまり、俺に強く抱きついた。
「痛い痛い、肩が外れる!」
親父を引き剥がすのに結構な時間を要したのは言うまでも無い。
翌日。俺は、手際よく仕事を片付けて、親父に手渡されたスーツをラジオ局の控え室で着替え、会場へと向かう。
途中、局内で放送作家の白樺鬼軍曹と遭遇し、滅多にない俺のスーツ姿を珍しがって、いじってきたが、時間が無いので適当にあしらって局を出た。
上箕島文化交流会館に到着し、警備員に学会の関係者証を見せると、第一会議室へと案内された。
そこでは、数十人の人間がいくつかのグループに分かれて、様々な言語で談笑をしていた。
さすが国際的な学会。ニュースに出てくるような技術者もちらほらと見受けられた。
「おーい。神那こっちだー!」
俺が辺りを見回して親父を探していると、親父がピョンピョンと跳ねながら俺の名前を呼ぶ。
親父の隣には、モデル体型で長いブロンドヘヤーの女性がいた。
俺が親父の下へ来るなり、何やらペラペラと二人で話していた。
親父はアメリカ暮らしが長いから英語は得意だが、俺は英語なんて挨拶程度しか話せない。だから、二人の言っていることがさっぱり分からなかった。
「神那、この人が父さんと一緒に大学で研究をしている、ミエラ・ジョンソン教授だ」
親父からミエラさんが紹介されると、ミエラさんは蒼い目を丸々とさせる。
「Kanna! I’m glad to meet you. You are prettier than a rumor!」
「さ、サンキュー」
ネイティブな英語が聞き取れず、とりあえず、日本語発音丸出しの英語で返すしかなかった。
「神那にはまだネイディブの速さは聞き取りにくいか。どうだ。父さんが通訳してあげようかぁ?」
「結構です」
「また、即答!!」
親父の世話になるなんて絶対に御免だ。そんなことを思いながら俺はスマホを取り出し、【テリトリー】を起動させる。
そして、スマホをミエラさんの方に向けた。
「What?」
すると、スマホから『何?』という機械的な音声が流れる。
「す、凄いわ。自動で通訳してくれるのね」
「神那凄いな、いつの間に作ったんだい?」
親父とミエラさんは【テリトリー】の自動通訳機能に目を爛々と輝かせていた。
「暇つぶしに、インターネットの自動翻訳機能をちょいと拝借して、音声を文字に変換したものを翻訳して、通訳出来ないかと思ったんだよ。まだ、試作段階だけど」
音声検索機能を追加したときに、通訳も出来るんじゃないかと思い作った。しかし、まだ対応してない言語もあって、試作段階なのだ。
「あなたの息子さんって可愛いだけじゃなくて、頭もいいのね。是非、私達の研究室へ来て欲しいわ」
「え、嫌です。だって、面倒くさいし」
「そう、残念だわ」
ミエラさんが残念そうな顔をした、その時、
「誰か救急車を呼んでくれ! 外で、ひ、人が……倒れてる」
会議室の扉がいきなり開いて、白髪の男性が息も切れ切れで飛び込んできた。
突然のことに辺りは騒然となる。
俺は急いで【テリトリー】を終了し、電話をかけながら、その男性のところへと行く。
「倒れている男性は何処ですか?」
「あ、あそこだ」
男性が指先を震わせながら指差した先には、
廊下で、頭から血を流した男性が横たわっていた。
涙交じりで親父は俺に擦り寄ってくる。
「学会で命が狙われるってどんな状況だよ。まさか、国家の今後を左右する重大な研究をしていて、その研究を狙ってとかか?」
「いや、父さんの研究は、ロボの動きを滑らかにする研究だから、国家機密になるもんじゃないぞー」
親父はドヤ顔で答える。
「じゃあ、一体なんで命を狙われているんだよ」
俺の質問に、親父はチラチラと落ち着かない様子で俺を見る。
「怒らない?」
親父は怯えながら俺を見る。
「俺が怒るようなことなのか……、場合によりけりだな」
「えっとね、父さんね、神那があまりにも可愛すぎてね、神那の可愛らしさをね、研究室中に自慢して回ったんだ。そしたらね、一緒に研究している教授がね、『そんなに可愛いのなら連れてきて吟味してやろうじゃないか』と言ってきてね、『今度の学会の時に連れてこなかったらコロス』とも言い放ったからね、神那を連れて来ないとヤバイのですよ」
幼児のようにたどたどしく話す親父に段々と腹が立ってきた。
「よーし、親父。俺は行かないからそのまま始末されて来い。一生帰ってくるな!」
「そんなぁ! お願いだよ、かんなぁー」
「まぁまぁ、神那はお父さんの顔を立てると思って付いていってあげなさい。お父さんも、神那に無理なお願いは今度からしないこと」
「ちぇっ。分かったよ。一回きりだからな!」
「おー!ありがとう神那―! 母さんもありがとう。やっぱり、頼れる人は母さんだけだよー」
お袋の仲裁に、親父は大喜びしていたが、俺はなんだか煮え切らない感じだった。
「その学会っていつから始まるんだよ」
「明日からだよー。ちゃんと、神那の分の衣装も用意しているんだー」
親父は持って帰ったスーツケースからなにやら大きな袋を取り出す。その袋の中から出てきたのは……、
ダークブルー色の女性モノのスーツだった。
「親父、歯を食いしばれよ」
俺は真顔で親父の顔に向けて拳を構える。
「嘘です! 冗談です! こっちが本物です」
あまりの俺の殺気に、親父は冷や汗を流しながら、別の袋を取り出した。
先ほど取り出した女性モノと同色の男性モノのスーツ。
「こっちの方を着て欲しかったんだけどなぁ」
親父は残念そうな声で、女性モノの方を再び袋に入れなおした。
「そっち着させようものなら、親父とは一生話さないから」
「えぇっ!?」
「ところで、学会は明日とか言ったな。明日は満腹中枢大爆破の生放送と、ナレーションの仕事があるから、行けるとしたら15時になるけれど、いいのか?」
満腹中枢大爆破は正午から13時までの生放送。それに明日は、ラジオコマーシャルのナレーション依頼が三件ほど入っていた。それをこなして会場へ向かうとなると、15時くらいになってしまう。
「その時間だと、学会のメインは終わって、懇談会の時間帯だから大丈夫。神那、本当にありがとー!」
親父は嬉しさのあまり、俺に強く抱きついた。
「痛い痛い、肩が外れる!」
親父を引き剥がすのに結構な時間を要したのは言うまでも無い。
翌日。俺は、手際よく仕事を片付けて、親父に手渡されたスーツをラジオ局の控え室で着替え、会場へと向かう。
途中、局内で放送作家の白樺鬼軍曹と遭遇し、滅多にない俺のスーツ姿を珍しがって、いじってきたが、時間が無いので適当にあしらって局を出た。
上箕島文化交流会館に到着し、警備員に学会の関係者証を見せると、第一会議室へと案内された。
そこでは、数十人の人間がいくつかのグループに分かれて、様々な言語で談笑をしていた。
さすが国際的な学会。ニュースに出てくるような技術者もちらほらと見受けられた。
「おーい。神那こっちだー!」
俺が辺りを見回して親父を探していると、親父がピョンピョンと跳ねながら俺の名前を呼ぶ。
親父の隣には、モデル体型で長いブロンドヘヤーの女性がいた。
俺が親父の下へ来るなり、何やらペラペラと二人で話していた。
親父はアメリカ暮らしが長いから英語は得意だが、俺は英語なんて挨拶程度しか話せない。だから、二人の言っていることがさっぱり分からなかった。
「神那、この人が父さんと一緒に大学で研究をしている、ミエラ・ジョンソン教授だ」
親父からミエラさんが紹介されると、ミエラさんは蒼い目を丸々とさせる。
「Kanna! I’m glad to meet you. You are prettier than a rumor!」
「さ、サンキュー」
ネイティブな英語が聞き取れず、とりあえず、日本語発音丸出しの英語で返すしかなかった。
「神那にはまだネイディブの速さは聞き取りにくいか。どうだ。父さんが通訳してあげようかぁ?」
「結構です」
「また、即答!!」
親父の世話になるなんて絶対に御免だ。そんなことを思いながら俺はスマホを取り出し、【テリトリー】を起動させる。
そして、スマホをミエラさんの方に向けた。
「What?」
すると、スマホから『何?』という機械的な音声が流れる。
「す、凄いわ。自動で通訳してくれるのね」
「神那凄いな、いつの間に作ったんだい?」
親父とミエラさんは【テリトリー】の自動通訳機能に目を爛々と輝かせていた。
「暇つぶしに、インターネットの自動翻訳機能をちょいと拝借して、音声を文字に変換したものを翻訳して、通訳出来ないかと思ったんだよ。まだ、試作段階だけど」
音声検索機能を追加したときに、通訳も出来るんじゃないかと思い作った。しかし、まだ対応してない言語もあって、試作段階なのだ。
「あなたの息子さんって可愛いだけじゃなくて、頭もいいのね。是非、私達の研究室へ来て欲しいわ」
「え、嫌です。だって、面倒くさいし」
「そう、残念だわ」
ミエラさんが残念そうな顔をした、その時、
「誰か救急車を呼んでくれ! 外で、ひ、人が……倒れてる」
会議室の扉がいきなり開いて、白髪の男性が息も切れ切れで飛び込んできた。
突然のことに辺りは騒然となる。
俺は急いで【テリトリー】を終了し、電話をかけながら、その男性のところへと行く。
「倒れている男性は何処ですか?」
「あ、あそこだ」
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