15 / 34
トレジャーハント編
その4
しおりを挟む
「夕方に竹林の方へ行くって言って帰ってきてないんです!」
女性は目に涙を浮かばせながらそう語った。
「こんな時間になっても帰ってこなくて、心配で皆で探したんですけど、見つからなくって。もしかしてコチラにお邪魔しているんじゃないかと思って……」
「カンちゃん、どうしたの?」
ようやくソファから出てきた史がやってきた。
「どうやら竹林方向へ行って来ると言ったまま帰ってこないらしい」
「えっ! そりゃ大変だよ。捜しに行こう」
史はそう言うと、懐中電灯を自分の荷物から取り出して外へ出ようとするが、靴に履き終えて俺をまじまじと見つめてきた。
「何だ?」
「カンちゃん。怪談話していたおかげで夜道怖い。ついて来て」
史はそう言って俺の袖を引っ張る。
「……誰だよ、怪談話しようって言った奴は」
大事なことなので同じ注意をする。
「お願いします、一緒に捜してください!」
「私からもお願いします」
「確かにこんな時間まで帰ってこないとなると心配だし、捜すか。ただし、もうこんな時間だ、竹林を捜すとさらに行方不明者が出るかもしれない。とりあえずはロッジ周辺だけにしよう」
「それで大丈夫です」
俺の提案に女性も承諾した。
「ありがとうございます。えっと……」
「神那です。こっちは史といいます」
「ありがとうございます。神那さん、史さん。私、緑化栄子(りょっかえいこ)です」
緑化栄子と名乗った女性は俺らに軽く会釈をする。
「とりあえず捜そうよ。居なくなった男性の名前を教えていただきますか?」
「谷崎翔(たにざきかける)です」
「谷崎さんですねー。了解―」
史はそう言って一目散に外へと駆け出した。緑化さんもその後を追う。
今さっきまで怖いからついて来てと言っていた奴には到底思えなかった。
「このまま史を放っておいてもいい気がしてきた」
「いや、そこは捜してあげようよカンナ兄。俺も行こうか?」
いつの間にかチトセも外にでる準備を整えて玄関へとやって来ていた。
「チトセはここで待機してくれ。すぐに戻ってくるとは思うけど、何か起こった場合は対処できるようにしたいし」
「分かった。気をつけてね」
チトセに見送られて俺は外を出た。
***
外に出ると、史と緑化さんの他にもう一人男性が居た。
彼も良く見ると昼ごろにおじさんに追いかけられていた一人だった。
「どうも。福島羽流(ふくしまはる)です」
彼は聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で自己紹介をする。
「よーし、このメンバーでロッジ周辺を捜すぞー!」
おー!っと史は一人だけ張り切って拳をあげた。
「史、そんなに元気なら俺居なくてもいいよね?」
「えっ!? 駄目駄目、絶対に居ないと駄目!」
はいはい、と俺は呆れてため息が漏れる中、谷崎さんの捜索が始まった。
***
――一時間経っても結局、谷崎さんは見つからなかった。
もう、時間も時間なので捜索を切り上げ、明日また捜そうということで意見がまとまり、解散となった。
「見つからないなんて。まさか神隠しに?」
ロッジに戻ってチトセが淹れてくれたコーヒーを飲みながら史が口を開く。
「まさか。俺の予想だと竹林に入ったけどおじいさんに追いかけられて、何処かで隠れているんじゃないか?」
「可能性はあるね」
チトセは俺の意見に同意しながらコーヒーをすする。
「明日、お宝探しするついでに人捜しだね」
史は、そう明日に向けて意気込む。
「がんばれー。明るい時間帯は史一人でも大丈夫だろ? 俺はここで待機―」
「やっぱり!? いいもん、一人で捜すよーだ。コーヒーご馳走様。俺は寝るよ!」
史は飲んでいたマグカップを置き、寝室へと歩いていった。
***
翌朝。軽く朝食を済ませて、史はお宝と人捜しに元気に出て行った。
そんな昼下がり、俺はチトセと一緒に作業部屋に篭もり、チトセは楽曲製作、俺は【テリトリー】で何か面白いものはないかとネットサーフィンをしていた。
「そういえば、聞いてよカンナ兄。俺、“ノイサン”に出演が決まったんだよ」
“ノイサン”、Noisy Sounds Fes。FM上箕島が主催で開催している。夏の音楽フェスのことだ。
このフェスには人気ミュージシャンが多数出演することで有名で、このフェスにオファーがかかること=人気が確立されていることを意味している。
「へぇ。良かったじゃん。というかまだアーティスト発表されてないけど、俺に言ってもいいのか?」
「カンナ兄だから言ったんだよ。一応FM上箕島の関係者だし、どうせ面倒臭がって誰にも喋らないだろ?」
「確かに」
俺はパソコンから目を晒さずにそう答えた。
「ところで、カンナ兄は何見てるの?」
チトセがオフェスチェアごとゴロゴロ移動しながら俺のパソコン画面を覗く。
「……強盗事件?」
画面には【テリトリー】で調べた上箕島市近郊強盗事件の検索結果が映し出されていた。
「山にお宝を隠されているとしたら、どんなものが隠されているのかなぁと思って」
「カンナ兄もやっぱりお宝気になってるんじゃん」
チトセは冷ややかな視線を俺に向けた。
「別に気になっているわけじゃない。ってか、暗号の答えが分かったから何となくお宝も予想できるし」
「えっ!? そうなの? カンナ兄教えて!」
「仕方ないなぁ。史には教える気はないけど、チトセには教えようか」
俺がチトセに暗号の答えを耳打ちで教える。
「……それがお宝?」
「多分なー」
「なーんだ。どうせなら未解決の強盗事件の盗品とかが埋まっているとかだったら面白いのに」
チトセは少しつまらなそうに、再び作業に戻った。
「確かに山には隠しやすそうだよな。しかも、神隠しの噂のある場所なら尚更だ」
俺はそう呟きながら、ある新聞記事を見ていた。
俺とチトセは夕方まで作業部屋に篭もって、ダラダラしていた。
一方、史はというと……。
――深夜を過ぎても戻ってくることはなかった。
女性は目に涙を浮かばせながらそう語った。
「こんな時間になっても帰ってこなくて、心配で皆で探したんですけど、見つからなくって。もしかしてコチラにお邪魔しているんじゃないかと思って……」
「カンちゃん、どうしたの?」
ようやくソファから出てきた史がやってきた。
「どうやら竹林方向へ行って来ると言ったまま帰ってこないらしい」
「えっ! そりゃ大変だよ。捜しに行こう」
史はそう言うと、懐中電灯を自分の荷物から取り出して外へ出ようとするが、靴に履き終えて俺をまじまじと見つめてきた。
「何だ?」
「カンちゃん。怪談話していたおかげで夜道怖い。ついて来て」
史はそう言って俺の袖を引っ張る。
「……誰だよ、怪談話しようって言った奴は」
大事なことなので同じ注意をする。
「お願いします、一緒に捜してください!」
「私からもお願いします」
「確かにこんな時間まで帰ってこないとなると心配だし、捜すか。ただし、もうこんな時間だ、竹林を捜すとさらに行方不明者が出るかもしれない。とりあえずはロッジ周辺だけにしよう」
「それで大丈夫です」
俺の提案に女性も承諾した。
「ありがとうございます。えっと……」
「神那です。こっちは史といいます」
「ありがとうございます。神那さん、史さん。私、緑化栄子(りょっかえいこ)です」
緑化栄子と名乗った女性は俺らに軽く会釈をする。
「とりあえず捜そうよ。居なくなった男性の名前を教えていただきますか?」
「谷崎翔(たにざきかける)です」
「谷崎さんですねー。了解―」
史はそう言って一目散に外へと駆け出した。緑化さんもその後を追う。
今さっきまで怖いからついて来てと言っていた奴には到底思えなかった。
「このまま史を放っておいてもいい気がしてきた」
「いや、そこは捜してあげようよカンナ兄。俺も行こうか?」
いつの間にかチトセも外にでる準備を整えて玄関へとやって来ていた。
「チトセはここで待機してくれ。すぐに戻ってくるとは思うけど、何か起こった場合は対処できるようにしたいし」
「分かった。気をつけてね」
チトセに見送られて俺は外を出た。
***
外に出ると、史と緑化さんの他にもう一人男性が居た。
彼も良く見ると昼ごろにおじさんに追いかけられていた一人だった。
「どうも。福島羽流(ふくしまはる)です」
彼は聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で自己紹介をする。
「よーし、このメンバーでロッジ周辺を捜すぞー!」
おー!っと史は一人だけ張り切って拳をあげた。
「史、そんなに元気なら俺居なくてもいいよね?」
「えっ!? 駄目駄目、絶対に居ないと駄目!」
はいはい、と俺は呆れてため息が漏れる中、谷崎さんの捜索が始まった。
***
――一時間経っても結局、谷崎さんは見つからなかった。
もう、時間も時間なので捜索を切り上げ、明日また捜そうということで意見がまとまり、解散となった。
「見つからないなんて。まさか神隠しに?」
ロッジに戻ってチトセが淹れてくれたコーヒーを飲みながら史が口を開く。
「まさか。俺の予想だと竹林に入ったけどおじいさんに追いかけられて、何処かで隠れているんじゃないか?」
「可能性はあるね」
チトセは俺の意見に同意しながらコーヒーをすする。
「明日、お宝探しするついでに人捜しだね」
史は、そう明日に向けて意気込む。
「がんばれー。明るい時間帯は史一人でも大丈夫だろ? 俺はここで待機―」
「やっぱり!? いいもん、一人で捜すよーだ。コーヒーご馳走様。俺は寝るよ!」
史は飲んでいたマグカップを置き、寝室へと歩いていった。
***
翌朝。軽く朝食を済ませて、史はお宝と人捜しに元気に出て行った。
そんな昼下がり、俺はチトセと一緒に作業部屋に篭もり、チトセは楽曲製作、俺は【テリトリー】で何か面白いものはないかとネットサーフィンをしていた。
「そういえば、聞いてよカンナ兄。俺、“ノイサン”に出演が決まったんだよ」
“ノイサン”、Noisy Sounds Fes。FM上箕島が主催で開催している。夏の音楽フェスのことだ。
このフェスには人気ミュージシャンが多数出演することで有名で、このフェスにオファーがかかること=人気が確立されていることを意味している。
「へぇ。良かったじゃん。というかまだアーティスト発表されてないけど、俺に言ってもいいのか?」
「カンナ兄だから言ったんだよ。一応FM上箕島の関係者だし、どうせ面倒臭がって誰にも喋らないだろ?」
「確かに」
俺はパソコンから目を晒さずにそう答えた。
「ところで、カンナ兄は何見てるの?」
チトセがオフェスチェアごとゴロゴロ移動しながら俺のパソコン画面を覗く。
「……強盗事件?」
画面には【テリトリー】で調べた上箕島市近郊強盗事件の検索結果が映し出されていた。
「山にお宝を隠されているとしたら、どんなものが隠されているのかなぁと思って」
「カンナ兄もやっぱりお宝気になってるんじゃん」
チトセは冷ややかな視線を俺に向けた。
「別に気になっているわけじゃない。ってか、暗号の答えが分かったから何となくお宝も予想できるし」
「えっ!? そうなの? カンナ兄教えて!」
「仕方ないなぁ。史には教える気はないけど、チトセには教えようか」
俺がチトセに暗号の答えを耳打ちで教える。
「……それがお宝?」
「多分なー」
「なーんだ。どうせなら未解決の強盗事件の盗品とかが埋まっているとかだったら面白いのに」
チトセは少しつまらなそうに、再び作業に戻った。
「確かに山には隠しやすそうだよな。しかも、神隠しの噂のある場所なら尚更だ」
俺はそう呟きながら、ある新聞記事を見ていた。
俺とチトセは夕方まで作業部屋に篭もって、ダラダラしていた。
一方、史はというと……。
――深夜を過ぎても戻ってくることはなかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
薬師シェンリュと見習い少女メイリンの後宮事件簿
安珠あんこ
キャラ文芸
大国ルーの後宮の中にある診療所を営む宦官の薬師シェンリュと、見習い少女のメイリンは、後宮の内外で起こる様々な事件を、薬師の知識を使って解決していきます。
しかし、シェンリュには裏の顔があって──。
彼が極秘に進めている計画とは?

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける
緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。
中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。
龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。
だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。
それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。
そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。
黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。
道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!


下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
みちのく銀山温泉
沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました!
2019年7月11日、書籍化されました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる