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トレジャーハント編

その2

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「山だ! キャンプだ! おったからだー!」

 黒石山の別荘地。史の煩い叫び声が山中を木霊した。

「朝からテンション高すぎるだろ。迷惑だぞ」

 俺はそんな史を見て頭を抱える。

「えへへー、嬉しくてつい。それにしても、カンちゃんの知り合いに黒石山に別荘持っている人が本当に居るなんて思わなかったよ」

 史のテンションはまだ冷めないようで、重たい荷物を背負っているのにも関わらず、スキップをしていた。

「前にも言ったように、アイツの親は子供に投資を惜しまないからなぁ。溺愛しているというか。そう言っている間に着いたぞ」

 俺たちの前にロッジが見えた。丸太で作られた結構がっしりとした造りのロッジで、周りのと見比べても少々出している金額が違うように思えた。

「ほえー。でけー!」
「たしかにデカイな、アイツ専用には広すぎるだろ」
「えっ、専用なの!」

 俺ら二人はロッジの大きさに唖然としていると、ロッジの中から声が聞こえた。

「俺も広すぎるって言ったのに、父さんが話を聞かないからこうなった」

 ロッジからそう言って出てきたのは、茶髪でオレンジ色の目をした、まだ少年のあどけなさも残る青年だった。

「チトセ。会うのは久々だな」
「カンナ兄(にぃ)、おひさー。いきなり別荘持ってるかって電話かかってきた時はビックリしたよ。まぁ、立ち話もなんだし、入ってよ」

 チトセはそう言って俺らをロッジへ招き入れた。
 ロッジの中も結構広く、色んな設備が整っていた。

「ここで一生暮らせそうだねぇ」

 史は落ち着かぬ様子でキョロキョロと周りを見回していた。

「史、お前は子供か。あーっと、チトセには紹介が遅れたな。この落ち着きの無い奴が長月史、こう見えても刑事という信じられない事実が」
「信じられないって失敬なー」

 俺の紹介に史が不満を漏らすが、そんなことは無視をして史にチトセの紹介をする。

「で、コイツが桜木千年(さくらぎちとせ)。俺の従弟でミュージシャンだ」

 チトセは紹介されてどうもーと頭を下げた。

「へぇ、ミュージシャンなのかー。ん? チトセって名前何処かで聞いたことのあるような……」

 史はチトセの名前に聞き覚えがあるらしく、考え始める。

「そりゃ聞いたことあるだろうな。満腹中枢大爆破のゲストで呼んだことあるし、出した曲も最近ランキング上位だし」
「え? チトセくんってもしかして“Chitose”?」
「そうですけど?」
「嘘っ! 俺、めっちゃ曲好きなんですけど!!!!!! サイン頂戴!!!!」

 史は嬉しさのあまり、ぴょんぴょんと跳ね回りながらサインをチトセに強請る。
 チトセは『Chitose』という芸名で曲を出しているシンガーソングライターだ。最近では歌詞に共感が持てるとティーンズの間から人気で、曲を出すたびにランキングの上位に入る注目株としてメディアで取り上げられている。

「全く、史ときたら。ごめんなチトセ、そろそろ新曲出す忙しい時期だというのにいきなり呼んじゃって」
「カンナ兄の頼みだし、別にいいよ。それに、丁度ココを使おうとしてたし。曲の製作に必要な機材はココに全部置いているから」
「どれだけハイスペックな別荘なんだよここは……」
「親が白熱しちゃってね……、俺は別にいいって言ったのに」

 チトセの親にお金の使い方が間違っていることを小一時間問い詰めたい気持ちになったが、それをぐっと堪えて、俺はチトセに今日来た目的を伝えた。

「黒石山のお宝伝説? あー、だから最近別荘で泊まる人多いんだ。」

 チトセはどうやら心当たりがあるらしく、自分で納得をしていた。

「そんなに多いの!? どうしよ、カンちゃん。先越されちゃうよー」

 史は涙目で俺に訴えかけてくる。

「暗号が難しくて今のところ解かれて無いんだろ? そんなに直ぐに宝なんて発見されないと思うから安心しろって」
「でもぉ……、時間の問題じゃない?」
「それもそうか……」
「暗号をもし解いたとしても、お宝捜索するのは難しいと思いますよ?」

 涙目の史をチトセがそう言って慰める。

「チトセくん、それってどういう意味なんだい?」
「この別荘から北に数分歩いていくと竹林があるんだけど、そこに怖いおじさんが居るんです。それで、竹林に入ろうとした奴は怒鳴って追い出すから、皆渋々捜索を諦めているみたいですよ」

 チトセの説明に史はほぅほぅと頷いて聞いていた。

「つまり、そのおじさんを懐柔させればいいんだね! 任せて、こういう時こそ警察の力を見せる時だよね!」
「いやいや、国家権力を行使したらダメだろ。常識的に」

 そんな事を言っている時、外から大きな怒鳴り声が聞こえた。


「お前ら竹林には近寄るなと言っただろ!神隠しにあっても知らんぞ!」


 その怒鳴り声に俺たちがロッジの窓から外を見ると、六十代くらいの男性一人と若い男女が三人、押し問答をしていた。

「なんだよこの爺さん」
「そうよ、神隠しなんて意味わかんない。私たちは散策していただけよ」
「どうせ、お前らお宝伝説に釣られたのじゃろ。そんなものは無い、とっととここから去れ!」

 そう言って男性は若い男女に向けて塩を撒いた。

「うわっ、何すんだよ」
「……」
「逃げろ!」

 若い男女は走って自分たちのロッジと思われるところに避難していった。
 男性は逃げていく男女を睨みつけながら、竹林の方へと戻っていった。

「あれが、そのおじさんだよ」
「怖っ。あんなの太刀打ち出来ない」
「おい、今さっきまでの威勢はどうした国家権力。ところで今あのおじさんがさっき言ってた神隠しというのは?」

 俺はあの男性が言っていた神隠しという言葉が妙に引っかかってチトセに訊ねる。

「昔、ここで行方不明者が出たことがあるらしいよ。当時神隠しの仕業って騒がれたらしいから、おじさんもそう言ってるんじゃないかなぁ?」
「ふーん、気になるし調べてみようかなぁ。チトセ、作業部屋を借りてもいいか?」
「おっ、カンちゃんのやる気スイッチがついに入った」
「いいよ。作業部屋はこっち」

 チトセに誘導されて、俺たちは作業部屋へと赴いた
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