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トレジャーハント編

その1

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「さて、番組も終盤だけど、ココで五月の大型連休、特別ラジオウィークのご案内だぞー!」

 ナイトレディオを聴かんなのスタジオ。俺は、今日一番のテンションを振り切って告知を始める。

「なんと、日曜から全国のラジオ局合同で特別ラジオ番組『ゴールデンラジオフェスタ』を開催だぁ! フェスタ期間中はあの有名アーティストや芸能人をパーソナリティーとして迎え、1週間眠れないこと必須だぁ! 要チェック!」

 所謂、特番の告知をテンションMAXでゼーゼーと息切れをしながら宣伝する。

「おっとー? MC陣が豪華すぎて、俺の目から止め処なく涙が流れてくるぜ。コレは聴くしかないんじゃない?」

 俺はハンカチで熱くなった目頭を押さえる。
 ちなみに、ラジオフェスタが凄くて泣いている訳ではない。本来の理由は、俺が次に言った言葉にあった。

「なおフェスタ期間の一週間、通常のラジオ番組はお休みとなります。短くも長くもある1週間、皆に会えないのは辛いけど、フェスタ開けたらまた元気にお届けしようと思うのでよっろしくぅー!」

 そう、特番にかこつけての長期休暇。レギュラー番組で土曜日しか休みが無い俺には絶好のだらだらウィークなのである。
 それに最近は、鬼軍曹の書籍のラジオCMなど、レギュラー以外の仕事も山のように入って休む暇も無かった俺への最高のご褒美。それが嬉しくて嬉しくて、そりゃ涙も出ます。

「それでは、ナイトレディオを聴かんな。また、フェスタが終わった頃にお会いしましょー! パーソナリティーはカンナでしたー!」

 テンションが振り切ったままで番組が終了し、燃え尽きた俺の頭の中ではプスプスとオーバーヒートする音が聞こえる気がした。

「ふぅ、明日からダラダラするぞー!」

 俺は背伸びをしてふとコントロールルームを見ると、


 史がまたもガラスに張り付いていた。しかも、満面の笑みで。


 俺の中で嫌な予感が駆け巡り、暫しの静止の末、見なかったことにして早足でスタジオを後にする。

「おつかれさまでしたー」
「まってよー。目が合ったじゃん。なんで無視するの?」

 スタジオを後にした俺を史が後から同じく早足で追いかけてくる。

「デジャヴで嫌な予感がしたからだよ、どうせ俺に頼ろうとしているだろ!」

 史に追いつかれないように、必死に早歩きで差を開かせようと努力はしてみるが、運動能力の高さは史の方が上。だんだんと距離は縮まっていく。

「事件じゃないよー。カンちゃんがようやく休めるってラジオで聴いたから署から飛んできたんだよ。俺も明日から五日間休暇取れたから、どっか行こうよー」

 史が勤めている上箕島署は、俺が番組をやっているFM上箕島の道路を挟んで隣同士。何かあったら直ぐに飛んでいける距離にあるので、こういう時、凄く立地を恨むことがある。
 そんなことを考えているうちに、とうとう史に追いつかれてしまった。

「遊びに行くって何処にだよ。俺はゴロゴロしたいんだ」
「休日のお父さんじゃないんだからさー、若者は若者らしく休日をエンジョイしなくちゃ」

 史はそういいながら、目を爛々と輝かせる。

「俺にとってはゴロゴロがエンジョイなんだが」
「そうだ! 最近宝探しって流行っているらしいし、この辺だったら黒石山の宝伝説が有名だから、黒石山へ行こうよー」

 俺の発言は無視され、史が局内の廊下の中で、一人でハッスルするという異様な光景。

「黒石山のお宝伝説?」

 俺はそんな伝説を全く知らないので、スマホで【テリトリー】を起動、検索画面にたどり着いて、俺の声をスマホ越しに吹き込む。

「『黒石山の宝伝説』を検索っと……」

 その光景に、史が口をあんぐりしていた。

「いつの間にか、【テリトリー】が音声認識検索対応になってるるるるるるるるる!」

 目を白黒させている史がなんとも滑稽だ。

「ん? あぁ、最近スマホのフリック操作が面倒くさくなってきたから改造したんだよ。結構微調整に苦労したけど」
「カンちゃんって、楽をする為には努力惜しまない人だよね。小さい頃だって、宿題を下校前に終わらせていたし、その努力を何故違うベクトルに……」
「あー、これか」

 俺は史の小言なんて聞く耳も持たず、検索結果に現れた宝伝説の内容を閲覧する。
 ページには、こんな一文が掲載されていた。


『大熊と女が出会いし時、汝は宝を見つけ出すだろう』


「これが、宝の場所を示す暗号みたいなものか?」

 俺は史にその一文を見せる。

「そうそう、コレコレ。なかなか難しい暗号らしくてさ、お宝見つけた人誰も居ないって噂だよ。お宝、気にならない?」
「いや、全く」
「そんなこと言わないで、一緒に行こうよー。キャンプするだけでいいからさー」

 史は少しばかり涙目で俺の肩をゆさゆさと揺らした。俺の頭もつられてぐおんぐおんと揺れた。

「キャンプといっても、あそこにキャンプ場なんて無いぞ?」
「え?」

 そう言う史に俺は黒石山の案内図を見せる。キャンプ場という表示は何処にも無かった。

「別荘地ならあるが、キャンプ場はないだろ?」
「本当だ……。でも、お宝気になるんだよ。カンちゃん。【テリトリー】でなんとかならない?」
「毎度言っているが、【テリトリー】でそんな都合のいいこと出来る訳……、まてよ」

 俺は頭にある考えが過ぎった。

「もしかしたら、アイツなら、黒石山の別荘地に別荘くらいあるかも」
「マジで!?」

 俺の一言に史の顔が一気に晴れやかになった。

「あそこの家族、アイツには投資を惜しまないからなぁ……、気晴らし用の別荘くらい持っているかもしれない」
「気晴らし用の別荘持っているとか、なにそれすごい」

 俺はそう言いながら、スマホの電話帳から目的の人物の電話番号を探す。

「キャンプだ、やっほーーーーい!」

 俺の横ですっかりキャンプ気分の史は局内だというのに、小躍りを始める。そんな奴を無視して、電話番号を見つけた俺は電話をかけた。

「もしもし? 神那だけどさ、折り入ってお前にお願いがあるんだけどさ……」

 3コールの内に出たアイツは出てきて、俺はそいつと話を始めた。
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