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囚われた先輩を救え編

囚われた先輩を救え編 完

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 俺の作戦はこうだ。


 まず、HM興業へ『オマエたちの秘密ヲ握ってイル』という怪文書と共に情報の一部を画像添付して【テリトリー】経由でメールを送る。
 【テリトリー】を使ってあちらこちらのサーバーを経由して送っているので、逆探知は不可能である。つまりは、俺が送ったメールは無視をするか返信するかの二択になる。
 相手側に非が無いのであるならばただの悪戯だとメールを無視するだろう。
 しかし、当のHM興業はというと……。


『その情報は我が社の社外機密により、意図的に漏洩した場合は顧問弁護士経由で訴訟も辞さない。大人しく、データを渡せ』


 というメールが返って来た。

「顧問弁護士ねぇ……。呼べるものなら呼んでみろよ」

 そんな挑発を言いながら、さらに俺はメールを送る。


『返して欲しければ、事実を大人しく世間へと公表しろ。コチラには証拠も十分揃っているし、警察に提出する準備も出来ている』


 という文面のメールを送って数十分で返信が来た。
 よほど相手方は焦っているみたいだ。


『公表はしない。データを大人しく返してくれれば多額の謝礼をする。住所と名前を教えてくれ』


 開くと、こんなメールの文書だった。

「ばっかじゃねーの?」

 俺はその返信文をみて鼻で笑う。
 金銭目的だと思って乗ると思っているのだろうが、こっちが名乗りだしたら最後、先輩みたいに捕まってしまって最悪消されかねない。
 それだけは断固して回避しなければ無い。俺の健全なるゴロ寝ライフのためにも。

「さて、本番を結構するかねぇ」

 俺は史にメールでHM興業について俺が集めた証拠を送る。
 すると、数分後に電話を掛けてきた。

『カンちゃーん。メール見たよ! 凄いよく見つけたよね。流石【テリトリー】の性能は違うよね!!』
「【テリトリー】の性能よりも俺を先に褒めるという選択肢はないのか? 【テリトリー】を開発したのは元々俺だぞ?」
『あ、そうだった。流石カンちゃん。よっ! 輝いているよ!』

 史はわざとらしく俺を褒めた。

「まぁ、いい。どうだ? 逮捕状取れそうな案件だと思うか?」
『うーん。なかなか被害者の告訴とか無いと難しいかなぁ。水嶋先輩が監禁している所を俺たち警察が現行犯で逮捕して、後に詐欺容疑で再逮捕というなら可能だけども』
「やっぱりそうなるか。こうなったら、奥の手を出すか」
『奥の手?』
「先輩は恐らくHM興業の会社のどこかで捕らえられていると思われる。その場所にマーカーを付けるから、そのマーカーを頼りに史達警察が乗り込むという手筈だ」
『マーカーを付けるってどうやって?』
「HM興業へ送るメールに悪さはしないが閲覧したパソコンの位置を示すマルウェアを仕込む。それを開いた途端、開かれたパソコンの座標が【テリトリー】へと届く。座標は数値化されているからソレを元に位置情報を史にメールで送る。という流れだ」

 俺が作戦の内容をいうと、電話の先からすげぇー!と大きい声が響く。

『さすがカンちゃん、なんだか作戦の遂行の仕方がカッコイイよ。直ぐに動けるように数人と準備しておくね! じゃあ』

 と言って史はガチャンと電話を一方的に切った。

「さて、決行しますか」

 俺はマーカーウイルスを仕込んだ偽物のデータを作成し、メールに添付する。
 そして、


『そんなに返して欲しいのなら、金は要らないので返す。本当に貴社のデータで合っているか捕らえられている記者と代表者の目で確認して欲しい』


 という、いかにも開いて引っ掛かってくれと言わんばかりのメールを送る。


「お願いだから引っ掛かってくれよ」

 HM興業の代表の頭が単純ということを祈りつつ、【テリトリー】がマーカー反応を探知してくれることを祈って待っていた。
 すると、


 ピロン。


 【テリトリー】から電子音が聞こえ、『マーカー反応がありました』というウサ耳の少年のキャラが吹き出しにて知らせる。


 かかった。


 俺は急いで、その座標の数値をマップへと打ち込み、出てきた住所と地図を史へと送る。


「史、送ったぞ!!」
『受け取ったよー!! 今すぐ向かう!!』




 それから2時間後、無事先輩は救助され、HM興業の社長と社員数名は監禁の容疑で逮捕された。
 【テリトリー】が指し示した座標はHM興業が保有していた大きい倉庫からだった。
 そこで先輩は監禁されていたらしい。
 先輩はHM興業の詐欺疑惑を知って周辺を調査していたところ、例のデータを発見したらしい。
 しかし、それを会社側へ嗅ぎ付けられ、追われていたということだ。
 そこで、警察に幼馴染がいる俺のことを思い出して、連絡を入れて飲みに誘い、ドサクサに紛れて例のデータを俺に託したという話。
 なんで俺にデータを託したのか後々先輩に問いただすと、


『だって、如月は結構そういうのはなれているじゃん』


 とのことだった。

「水嶋先輩はカンちゃんのことよく見ているよ」

 ラジオ局の食堂で史はクリームソーダを美味しそうに堪能しながらそういった。

「どういうことだよ。ソレ」
「カンちゃんなら何でもやってくれそうってことだよ」
「冗談じゃない。俺はゆっくり休みたいっていうのに」

 俺はふくれっ面でホットミルクティを飲む。

「でも、先輩助けるために一生懸命だったじゃん?」
「それは……」

 そのことを突かれて俺はそっぽを向く。

「それは?」

 史が聞き返す。

「先輩が夜な夜な枕元に立たれても困るからだよ」
「カンちゃんったら、素直じゃないんだからぁー」

 ニヤニヤして俺を見る史のこめかみを俺は拳でグリグリと回す。

 食堂には史の悲鳴が響き渡るのであった。
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