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囚われた先輩を救え編

その1

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 天柳社の事件を無事解決したわけなのだが、あれから調子に乗って史がじゃんじゃんと事件を持ってくるので、徹底的にメールを無視していた。
 事件を見てみないフリする気なのかといわれるかもしれないが、大体史が持ってくる事件が……、

 ピロン。

『大変だ。狸が山を降りて来ているらしいんだけど、【テリトリー】で何とかならない?』

 だとか、

 ピロン。

『カンちゃーーーーーん。マンホールがボンッって連続して飛んだんだよ! 【テリトリー】で原因究明出来ない?』

 だの、別に俺の【テリトリー】を使わなくても、そこら辺の専門家を呼んだら直ぐに解決しそうな事象ばっかり送ってくるのだ。
 俺は便利屋じゃねぇ、と一度だけ送ったがそれでも引っ切り無しに送ってくるので、無視をし始めたのだが、

 ぴろん。ぴろん。ぴろん。

 それでもスマホは絶えず通知音を鳴らしてくる。

「こっちはだらだらするのに忙しいんだ! いい加減に……」

 余りにも煩いので、いい加減にしろとメールを送ろうとスマホを取り出してメールを確認すると、

「おっ」

 見慣れないメールアドレスが史のメールの間に紛れ込んでいた。

「誰だ?」

 一応、迷惑メールの類いは完全に弾く様にしているので、俺のメールアドレスを知っている人間のハズだ。
 メールを開いて中身を確認すると、それは俺が高校のとき部活でお世話になった水嶋先輩からだった。

「懐かしいなぁ……。最後に会ったのは俺が二十歳の時に開催された放送部OB会以来か」

 ふと思い出に浸りながらメールを読み進めていくと、久々に上箕島に帰ってこれそうだから良かったら二人っきりで飲まないか? という内容だった。
 俺は妙に『二人っきり』という言葉にやけに引っ掛かった。
 先輩は部内のムードメイカーで、何かにつけてパーティを開いたりして部活のメンバーを招集するのが好きだった。
 OB会だって先輩の主催だ。そんなグループで飲み会大好きな先輩が俺と二人で飲むだなんて何か怪しい。
 そう考えた俺は、

『先輩お久しぶりです。俺とサシで飲もうだなんて珍しいですね。何か俺にしか話せないことでもあるんですか?』

 と返信を送ってみた。
 すると、数分後、

 ピロン。

 先輩から返信が来た。

『バレたか。いつも如月はそういうところの洞察力は流石だよな。頼みたいことがあるんだ、何時なら開いているか? なるべく近いうちが有難い』

「やっぱりか……」

 俺はガックリと肩を落す。
 どうして、どいつもコイツも俺を頼るのか。俺はダラダラと生きて行きたいのだけども。
 まぁ、お世話になった先輩だからここは協力するしかないかなと思ったから、俺は土曜日なら空いてますよと返信をする。
 すると、『了解。お店はこっちで決めておくよ』と返事が来た。

「何を頼まれるのだろうか……、考えるだけで胃が痛い」



 約束した土曜日。先輩から指定された上箕島駅近くのチェーン店の居酒屋に向かうと、既に先輩が居酒屋の入り口に立っていた。

「よぉ! 如月」

 先輩は、ボサボサの短髪、よれよれの蓬色のシャツに色あせたジーパン姿で俺に向かって手を振る。

「先輩、お久しぶりです」
「久しぶりー。さ、中に入ろうぜ」

 そう言って俺の背中をグイグイと押して居酒屋へと入る。
 店員から通されたテーブル席に腰掛けて、適当に先輩が注文を取る。

「如月は何を飲むか?」
「とりあえず、ウーロン茶で」
「まさかのソフトドリンク!!」

 先輩はビックリしつつも、ウーロン茶を店員に注文する。

「明日は昼から生放送なんで、あんまりアルコールは入れられないんですよ」
「そういえば、ラジオの名物MCになったんだよなお前。放送部時代でもお前の発表だけは上手すぎて、賞を総なめだったもんな」
「要点をまとめて話していただけですよ。そういうのを作るのが得意なだけで。そういえば、先輩は都内の大手新聞社で働いていますよね? そっちの方が凄いと思いますが」

 俺がその話を切り出すと、先輩は頬をポリポリと掻いて気まずそうな顔をする。

「あー……、今、其処をやめてフリージャーナリストをやってるんだ。大きい組織はなんだか俺には合わなかったらしい」

 ハハハ……と先輩は乾いた笑いを浮かべながら、丁度来た生ビールをぐいっと一気に飲む。

「でも、フリーはフリーで楽しいぞー。自分の好きなことを存分に追えるからな!」
「それは良かったです」
「ところで如月。俺の記憶違いで無ければ、お前の幼馴染は確か警察にいるよな?」
「史ですか? 一応、上箕島署で刑事やってますけど?」

 俺はウーロン茶を飲みつつ、そう答える

「やっぱそうか。OKOK」

 先輩はそう呟いてまたビールを口に流し込んだ。



 それから、昔の思い出とか現状報告なんかを各々語りつつ、俺達は居酒屋を出た。
 御代は全て先輩が払ってくれたのだが、

「よー、よーよー」

 先輩はすっかり出来上がっていて千鳥足で店を出た。

「先輩、飲みすぎですって。家まで帰れますか?」
「よゆーよゆー」

 上機嫌で先輩は俺に支えられつつ繁華街を歩いていく。

「おっとっと、足が……」

 突然、先輩は足が縺れて、俺をハグするような形になった。

「ちょっと先輩何して……」


『話がある。あと、決して周りに悟られないようにしてくれ』


 先輩は素のトーンで、小声で俺の耳元に話しかけた。俺の無言でコクンと頷きながら、

「酔いすぎですって」

 とあたかも先輩が酔っ払いという演出をする。

『ありがとう。俺に何かあった時は、コレを警察に渡してくれ』

 そういうと、先輩は俺のポケットに何かを忍ばせた。

「もー、分かりましたよ先輩。家まで送り届けますからー」
「でーじょうぶ、でーじょうぶー。おうちかえれりゅー」
『それじゃ、頼んだぞ』

 そう耳元で囁いた先輩は夜の街へと消えていった。


 翌日、先輩は行方不明になった。

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