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最初の事件編
その3
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チュンチュン。
朝。鳥が囀(さえず)り、清々しい空気なのにも関わらず、俺の顔はそんな空気に似合わずグロッキーであった。
「ちくしょう。天柳社についての検索を何階層も下って探しても見つからねぇ……。もうネットには転がってないんじゃないか?」
俺は机に顔を突っ伏してグッタリモードに突入した。
【テリトリー】は検索エンジンAI。つまりはインターネットの海に漂っていないものはどんなに遡って探しても見つからない。
「あー。もうこんな時間だ」
徹夜をして気づけば空は明るくなっていた。時刻を見ると、朝七時。俺の眠気はそろそろ限界を達しようとしていた。
「夜のラジオの打ち合わせまでまだ半日あるし、寝るか」
いそいそと俺が寝る準備をしようとした最中、スマートフォンから軽快な音楽が鳴り響く。画面をみると、史からだった。
俺は嫌な顔をしながらも渋々電話に出る。
「もしもし神那? 聞いてくれよ!」
史の声は焦っている様に聞こえた。
「オ掛ケニナッタ電話番号ハ、現在オ前ト話ス気ガアリマセン」
俺はワントーンな声を出し電話を切ろうとする。受話器越しから待って待ってと制止する声が聞こえたので仕方なくまた電話を取る。
「何だよ、史。こっちは徹夜で探していて眠いんだ。手短に頼むぞ」
「もー、神那ちゃんのいっけずー」
声色を変えて史が話すので、俺は今無性に電話を切りたくなった。
「……あー、無性に終話ボタンを連打したくなったなぁー」
「あ、ごめんなさい。嘘です、冗談です。許してください」
史がコホンと咳払いをし、話を続けた。
「冗談はさておき、一大事だ……」
「どうせ脅しに失敗したんだろ?」
史が深刻そうな声で話しているのに対し、俺はのん気な声を出して答える。
「な、何故それがっ!? まさか【テリトリー】を使って人の心を読んだのか。アレにそんな機能まで付いているなんて益々欲しくなってきたじゃないか!」
「いくらコレが万能だからって、そんな機能なんて無い。唯の勘だよ」
頭脳が筋肉で構成されている史にも分かるように、俺は分かった理由を説明する。
こんな朝早くに焦ったような声で電話をしてきたということは、犯人が見つかったか、脅しに失敗したかのどちらか。
史は昔から嬉しい事があった時、俺が全く聞いてなくても報告するタイプの人間だったから犯人が見つかったとしたら真っ先に報告するハズ。それが無い為、残る選択は後者となる。
「ということだよ」
「そこまで分かるとは、まさかとは思うが、俺の扱いを熟知しているのか。神那はやっぱり凄いな」
「お前が単純なだけだろ。で、これからどうするんだよ」
出版社への脅しは失敗した。つまりはこれ以上突いても何も出てこない可能性が大きいということだ。
要するに、暗礁に乗り上げた状態である。
「神那のスゴテクで何とかしていただけないかと、いや本当に」
「一般人に無茶振りする警官が何処にいるんだ」
「ここに」
史は嬉しそうな声で言うので、俺は呆れてモノも言えない。
「はいはい。っていうかそろそろ寝かせてくれないか? ラジオの打ち合わせに響く」
時計を見ると七時半。電話を取ってから三十分も経ってしまった。寝ないと収録にも支障をきたす。
「あ、ゴメンゴメン。夜のラジオ楽しみにしてるよー。じゃあねー」
史はそう言って電話を切った。
「さて、これからどうなるかは打ち合わせの時間に考えるとして寝るか」
俺はそう言って、布団に入って目を閉じた。
午後五時。電子のアラーム音が部屋の中に響き渡る。
その音の発信源を手探りで探す。しかし、なかなか見つからない。
「あれ? 確かここら辺に携帯が」
「いつまで寝ているの、起きなさい。収録に遅刻したらどうするのよ」
うっすらと目を開けると、アラーム音が鳴りっぱなしの携帯を手に持ったお袋が仁王立ちしていた。
「ん~。分かってる」
俺はむくりと身体を起こすと、お袋は
「それで良し」
と言って、携帯を返してくれた。
「さっ、さっさと夕飯食べちゃいなさい。さっき寿美子さんがやって来て、神那が史ちゃんのお手伝いをしているって聞いて、神那の大好きなベーコンで巻いてあるロールキャベツ貰っちゃったんだけど、それを頂きましょう」
「え、マジで! 食べる」
俺のテンションは少しばかりではあるがアップして、布団を勢いよく剥いでリビングへと向かった。
午後六時、FM上箕島内の会議室。ここで平日夜八時からやっている『ナイトレディオを聴かんな』の打ち合わせが行われる。
「おはようございます」
俺は意気揚々と会議室に入り、自分の定位置に座るといそいそと寝る準備を始める。
「寝るんじゃねぇ! 打ち合わせくらいには素直に参加しろ」
ナイトレディオを聴かんな月曜日担当の作家である、白樺(しらかば)改め鬼軍曹が俺の頭を台本でスパコーンと殴る。
「他曜日の作家は優しいのに、なんで月曜だけはこんな鬼軍曹なんだろうねぇ」
「何か言ったか? カンナ君?」
俺の小言に鬼軍曹は睨みをきかす。
「はいはい、鬼軍曹の言うことは素直に聞きますよっと。ちゃっちゃと打ち合わせ始めちゃおうぜ」
俺は殴られた頭を擦りながら、鬼軍曹に打ち合わせの開始を促す。
「本日のゲストさん入られまーす」
番組ADの木場ちゃんが会議室にゲストを連れて来た。そのゲストはなんと、
渦中の人物、阿化紀李氏その人だった。
朝。鳥が囀(さえず)り、清々しい空気なのにも関わらず、俺の顔はそんな空気に似合わずグロッキーであった。
「ちくしょう。天柳社についての検索を何階層も下って探しても見つからねぇ……。もうネットには転がってないんじゃないか?」
俺は机に顔を突っ伏してグッタリモードに突入した。
【テリトリー】は検索エンジンAI。つまりはインターネットの海に漂っていないものはどんなに遡って探しても見つからない。
「あー。もうこんな時間だ」
徹夜をして気づけば空は明るくなっていた。時刻を見ると、朝七時。俺の眠気はそろそろ限界を達しようとしていた。
「夜のラジオの打ち合わせまでまだ半日あるし、寝るか」
いそいそと俺が寝る準備をしようとした最中、スマートフォンから軽快な音楽が鳴り響く。画面をみると、史からだった。
俺は嫌な顔をしながらも渋々電話に出る。
「もしもし神那? 聞いてくれよ!」
史の声は焦っている様に聞こえた。
「オ掛ケニナッタ電話番号ハ、現在オ前ト話ス気ガアリマセン」
俺はワントーンな声を出し電話を切ろうとする。受話器越しから待って待ってと制止する声が聞こえたので仕方なくまた電話を取る。
「何だよ、史。こっちは徹夜で探していて眠いんだ。手短に頼むぞ」
「もー、神那ちゃんのいっけずー」
声色を変えて史が話すので、俺は今無性に電話を切りたくなった。
「……あー、無性に終話ボタンを連打したくなったなぁー」
「あ、ごめんなさい。嘘です、冗談です。許してください」
史がコホンと咳払いをし、話を続けた。
「冗談はさておき、一大事だ……」
「どうせ脅しに失敗したんだろ?」
史が深刻そうな声で話しているのに対し、俺はのん気な声を出して答える。
「な、何故それがっ!? まさか【テリトリー】を使って人の心を読んだのか。アレにそんな機能まで付いているなんて益々欲しくなってきたじゃないか!」
「いくらコレが万能だからって、そんな機能なんて無い。唯の勘だよ」
頭脳が筋肉で構成されている史にも分かるように、俺は分かった理由を説明する。
こんな朝早くに焦ったような声で電話をしてきたということは、犯人が見つかったか、脅しに失敗したかのどちらか。
史は昔から嬉しい事があった時、俺が全く聞いてなくても報告するタイプの人間だったから犯人が見つかったとしたら真っ先に報告するハズ。それが無い為、残る選択は後者となる。
「ということだよ」
「そこまで分かるとは、まさかとは思うが、俺の扱いを熟知しているのか。神那はやっぱり凄いな」
「お前が単純なだけだろ。で、これからどうするんだよ」
出版社への脅しは失敗した。つまりはこれ以上突いても何も出てこない可能性が大きいということだ。
要するに、暗礁に乗り上げた状態である。
「神那のスゴテクで何とかしていただけないかと、いや本当に」
「一般人に無茶振りする警官が何処にいるんだ」
「ここに」
史は嬉しそうな声で言うので、俺は呆れてモノも言えない。
「はいはい。っていうかそろそろ寝かせてくれないか? ラジオの打ち合わせに響く」
時計を見ると七時半。電話を取ってから三十分も経ってしまった。寝ないと収録にも支障をきたす。
「あ、ゴメンゴメン。夜のラジオ楽しみにしてるよー。じゃあねー」
史はそう言って電話を切った。
「さて、これからどうなるかは打ち合わせの時間に考えるとして寝るか」
俺はそう言って、布団に入って目を閉じた。
午後五時。電子のアラーム音が部屋の中に響き渡る。
その音の発信源を手探りで探す。しかし、なかなか見つからない。
「あれ? 確かここら辺に携帯が」
「いつまで寝ているの、起きなさい。収録に遅刻したらどうするのよ」
うっすらと目を開けると、アラーム音が鳴りっぱなしの携帯を手に持ったお袋が仁王立ちしていた。
「ん~。分かってる」
俺はむくりと身体を起こすと、お袋は
「それで良し」
と言って、携帯を返してくれた。
「さっ、さっさと夕飯食べちゃいなさい。さっき寿美子さんがやって来て、神那が史ちゃんのお手伝いをしているって聞いて、神那の大好きなベーコンで巻いてあるロールキャベツ貰っちゃったんだけど、それを頂きましょう」
「え、マジで! 食べる」
俺のテンションは少しばかりではあるがアップして、布団を勢いよく剥いでリビングへと向かった。
午後六時、FM上箕島内の会議室。ここで平日夜八時からやっている『ナイトレディオを聴かんな』の打ち合わせが行われる。
「おはようございます」
俺は意気揚々と会議室に入り、自分の定位置に座るといそいそと寝る準備を始める。
「寝るんじゃねぇ! 打ち合わせくらいには素直に参加しろ」
ナイトレディオを聴かんな月曜日担当の作家である、白樺(しらかば)改め鬼軍曹が俺の頭を台本でスパコーンと殴る。
「他曜日の作家は優しいのに、なんで月曜だけはこんな鬼軍曹なんだろうねぇ」
「何か言ったか? カンナ君?」
俺の小言に鬼軍曹は睨みをきかす。
「はいはい、鬼軍曹の言うことは素直に聞きますよっと。ちゃっちゃと打ち合わせ始めちゃおうぜ」
俺は殴られた頭を擦りながら、鬼軍曹に打ち合わせの開始を促す。
「本日のゲストさん入られまーす」
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