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最初の事件編
その2
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「で、どうして警察がお手上げ状態なんだよ」
部屋に入り、小さなテーブルを囲み、捜査の要である【テリトリー】を起動してからミニ捜査会議を開始する。
「それが殺害された女性の勤め先である天柳社が、捜査に一切協力しないんだよ。こんなこと前代未聞だよ。任意の事情聴取にも応じないし」
確かに、例え後ろめたいことがあったとしても、警察の捜査に協力するのが普通だ。それをしないのであれば、捕まえてくださいと言っている様なものだ。
そこで、気になって【テリトリー】で天柳社を検索する。
検索結果には天柳社のホームページからはたまた噂情報までが表示された。
「天柳社って、あのミステリー作家、阿化紀李(あけきり)氏が本を出している会社か」
「神那、阿化紀李氏を知っているの?」
阿化紀李氏は俺と同い年の二十五歳だという若さで、今話題のミステリー小説『そして理想は失脚した』を出しているベストセラー作家だ。
たまらないドキドキ感やリアルな描写に引き込まれる読者も多く、処女作の『籠の眼』から絶大な人気を誇っている。
彼とは、一度だけラジオゲストとして一緒に仕事をしたことがある。
「そんな阿化紀李氏で儲けている会社が捜査に協力しないと言うのはおかしい。何か裏があるか?」
俺はキーボードでとあるコマンド入力すると、【テリトリー】が検索画面から一般には公開されて無いページだけを抽出する。
俺が抽出されたページを順番に見ていくと、気になる一文を発見した。
「阿化紀李先生担当の編集者リストアップ? なんで作家の担当ごときで幹部のみ閲覧扱いにしなくちゃいけないんだ?」
そう思って俺がページを開くと、さすが上層部限定のことだけあって頑丈なプロテクトがかかっていた。
「さて、【テリトリー】の本気を見せてやろうかなぁ?」
俺がコマンドを高速で打つと、画面に愛想のないウサ耳青年が出てきた。
点火された爆弾を持ったウサ耳青年は画面上の吹き出しで『イナバテトル障壁破壊演算プログラムを発動します』と喋った。
【テリトリー】には検索用の人工知能が搭載されていて、そいつの名前がイナバテトルだ。
イナバテトルは検索用に止まらず、相手方のセキュリティプログラムの破壊や相手からのサイバー攻撃を絶対防御で守りとおすことが出来る。
バコーンという爆発音と共に、イナバテトルが吹き出しで『演算終了しました』と喋り、ページをクリックすると、今度はすんなりとページが開いた。
「コイツ、ハッキングまで出来るのか! やっぱ、神那の作った検索エンジン凄いよ」
刑事の前で堂々と犯罪まがいのこと(いや、犯罪行為)をしているというのに、史は【テリトリー】の自動演算に興奮していた。
そんな史に呆れながらも、俺はプロテクトが掛かっていたページを見ると、そこには編集者らしき名前が五人書かれていた。
その五人の中に宮内暁子の名前も書かれていた。
「あーっ!」
五人の名前を見て、史が大声を出す。
「どうしたんだよ、急に大声を出して」
俺が史の声量に耳を塞いだ。史の方は、微かに震えながらリストの中の藤原後代(こうだい)という名前を指差した。
「コイツ、宮内暁子が殺された一週間前に変死体で発見されてる。同じ天柳社の編集者だから関連性があるだろうと思って捜査本部が今調べてるんだけど……」
「リストの内2人も同一の事件に関わったと予測すると、このリストかなり臭うよなぁ、けどもこの証拠は証拠として認められないだろうし、どうすっかなぁ」
これはネットで拾った情報であって、出版社が提出した証拠ではないため、相手側が違うと言えば、裏づけがないため証拠としては不適合だ。
「とりあえずこのリストをプリントアウトして、コレで脅せば何とかなるんじゃない?」
「私もそう思うわ」
史の次にお袋の声がして振り向くと、お袋は俺の目の前に湯気の立つ皿を突き出していた。
皿の中には出来たてほやほやのコロッケが乗っていた。
「お袋、あのなぁ……」
「ノックしたけど返事が無かったから勝手に入っちゃった。ごめんね」
年甲斐も無く無邪気な笑顔を振りまくお袋が少し可愛く思えて、俺は怒る事も出来ない。
「神那は松子おばさんには本当に弱いなぁ。さて、とりあえずアツアツの内に松子おばさんの特製コロッケ食べちゃおうぜ」
史は右手に箸、左手には茶碗を持って既に臨戦態勢だった。
「じゃ、ゆっくりしていってね。おばさんは邪魔しちゃ悪いからお暇するわね」
そういってお袋は部屋から出て行った。
「さて、腹ごなしでもするかな?」
俺は、例のリストをプリントアウトしながら、ご飯を食べる準備をする。
「あー、美味しかった。ご馳走様でした」
俺がコロッケに手を付けると同時に史は食べ終わっていた。お前はどれだけ早食いなんだ。
「おっと、そろそろ署に戻らないと。このリスト借りるね。天柳社を脅してくるから」
史は腕時計を見ると、すかさず身支度を整え、俺が引っ張ってきてプリントアウトした例のリストを鞄の中に入れた。
「おい、まだ脅すという案を俺は賛成してな……」
「大丈夫、大丈夫。脅しのプロフェッショナルに頼むから。じゃあね!」
史は、勢いよく俺の部屋から出て行った。
「全く俺の話も少しは聞けよなぁ」
そういって、俺は昼食のコロッケを食べ始めた。
夜。俺はお風呂に入りつつ、例の事件のことを考えていた。
殺された二人の編集者、それも阿化紀李先生の担当ばかり。出版社は黙秘を貫いたまま。
「考えるとしたら、人気作家についたことによる怨恨だろうけど、そうだとしたらコレほどまで出版社が隠し通すことがあるだろうか?」
俺は気になって更にタブレット端末(防水加工済み)で調べ始めた。しかし、例のリスト以上の有益の情報は出てこない。
「タブレットじゃコマンド入力やりにくいしなぁ。風呂あがってからまたパソコンから調べ直すか」
部屋に入り、小さなテーブルを囲み、捜査の要である【テリトリー】を起動してからミニ捜査会議を開始する。
「それが殺害された女性の勤め先である天柳社が、捜査に一切協力しないんだよ。こんなこと前代未聞だよ。任意の事情聴取にも応じないし」
確かに、例え後ろめたいことがあったとしても、警察の捜査に協力するのが普通だ。それをしないのであれば、捕まえてくださいと言っている様なものだ。
そこで、気になって【テリトリー】で天柳社を検索する。
検索結果には天柳社のホームページからはたまた噂情報までが表示された。
「天柳社って、あのミステリー作家、阿化紀李(あけきり)氏が本を出している会社か」
「神那、阿化紀李氏を知っているの?」
阿化紀李氏は俺と同い年の二十五歳だという若さで、今話題のミステリー小説『そして理想は失脚した』を出しているベストセラー作家だ。
たまらないドキドキ感やリアルな描写に引き込まれる読者も多く、処女作の『籠の眼』から絶大な人気を誇っている。
彼とは、一度だけラジオゲストとして一緒に仕事をしたことがある。
「そんな阿化紀李氏で儲けている会社が捜査に協力しないと言うのはおかしい。何か裏があるか?」
俺はキーボードでとあるコマンド入力すると、【テリトリー】が検索画面から一般には公開されて無いページだけを抽出する。
俺が抽出されたページを順番に見ていくと、気になる一文を発見した。
「阿化紀李先生担当の編集者リストアップ? なんで作家の担当ごときで幹部のみ閲覧扱いにしなくちゃいけないんだ?」
そう思って俺がページを開くと、さすが上層部限定のことだけあって頑丈なプロテクトがかかっていた。
「さて、【テリトリー】の本気を見せてやろうかなぁ?」
俺がコマンドを高速で打つと、画面に愛想のないウサ耳青年が出てきた。
点火された爆弾を持ったウサ耳青年は画面上の吹き出しで『イナバテトル障壁破壊演算プログラムを発動します』と喋った。
【テリトリー】には検索用の人工知能が搭載されていて、そいつの名前がイナバテトルだ。
イナバテトルは検索用に止まらず、相手方のセキュリティプログラムの破壊や相手からのサイバー攻撃を絶対防御で守りとおすことが出来る。
バコーンという爆発音と共に、イナバテトルが吹き出しで『演算終了しました』と喋り、ページをクリックすると、今度はすんなりとページが開いた。
「コイツ、ハッキングまで出来るのか! やっぱ、神那の作った検索エンジン凄いよ」
刑事の前で堂々と犯罪まがいのこと(いや、犯罪行為)をしているというのに、史は【テリトリー】の自動演算に興奮していた。
そんな史に呆れながらも、俺はプロテクトが掛かっていたページを見ると、そこには編集者らしき名前が五人書かれていた。
その五人の中に宮内暁子の名前も書かれていた。
「あーっ!」
五人の名前を見て、史が大声を出す。
「どうしたんだよ、急に大声を出して」
俺が史の声量に耳を塞いだ。史の方は、微かに震えながらリストの中の藤原後代(こうだい)という名前を指差した。
「コイツ、宮内暁子が殺された一週間前に変死体で発見されてる。同じ天柳社の編集者だから関連性があるだろうと思って捜査本部が今調べてるんだけど……」
「リストの内2人も同一の事件に関わったと予測すると、このリストかなり臭うよなぁ、けどもこの証拠は証拠として認められないだろうし、どうすっかなぁ」
これはネットで拾った情報であって、出版社が提出した証拠ではないため、相手側が違うと言えば、裏づけがないため証拠としては不適合だ。
「とりあえずこのリストをプリントアウトして、コレで脅せば何とかなるんじゃない?」
「私もそう思うわ」
史の次にお袋の声がして振り向くと、お袋は俺の目の前に湯気の立つ皿を突き出していた。
皿の中には出来たてほやほやのコロッケが乗っていた。
「お袋、あのなぁ……」
「ノックしたけど返事が無かったから勝手に入っちゃった。ごめんね」
年甲斐も無く無邪気な笑顔を振りまくお袋が少し可愛く思えて、俺は怒る事も出来ない。
「神那は松子おばさんには本当に弱いなぁ。さて、とりあえずアツアツの内に松子おばさんの特製コロッケ食べちゃおうぜ」
史は右手に箸、左手には茶碗を持って既に臨戦態勢だった。
「じゃ、ゆっくりしていってね。おばさんは邪魔しちゃ悪いからお暇するわね」
そういってお袋は部屋から出て行った。
「さて、腹ごなしでもするかな?」
俺は、例のリストをプリントアウトしながら、ご飯を食べる準備をする。
「あー、美味しかった。ご馳走様でした」
俺がコロッケに手を付けると同時に史は食べ終わっていた。お前はどれだけ早食いなんだ。
「おっと、そろそろ署に戻らないと。このリスト借りるね。天柳社を脅してくるから」
史は腕時計を見ると、すかさず身支度を整え、俺が引っ張ってきてプリントアウトした例のリストを鞄の中に入れた。
「おい、まだ脅すという案を俺は賛成してな……」
「大丈夫、大丈夫。脅しのプロフェッショナルに頼むから。じゃあね!」
史は、勢いよく俺の部屋から出て行った。
「全く俺の話も少しは聞けよなぁ」
そういって、俺は昼食のコロッケを食べ始めた。
夜。俺はお風呂に入りつつ、例の事件のことを考えていた。
殺された二人の編集者、それも阿化紀李先生の担当ばかり。出版社は黙秘を貫いたまま。
「考えるとしたら、人気作家についたことによる怨恨だろうけど、そうだとしたらコレほどまで出版社が隠し通すことがあるだろうか?」
俺は気になって更にタブレット端末(防水加工済み)で調べ始めた。しかし、例のリスト以上の有益の情報は出てこない。
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