検索エンジンは犯人を知っている

黒幕横丁

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最初の事件編

その1

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 局内一階の喫茶店。俺と史は案内された席に着き、適当にメニューを注文する。

「俺はアイスミルクティー」
「じゃあ俺は、オムライスと豚汁とキムチ炒飯と烏龍茶で」

 楽しそうに大量のメニューを注文する史に俺は呆れるばかりだ。
 数十分後、注文した料理がテーブルに並べられ、史はキムチ炒飯をがっつく。

「よく食べるなぁ」
「刑事は体力勝負の仕事だからねぇ。あっ、今回は俺の奢りだから神那もたくさん食べたらいいのに」

 史はオムライスをスプーンですくい俺に差し出す。

「それか俺のオムライス半分食べる?」
「いらん。俺は家へ帰ってから食べるからいいんだよ。それより、今回も手助け欲しいからわざわざ此処まで来たんだろ? さっさと話を進めろ」

 俺の言葉に史はいそいそと内ポケットから一枚の写真を取り出す。
 それは、雑木林に倒れこんでいる女性の写真だった。

「うわぁ、ちょっと白骨化も進んでいるじゃないか……」

 青ざめた俺は、ミルクティーを一気に流し込んだ。
 そんな俺をよそに史はケロリとした表情でオムライスを食べていた。

「こんなショッキングな写真を見てもよくそんな食べられるなぁ」
「時に食欲は何者にも勝るのだよ、神那くん」

 烏龍茶を飲んで偉そうに胸を張る史の頭に、鉄拳を言う名のチョップを食らわせる。

「アイテッ!」
「それにしても、これどう見ても死体だよなぁ……」

 俺は口を押さえつつも写真をまじまじと見つめる。

「うん。昨日郊外の山の中で発見された仏さんさ」

 豚汁を美味しそうに食べている史の話によると、仏さんの身元は宮内暁子、二十六歳。上箕島市にある出版社、天柳社(てんりゅうしゃ)に勤める編集者らしい。

「で、今回は俺にこの事件の犯人を捜して欲しいってか? 警察で何人か目星はついているはずだろ? 俺のような一般人に頼らず事情聴取をすればすぐに見つかるって」

 史は俺に犯人捜しを依頼するのはこれが最初ではない。しかし、大体は警察が目をつけている奴が犯人だったというパターンが多く、俺の出る幕はあまりなかった。

「今回に至っては警察もお手上げ状態なんだよ。だから上箕島警察署刑事第一課は、如月神那が持っている検索エンジン【テリトリー】に頼ることに決めたという次第でござる。ちゃんと捜査協力依頼書も持ってきたから」

 そう言って史は一枚の紙切れをヒラヒラと示した。

「全く。お前らの課は、どうして皆揃ってコイツに頼るんだ……」

 史が俺に事件の犯人捜しやその他様々な手助けを依頼するのは、俺の作った【テリトリー】が意外な本性を発揮するからである。

 俺個人が俺自身のために作ったこの【テリトリー】は、ネット内の奥底からも情報を拾ってくる。その情報は時に警察が欲しがっている証拠へと繋がっている場合があって、史を始め上箕島警察署全体が俺に頼るようになった。

「その【テリトリー】をそろそろ俺にも使わせてくれよぅ。いっつも神那の許可無しじゃないと使えないし」
「自分のために作ったもんだ。簡単に使わせて堪るかよ。パスワードもちゃんとかけているからな」

 【テリトリー】は普通にネット空間に漂っているのでページはアクセス出来るが、検索エンジンとしての機能を果たすには俺が設定したユーザーコードと英数字255文字のパスワードが必要となるため、誰も俺なしでは【テリトリー】で検索することは出来ない。

「ちぇっ、神那って昔からケチだったよなぁ……。小学生の時だって教室違うから忘れた教科書を借りようと思ったのに貸してくれなかったし」

 史はいじけながら烏龍茶を飲み干す。

「ケチで結構。別に俺は協力しなくても一向に構わないからな」
「それは困るんだよぉ、神那ぁ。俺とお前の好だろ? 協力してくれよぉ。そうしないと、俺は署でなんと言われるか……」

 史は涙と鼻水交じりで俺に擦り寄ってきた。

「分かった、分かったから。とりあえず此処では不特定多数に聞かれるから俺の家に来い」

 俺と史は会計を済ませて、ラジオ局を出た。



 ラジオ局から車で三十分、俺の家に着く。

「ただいま」
「おじゃましますー」

 俺達が家に上がると、居間の方からお袋が顔を覗かす。

「おかえり。あら、史ちゃん久しぶりね。まぁ、こんなにも立派になって……」

 お袋は史の顔を見るなり駆け寄ってきて、史の頭を撫でる。
 ちなみに、お袋が史を見かけなくなってから一カ月しか経過していない。それで立派もないだろうにと俺はお袋に悪態をつく。

「松子おばさんお久しぶりです。おばさんはいつ見てもお綺麗ですね」

 一方の史が放つ社交辞令には砂を通り越して砂糖が出そうである。

「まぁ、史ちゃんったら冗談が上手いんだから。
 そうだ、ウチはこれから昼ご飯なんだけど、良かったら史ちゃんも一緒にご飯どう? 刑事の職は忙しくて栄養が偏っているとか寿美子(すみこ)おばさんも心配していたし。おばさん、張り切ってなんでも作っちゃうわよ」
「マジですか! ありがとうございます。やったぁ、久々に松子おばさんの美味しい手料理が食べられる」

 喫茶店でアレだけ食べたというのにまだ食べるのかコイツは。

「刑事は体力勝負の……」
「はいはい、それは分かったから。とりあえずお袋、これから俺達作戦会議するからご飯は俺の部屋に持ってきておいて」
「あら、また史ちゃんのお手伝い? 分かったわ、史ちゃんも神那もお仕事頑張るのよ。そういうことなら、今日の昼ご飯は二人の好きなコロッケね」

 そう言ってお袋は台所へ戻っていき、俺達は俺の部屋へと向かった。
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