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最初の事件編

プロローグ

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 ポーン。

「今日も始まりました。日曜の正午からはカンナの満腹中枢大爆破(はんぷくちゅうすうだいばくは)!」
 FMラジオ局【FM上箕島(かみみしま)】のスタジオ。俺、如月神那(きさらぎかんな)のやや自暴自棄な声と共にラジオの生放送が始まった。
 毎度毎度、この番組名を叫ぶのにはかなりの労力を要する。だがしかし、この珍番組名のおかげで視聴率がいいので我慢我慢。
「どうも、こんにちは。番組MCのカンナでございます。いよいよ四月に突入。新生活の季節到来だねぇ~。このラジオを初めて聞いてくれた、リスナーさんもいるんじゃないかなぁ?
 今日もリスナーの皆からの質問、リクエスト、番組に対するメッセージにバンバン答えますよぉ。新人さんや古参さんまでバシバシとメール頂戴! メールアドレスは……」
 フリートークを織り交ぜつつ、台本どおりに番組を進めていく。
「早速、四月一発目のメールいってみよう! ラジオネーム【みりん干し好き】さんからの質問」
 俺は、葉書を読み始める。
「カンナさんこんにちは! 春らしい天気が続いていますね。こんな日は何処か遊びに行きたいなと友達数人で計画しているのですが、なかなか決められません。カンナさんのオススメスポットは何処ですか? 教えてください。春の行楽シーズンだねぇ。俺もこんな小春日和には何処かに出かけたいもんだね。そんな俺のオススメスポットは……」
 俺は即座に隣にあるノートパソコンを開き、俺自作の検索エンジンの【テリトリー】を起動させ、検索キーワードに行楽スポットと目にも止まらぬ早業で入力した。
「この時期なら、上箕島市郊外にある山島(やまじま)公園の桜祭りがオススメ! 祭りに毎年出店している屋台の焼きそばが濃厚なソースと共に、青海苔の風味が口全体に広がって……」
 検索エンジン【テリトリー】の検索結果画面に出ている、焼きソバについてのページを見ながら、あたかも俺自身が体験したように話す。
 こう見えて根っからのインドア派の俺にとって、行楽の話なんて未知の領域。だが、情報番組のMCをやっている以上仕方が無いこと。リスナーからたくさん質問来るからね。
 そこで大活躍するのが、俺がその場の気分とノリで作った検索エンジン【テリトリー】。
 日々起きた出来事やニュース、ネットでの情報、各種イベント情報の全てが【テリトリー】の中に蓄積されているので、俺が検索するだけで、コイツ自身で俺が何を求めているのかを考え検索結果を表示するという、なんとも賢いプログラムが組まれている。
 まさに、俺がラクしたいがために作り出されたと言っても過言ではない。いや、正直ラクがしたいからプログラミングしたわけなのだが、

 トークも順調に進んで行き、残り時間は10分ほど。俺はエンディングトークに移行しようかとコントロール室の方を見ると、スタジオとコントロール室を隔てる分厚いガラスにへばり付いている不審者の姿が目に入る。
 必死に不審者はガラスに張り付いて、目で俺に何かを訴えかけているようだが、俺はそれを無言で指差して嘲笑うような仕草をしてみせた。そして、何事も無かったかのようにエンディングトークを話し始める。
「さて、あっという間の一時間でしたが、如何(いかが)だったかな? この番組では、これからも質問、リクエスト、なんでも募集しちゃうからバシバシ葉書やメール送っちゃってください。では、カンナの満腹中枢大爆破はこの辺で。また来週!」
 俺がマイクの電源を落とすと同時に、スタジオ内に設置してあるONAIRの灯りが消える。
「ん~、終わった! では、お先に失礼します。お疲れ様でした」
 俺は椅子に座りながら背伸びをすると、隣に置いてあったノートパソコンの電源を切った。そして不審者がコチラを見るのを無視してスタジオを出て行こうとすると、カンナの満腹中枢大爆破担当の放送作家である今和(いまわ)ちゃんがやってきた。
「お疲れ様です。カンナさんにお客様ですよ。今さっきからガラスに張り付いていたの、気がつきませんでしたか?」
 今和ちゃんがそう言って背後を示すと、今和ちゃんの後ろからひょっこりとスーツ姿の男が顔を出した。
「あぁ。挙動が不審な物体が窓に張り付いていたから、これから直ぐ警察に通報しようと思ったら、なんだぁ、史(ふみ)だったのか」
 俺は、すっごく嫌そうな顔でスーツ姿の男、長月史(ながつきふみ)を見た。
「幼馴染にその顔と態度はねぇだろ。そんな顔しているとしょっぴいちゃうぞ?」
 史はそう言うと、懐から警察手帳を俺に見せ付ける。
 史とは、家が隣同士という理由で物心付いた時から一緒に遊んでいた幼馴染である。
 俺がインドア派代表だとしたら、アイツはアウトドア派代表。天性のスポーツ馬鹿が高じて警察に入り、今は刑事として日々悪と戦っていると自負しているような奴だ。
 俺に会う度、警察手帳を見せ付けて権力を主張している奴に正義を自負して欲しくないけどな。
「神那、今から暇? 茶でもしばき倒しちゃおうぜ」
 史はニコニコとした顔つきで俺に迫ってきた。
 アイツがニコニコとした態度で茶に誘うのは、決まって俺にお願いがある時だ。しかも、俺に拒否権というものない。
「カンちゃん連れて行っちゃいますけどいいですよね?」
 史は何故か今和ちゃんに俺を連れ去る許可を請う。
「今日の番組も終わりましたし、明日の夜番組に間に合うなら、何処へでも連れて行っちゃって下さい。カンナさんも楽しんで来て下さいね」
「えっ、ちょっと、今和ちゃん!」
 今和ちゃんは無邪気な笑顔で手を振り、俺と史を見送った。
「よーし、いざ喫茶店へ参らん!」
 威勢の良い掛け声と共に、史は俺の襟首を掴み、強引に局内にある喫茶店へと連れ去っていくのであった。
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