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夏フェス、カンナ隠し子事件!?

その1

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「いえーーい! 皆、盛り上がっているかー!」
 俺の掛け声に、地響きにも似た感じの群集の声が響き渡る。
 上箕島市の外れのほうにある、ジョインKAMIMISIMAという広大な広場。そこで、『Noisy Sounds Fes』、通称『ノイサン』が始まった。
 ラジオ局主催なので、様々なアーティストがステージ上がるとあって、市内外から多くの観客が訪れる、夏フェス。
 そんな暑苦しいくらいのステージの上に俺は何故か立っている。
 理由は、至極簡単。今回のノイサンの総合MCに決まってしまったからだ。
 いつもは俺なんかより知名度がある、浅間さんがやってくれるのだが、なんとその浅間さんが今回は海外に出掛けていて、ノイサンに参加できないという事態に。
 それで、消去法で暇人の俺がMCに抜擢されたわけなのだが……。
「どうも、今回のノイサン総合MCのカンナです! 皆宜しくねー!」
 地元民以外からは、誰だコイツという視線が俺に痛いくらいに降り注いでくる。FM上箕島以外のラジオ出演を全くしたことが無いから、市外の人が知らないのは当たり前なのだが。お前らざわざわするな、俺はほぼヤケでこんなことをやっているんだぞ。空気を読め。
「さて、今年もNoisy Sounds Fesという熱い夏がやってきました。余りにも白熱して、熱中症で好きなアーティスト見逃したっ、って事のないよーにー! 計画的に楽しんでくれよな!」
 再び、地鳴りのような雄叫びが会場内に木霊する。
「それじゃあ、ノイサン開幕だー!」
 俺の掛け声と共に、会場の両端のキャノンがパンと豪快な音を放ち、会場にNoisy Sounds Fesと書かれた銀テープが舞い降りた。

「疲れた……」
 銀テープが降り注いで会場のボルテージが上がるのを背中で聴きながら、俺は舞台袖へと退避した。
「おつかれー、いやぁ、カンちゃんのヤケっぷりが眩しかったよー」
 史はそう言いながら、俺にタオルとスポーツドリンクを手渡してきた。
 ちなみに、何故一般人の史が夏フェスのバックステージにいるかと言うと、全部、白樺鬼軍曹が仕組んだことである。
 あの野郎、俺の監視役として勝手に史へバックステージ通行証を渡していたのだ。好きなアーティストをタダで見られるし、ご飯もケータリングで食費が浮くし、史にはこの上ない機会なのである。
 ただし、名目上は俺の補佐という扱いなので、勝手なことは出来ないらしいが。
「こんな暑い空間に居たらやけにもなるぞ。嗚呼、冷房のガンガンに効いた部屋に帰りたい……」
 今日の上箕島市の気温は35度。屋外のイベントなので、刺す様な日光が俺に容赦なく降り注いでくる。
 日焼けだけは絶対にしたくないので、屋根のあるところに避難するが、それでも、肌には徐々に汗が滲んでくる。
「あぢい」
 俺は、史から渡されたスポーツドリンクをぐいっと飲んだ。
「まぁ、夏だからねー。仕方ない仕方ない」
 史は呑気にそう答える。
 コイツに、気温という概念は通用しないと常々思っている。汗はかいてはいるが、毎度何故そうも爽やかにいられるのか、俺には理解できなかった。
「それにしても、流石ノイサンのバックヤードだよ!! 好きなアーティストさんばっかりで目がいくらあっても足りないくらいだよ! あれ、そういえばチトセくんの姿が見えないんだけど」
「チトセなら、ノイサンと同じ日に開催している夏フェスに出ていると思うぞ。ノイサンには明日出演予定だし」
 チトセも売れっ子なので、あちこちのフェスのプロモーターから引っ張りだこなのだ。
「そうなの? じゃあ、おじさんたちは今日来てないんだね」
「いや、来ているぞ。見てみるか?」
 俺はポケットに入っていたオペラグラスを史に手渡す。そして、バックステージから会場の様子が少し見える隙間から顔を覗かせ、小高い丘の方を指差した。
「ほら、あそこ」
「あ、本当だ」
 史がオペラグラスで俺が指を指したほうを見ると、恐らく丘の上で仲良く暑さで参っている父さん兄弟の姿が見えているハズだ。
「なんか暑さで参っているみたいだし、後で何か差し入れしてくるよ。カンちゃんはこの場から動けないと思うし」
「別にいいぞ、あの親バカコンビにそこまでしなくても」
「何かあったら俺の休みがなくなったりするかも知れないし」
 確かにそうだ。ここで何か事件が起きてしまうと、真っ先に史は現場に駆けつけなければならない。それだけは、史も阻止したいのだろう。
「それにしても、暑いな……。次の出番まで楽屋のロッジへと戻るか」
 汗をダラダラとかきながら、俺がロッジの方へ向かっていると、

 ガシッ。

 背後から何かが俺の脚にまとわり付いてきた。
「ん?」
 俺が後ろを見ると、そこには三歳ほどの女の子が俺の脚へ必死に捕まっていた。
「何処かから入ってきた迷子かなぁ……」
 史が女児と同じ目線になるまで、腰を落として、優しく笑いかける。さすが腐っても警察官といったところか。
「どうしたのかな? パパやママとはぐれちゃったのかな?」
 女児は史に訊ねられて、モジモジしながら、俺の服の袖を掴んだ。
 そして、しまいには……、
「……パパ」
 俺のことを指差して、パパと言ったのだ。
「えっ!?」
 俺は女児から放たれた言葉に一瞬固まってしまった。
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