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波乱の一日警察署長編
その3
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「ゲイシャー! ゲイシャはいぬのかー! ヒック」
刑事課の室内でそう叫びながら徘徊している白人男性。
そんな様子を見て、史がパタンと扉を閉めた。
「カンちゃん……」
史は青ざめた顔でこちらの方を見る。
「あの人……誰?」
「いや、それは俺の方が聞きたい」
「デスヨネー」
史はそういいつつ、再びそっと扉を開け中の様子を確認する。
「ミーのしゃけがのめんともうすかーーー! ガッハッハ」
相手は相当出来上がっているようだ。
「ど、どうしよ」
「まずは謎の白人男性が刑事課をうろついているのか、他の人間は知っているのかを確かめるのが先じゃないのか?」
俺はため息交じりでアドバイスをすると、史は、
「あ、なるほど! さすがカンちゃん」
と満面の笑顔で答えたので、ちょっとコイツの頭を殴ってやりたい感情が沸々と生まれ始めた。
そんな俺の感情なんて知らずに、史は手際よく電話を掛ける。
「あ、もしもし? 課長? お疲れ様です。長月ですけど、刑事課に不審な白人男性がいるんですが、誰かそのことについて知ってる人いますかー?」
はい、はい、と電話先の相手に相槌を出す史。
「あー、なるほどー。分かりましたー。失礼しまーす」
そういうと史は電話を切った。
「何か分かったのか?」
「朝っぱらに署の前で酔いつぶれていたみたいで、とりあえず、式典にはまったく関係ない刑事課に放り込んでいたんだけど、みんなあの人の存在を忘れてて、そのまま出ていちゃったって」
俺の質問に舌を出しながらお茶目に答える史。
「よし、史、歯を食いしばれ。今からお前を殴る」
「えぇ!? やめて!?」
俺が右手で軽く拳を作ると、史は涙目でやめるように懇願する。
「お二人さん、盛り上がっているところ、悪いんですが、広報課の人が困っているみたいですよ?」
そんな俺たちの間に神崎が割って入ってきた。俺が広報の人を見ると、とても今の状態に困っている様子だった。
「……どうしましょうか? 他の課から応援を要請してあの男性を取り押さえることも可能ですが?」
「あー、それじゃあ大事になっちゃうし、とりあえず俺とカンちゃんで何とかしてみます。終わったらまた連絡するので、広報さんはとりあえず、広報課へ戻っておいてください」
「お前、今さらっと俺を数に入れたな」
史の提案の中でサラッと俺が数に入れられているのに直ぐに気がついた。
「だって、難関事件も俺とカンちゃんで解決してきたじゃない? 二人でいけば無敵さっ!!」
「凄い! カンナさんって事件をバシバシ解決しているんですね! 名探偵みたいだ」
史の言葉に神崎が目をキラキラさせてコチラをみた。
やめろ、そんな目で俺も見ても何もならないぞ。
「大体のものは史の泣き落としで強制的にやらされているだけだ。俺はもとよりのんびりと暮らしたい派なんだ」
「またまたぁ? 事件を解いているときのカンちゃんは輝いているZE☆」
「わー、見てみたいです」
「お前らなぁ……」
そんなやり取りに呆れ顔の俺の背後に急に人影が現れる。
「そんなトコで何楽しいなコトしているんデェスか? 混ぜてくださいー。というか一緒に飲みまショー?」
俺は白人男性に首根っこをつかまれて刑事課の中へと連行される。
「あ、カンちゃんが連れ去られた」
「尊い人を失ってしまいましたね」
ずるずると連れ去られる俺を見て、史と神崎がヨヨヨ……とハンカチで目頭を押さえる動作をするのが見えた。
勝手に俺を殺すな。
俺は一生懸命手を引き剥がそうと身じろぎをするが、なかなか力が強く、逃げることが出来ない。
「ハハハ。ちょうど、飲みフレンドは欲しかったトコロですねー。あ、どうぞココに座ってくださーい。遠慮は要りません」
白人男性はそう言って刑事課のソファに俺をポイっと投げ、俺はボスンとソファに軟着陸をする。
いやいや。ココはお前の家じゃないからな、警察署の部屋だからなという根本的なツッコミを入れる元気さえ無かった俺は、ギロリと入り口の方をみる。
其処には史が口パクで『頑張れ』と言いながら俺に向けて満面の笑みを浮かべていた。
「あの野郎……」
俺が小声で呟いていると、
「オマタセでーす」
白人男性は何処からかグラスを持って帰ってきた。コイツもう、刑事課の食器棚の場所まで把握しているのか。
「どうぞー」
そう言って男性は俺にグラスを手渡して、なみなみと俺の持っているグラスに茶色い液体を注いでいく。
「じゃー、かんぱーい」
注ぎ終わると、問答無用でグラス同士をぶつからせ、男性はその液体を一気に飲み干した。
「ぷはー。イチニチの終わりはやっぱコレですねぇ。さ、飲め飲め」
「いや、俺は、公務中というかそんなんで、飲めないのだが」
俺が飲酒を必死に断ると、男性は凄い目つきで俺を睨む。
「オレが注いだ酒が飲めんというのデスかー?」
「いや、そういうわけじゃなんだが……」
すると、険しい目つきから急にニコニコし始める男性。
「大丈夫デース。働き盛りなオニイさんのために、それはアルコールじゃありまセーン。バーリーティーでーす」
バーリーティ? とオレはスマホを出して【テリトリー】で『バーリーティ』について検索する。すると、出た答えが、
『麦茶』
だった。
いやいや、麦茶と安心させておいてビールとかいうオチではなかろうかと、恐る恐るグラスに入っている液体に口を付けた。すると、口の中に広がったのは、
「あ、本当に麦茶だ」
まさしく麦茶そのものだった。
刑事課の室内でそう叫びながら徘徊している白人男性。
そんな様子を見て、史がパタンと扉を閉めた。
「カンちゃん……」
史は青ざめた顔でこちらの方を見る。
「あの人……誰?」
「いや、それは俺の方が聞きたい」
「デスヨネー」
史はそういいつつ、再びそっと扉を開け中の様子を確認する。
「ミーのしゃけがのめんともうすかーーー! ガッハッハ」
相手は相当出来上がっているようだ。
「ど、どうしよ」
「まずは謎の白人男性が刑事課をうろついているのか、他の人間は知っているのかを確かめるのが先じゃないのか?」
俺はため息交じりでアドバイスをすると、史は、
「あ、なるほど! さすがカンちゃん」
と満面の笑顔で答えたので、ちょっとコイツの頭を殴ってやりたい感情が沸々と生まれ始めた。
そんな俺の感情なんて知らずに、史は手際よく電話を掛ける。
「あ、もしもし? 課長? お疲れ様です。長月ですけど、刑事課に不審な白人男性がいるんですが、誰かそのことについて知ってる人いますかー?」
はい、はい、と電話先の相手に相槌を出す史。
「あー、なるほどー。分かりましたー。失礼しまーす」
そういうと史は電話を切った。
「何か分かったのか?」
「朝っぱらに署の前で酔いつぶれていたみたいで、とりあえず、式典にはまったく関係ない刑事課に放り込んでいたんだけど、みんなあの人の存在を忘れてて、そのまま出ていちゃったって」
俺の質問に舌を出しながらお茶目に答える史。
「よし、史、歯を食いしばれ。今からお前を殴る」
「えぇ!? やめて!?」
俺が右手で軽く拳を作ると、史は涙目でやめるように懇願する。
「お二人さん、盛り上がっているところ、悪いんですが、広報課の人が困っているみたいですよ?」
そんな俺たちの間に神崎が割って入ってきた。俺が広報の人を見ると、とても今の状態に困っている様子だった。
「……どうしましょうか? 他の課から応援を要請してあの男性を取り押さえることも可能ですが?」
「あー、それじゃあ大事になっちゃうし、とりあえず俺とカンちゃんで何とかしてみます。終わったらまた連絡するので、広報さんはとりあえず、広報課へ戻っておいてください」
「お前、今さらっと俺を数に入れたな」
史の提案の中でサラッと俺が数に入れられているのに直ぐに気がついた。
「だって、難関事件も俺とカンちゃんで解決してきたじゃない? 二人でいけば無敵さっ!!」
「凄い! カンナさんって事件をバシバシ解決しているんですね! 名探偵みたいだ」
史の言葉に神崎が目をキラキラさせてコチラをみた。
やめろ、そんな目で俺も見ても何もならないぞ。
「大体のものは史の泣き落としで強制的にやらされているだけだ。俺はもとよりのんびりと暮らしたい派なんだ」
「またまたぁ? 事件を解いているときのカンちゃんは輝いているZE☆」
「わー、見てみたいです」
「お前らなぁ……」
そんなやり取りに呆れ顔の俺の背後に急に人影が現れる。
「そんなトコで何楽しいなコトしているんデェスか? 混ぜてくださいー。というか一緒に飲みまショー?」
俺は白人男性に首根っこをつかまれて刑事課の中へと連行される。
「あ、カンちゃんが連れ去られた」
「尊い人を失ってしまいましたね」
ずるずると連れ去られる俺を見て、史と神崎がヨヨヨ……とハンカチで目頭を押さえる動作をするのが見えた。
勝手に俺を殺すな。
俺は一生懸命手を引き剥がそうと身じろぎをするが、なかなか力が強く、逃げることが出来ない。
「ハハハ。ちょうど、飲みフレンドは欲しかったトコロですねー。あ、どうぞココに座ってくださーい。遠慮は要りません」
白人男性はそう言って刑事課のソファに俺をポイっと投げ、俺はボスンとソファに軟着陸をする。
いやいや。ココはお前の家じゃないからな、警察署の部屋だからなという根本的なツッコミを入れる元気さえ無かった俺は、ギロリと入り口の方をみる。
其処には史が口パクで『頑張れ』と言いながら俺に向けて満面の笑みを浮かべていた。
「あの野郎……」
俺が小声で呟いていると、
「オマタセでーす」
白人男性は何処からかグラスを持って帰ってきた。コイツもう、刑事課の食器棚の場所まで把握しているのか。
「どうぞー」
そう言って男性は俺にグラスを手渡して、なみなみと俺の持っているグラスに茶色い液体を注いでいく。
「じゃー、かんぱーい」
注ぎ終わると、問答無用でグラス同士をぶつからせ、男性はその液体を一気に飲み干した。
「ぷはー。イチニチの終わりはやっぱコレですねぇ。さ、飲め飲め」
「いや、俺は、公務中というかそんなんで、飲めないのだが」
俺が飲酒を必死に断ると、男性は凄い目つきで俺を睨む。
「オレが注いだ酒が飲めんというのデスかー?」
「いや、そういうわけじゃなんだが……」
すると、険しい目つきから急にニコニコし始める男性。
「大丈夫デース。働き盛りなオニイさんのために、それはアルコールじゃありまセーン。バーリーティーでーす」
バーリーティ? とオレはスマホを出して【テリトリー】で『バーリーティ』について検索する。すると、出た答えが、
『麦茶』
だった。
いやいや、麦茶と安心させておいてビールとかいうオチではなかろうかと、恐る恐るグラスに入っている液体に口を付けた。すると、口の中に広がったのは、
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