クローバー

鹿ノ杜

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本田泰久と四ツ橋すみれ 13

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 最近、ジュンと夜のドライブをすることが日課になっている。ケントさんの車を運転することにも慣れたようで、今夜はどこに行きましょうか、とジュンから誘ってくることが多い。目的地なんてその場の思いつきでただ走るために走っているような、そんな時間だった。
 助手席の窓を思い切り開けて吹き込んでくる風が生ぬるく、ああ、もう夏だな、なんて感じる瞬間に、もう夏ですね、とジュンが言う。一人じゃないってことが、こんなにも心強いってことが何よりも幸せだ。
「この道がね、特に気に入ってるんですよ」
 不規則できらびやかな夜景の中、坂道を下っていく。今にも飛んでいけそうだ。
「井の頭通りから代々木公園、表参道に抜ける道。渋谷のスクランブルスクエアがもうすぐできる。ほら、たまにテスト点灯してるんですよ。新宿のドコモタワー、ビルのすき間から東京タワーも見える。日中はどれもこれも白っぽい建物で、没個性的で、見分けがつかないけど、夜になって色がつく」
「うん、きれいだ」
「東京の夜のお守りみたいな光景だと思ってます」
「ジュン、なんか変わった」
「え? どこがですか?」
「いや、どこがってわけじゃないけど、いい方に」
「なんですか、それ」
 ジュンは笑って、
「そうだ、ケントさんを迎えにでも行きましょうか」
 と、提案した。
「いいね。メールしてみようか。ケントさんの会社の場所、わかるの?」
「わかりますよ。たまに迎えに行くんで。あっちの、東京タワーの方です」
 高層ビルが立ち並ぶ通りに着くとビルの照明と疎らなタクシー、点滅する信号とで夜がカラフルだった。
「ケントさんってこんな都心で働いてるんだ」
「僕も初めて来たときはビビりました」
「すごいよなあ。あの人、おれの年にはクローバー、買ってたし」
「ほんと、すごい」
「あ、メール、返ってきた。もうすぐ終わるからビルの前に車を停めて、だってさ」
「おっけーです」
 まもなくケントさんがやってきて、疲れたー、と言いながら後部座席に乗り込んだ。
「遅くまでお仕事、お疲れ様」
 後ろを振り返って言う。
「いや、仕事というか。後輩が相談したいことがあるっていうから。結婚ってどうなんですか、って。俺に聞かれてもさ。離婚してるしさ」
「だからじゃないの?」
「結婚ねえ」
 ケントさんがつぶやく。
 走り出した車内は静まり返って、たぶん、みんな考えごとをしているんだと思う。
 しばらくしてジュンが口を開く。
「お互いがお互いにとっての生きる意味というか。そういう存在になることですよね」
 続けておれも思ったままのことを言う。
「まあ、結婚してもしなくても、人が人を想うことって簡単じゃないし、だからこそ一度想えばその気持ちをなかったことにはできないんだな」
 口にしてからこれはジュンに向けた言葉になっていることに気づく。
 思い思いに自分の考えを広げてみせるから三人で話すことが好きだ。ケントさんは何と言うかなと待ってみたが、そうか、と言ったきり口をつぐんだ。
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