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女子高生 三枝文華
幼少期の記憶
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今日の体育は男女混合のドッジボールらしい。私はいつも通り見学。体育は比較的楽なスポーツの時に出席し単位を取る。
「あれ?三枝さんも見学?」
声のした方に振り向くと左手首に包帯を巻いた十神が居た。
「ええ…。」
左手首に包帯…まさか十神もリストカットを…?
そんな憶測が頭を過ったがすぐにそんな訳ないと思い直した。私は十神と同じように左手首に巻いた包帯が見えないよう、ジャージの袖を伸ばした。
「聞いてよ。昨日階段から落ちてさぁ…左手首思っきし捻ったんだよ……超痛え……」
言葉ではそう言いながらも十神は笑っている。
「そう…早く治ると良いわね…」
私はそう短く返した。
グラウンドの隅のベンチには私と十神だけ。他に見学者は居ないらしい。
「あっれぇ~?今日学級委員2人揃って見学じゃん!」
クラスの所謂一軍のリーダー格の女が私たちを指差しながら下品な声で笑っている。
「それな!つーか俺、三枝が体育やってるとこ見た事ねぇんだけど」
私が呪い殺した男の取り巻きだった男が便乗した。あれだけ毎日行動を共にしていた友達を突然亡くしても笑っていられるメンタルだけは尊敬に値する。…まぁ、DQNの友情なんて薄っぺらいものだと言われればそれまでだが。
「ねぇ、三枝さん、仮病なんでしょ?だったらドッジ参加しなよ」
一軍女達がゾロゾロと私の元へ寄ってくる。気持ち悪いなぁ…
「いや、三枝さん仮病じゃないよ!」
十神が女達に向かって言った。
しかし、
「はぁ?じゃあ何の病気なの?」
すぐに女に聞き返された。
えーと、それは…と言いながら私を見る十神。その時、体育教師が号令をかけた。女達は虫の居所が悪そうな顔をしながら戻って行った。
「さ、三枝さん…その……」
「あいつらを殺すな…そう言いたいのですか?」
どうやら図星だったらしく十神は私から目を逸らした。彼は何処までお人好しなのだろう。
「残念ですが…殺さないとは言い切れません。すみませんね…」
私の所為で空気が重くなった。
暫くの沈黙の後、耐えられなくなったのか十神が口を開いた。
「あのさ…その…三枝さんのその…特殊能力?は……いつから使えるようになったの?」
十神のその質問で、私の脳内に幼少期の記憶が蘇った。
「私の所為で……姉が死んだんです。」
開口一番重い話をする私に驚いた表情で硬直している十神。私は構わず姉が私を庇って死んだ話をした。
「そんな……」
十神はそれ以上何も言えない様子だ。
「姉が死んでから、姉を溺愛して私には無関心だった母親は私を恨むようになりました。『あんたが死ねばよかったのに』って腐るほど言われましたよ。父親は仕事ばかりで家庭を顧みないので、幼かった私に救いなどありませんでした。」
淡々と話す私を見つめる十神の瞳が揺らいでいる。まあ、普通はこんな人生歩まないだろうし当たり前か。
「それである日…姉を殺した飲酒運転男から謝罪の手紙が届いたんです。母親がぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に捨てたそれを、何故かその時の私は拾って自分の部屋に持っていったんです。この時の自分がなぜそのような行動をしたのか私自身今でも分からないんですけど…その時の私は何かに取り憑かれたようにハサミで自分の手首を切って、滴る血で手紙の差出人…姉を殺した男の名前を赤く染めていました。次の日、その男が死んだという話を母親から聞かされました。……これが、私が能力を初めて使った時の話です。まだ6歳でした。」
話し終えて私は無駄な事を話し過ぎたと反省した。
「ごめんなさい。十神くん。余計な事まで話してしまいましたね…」
「いや、大丈夫だよ……。聞いたの俺だし……。」
私を気遣ってくれる十神。だが彼の口調は震えている。
「こんな力があるなら…自殺するべきですよね……でも、私のこの能力で私自身は殺せないみたいなんです。」
俯いた私の左肩にそっと暖かい感触があった。十神の手だ。
「自殺なんて…しないで欲しい。……俺なんかがとやかく言う事じゃないかもしれないけど…その…お姉さんが亡くなったのは犯人だけが悪いし、三枝さんは何も悪くないと思う。だから…三枝さんには自分を責めるのも傷付けるのも…他人を傷付けることもしないで欲しい…かな。」
ありがとうという気持ちと、私の事など何も知らない癖にという気持ちが、私の中で混ざりあって矛盾した。
「あれ?三枝さんも見学?」
声のした方に振り向くと左手首に包帯を巻いた十神が居た。
「ええ…。」
左手首に包帯…まさか十神もリストカットを…?
そんな憶測が頭を過ったがすぐにそんな訳ないと思い直した。私は十神と同じように左手首に巻いた包帯が見えないよう、ジャージの袖を伸ばした。
「聞いてよ。昨日階段から落ちてさぁ…左手首思っきし捻ったんだよ……超痛え……」
言葉ではそう言いながらも十神は笑っている。
「そう…早く治ると良いわね…」
私はそう短く返した。
グラウンドの隅のベンチには私と十神だけ。他に見学者は居ないらしい。
「あっれぇ~?今日学級委員2人揃って見学じゃん!」
クラスの所謂一軍のリーダー格の女が私たちを指差しながら下品な声で笑っている。
「それな!つーか俺、三枝が体育やってるとこ見た事ねぇんだけど」
私が呪い殺した男の取り巻きだった男が便乗した。あれだけ毎日行動を共にしていた友達を突然亡くしても笑っていられるメンタルだけは尊敬に値する。…まぁ、DQNの友情なんて薄っぺらいものだと言われればそれまでだが。
「ねぇ、三枝さん、仮病なんでしょ?だったらドッジ参加しなよ」
一軍女達がゾロゾロと私の元へ寄ってくる。気持ち悪いなぁ…
「いや、三枝さん仮病じゃないよ!」
十神が女達に向かって言った。
しかし、
「はぁ?じゃあ何の病気なの?」
すぐに女に聞き返された。
えーと、それは…と言いながら私を見る十神。その時、体育教師が号令をかけた。女達は虫の居所が悪そうな顔をしながら戻って行った。
「さ、三枝さん…その……」
「あいつらを殺すな…そう言いたいのですか?」
どうやら図星だったらしく十神は私から目を逸らした。彼は何処までお人好しなのだろう。
「残念ですが…殺さないとは言い切れません。すみませんね…」
私の所為で空気が重くなった。
暫くの沈黙の後、耐えられなくなったのか十神が口を開いた。
「あのさ…その…三枝さんのその…特殊能力?は……いつから使えるようになったの?」
十神のその質問で、私の脳内に幼少期の記憶が蘇った。
「私の所為で……姉が死んだんです。」
開口一番重い話をする私に驚いた表情で硬直している十神。私は構わず姉が私を庇って死んだ話をした。
「そんな……」
十神はそれ以上何も言えない様子だ。
「姉が死んでから、姉を溺愛して私には無関心だった母親は私を恨むようになりました。『あんたが死ねばよかったのに』って腐るほど言われましたよ。父親は仕事ばかりで家庭を顧みないので、幼かった私に救いなどありませんでした。」
淡々と話す私を見つめる十神の瞳が揺らいでいる。まあ、普通はこんな人生歩まないだろうし当たり前か。
「それである日…姉を殺した飲酒運転男から謝罪の手紙が届いたんです。母親がぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に捨てたそれを、何故かその時の私は拾って自分の部屋に持っていったんです。この時の自分がなぜそのような行動をしたのか私自身今でも分からないんですけど…その時の私は何かに取り憑かれたようにハサミで自分の手首を切って、滴る血で手紙の差出人…姉を殺した男の名前を赤く染めていました。次の日、その男が死んだという話を母親から聞かされました。……これが、私が能力を初めて使った時の話です。まだ6歳でした。」
話し終えて私は無駄な事を話し過ぎたと反省した。
「ごめんなさい。十神くん。余計な事まで話してしまいましたね…」
「いや、大丈夫だよ……。聞いたの俺だし……。」
私を気遣ってくれる十神。だが彼の口調は震えている。
「こんな力があるなら…自殺するべきですよね……でも、私のこの能力で私自身は殺せないみたいなんです。」
俯いた私の左肩にそっと暖かい感触があった。十神の手だ。
「自殺なんて…しないで欲しい。……俺なんかがとやかく言う事じゃないかもしれないけど…その…お姉さんが亡くなったのは犯人だけが悪いし、三枝さんは何も悪くないと思う。だから…三枝さんには自分を責めるのも傷付けるのも…他人を傷付けることもしないで欲しい…かな。」
ありがとうという気持ちと、私の事など何も知らない癖にという気持ちが、私の中で混ざりあって矛盾した。
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