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女子高生 三枝文華
姉の存在
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「ただいま……」
そんな事を言った所で母からの返事などあるはずが無い。無駄に広い玄関に吸い込まれるように消える私の声。
私は2階の自室に戻る前にリビングへ向かった。
「ただいま…お姉ちゃん…」
お姉ちゃん…とは言っても姉は小学4年生の頃、飲酒運転の車に撥ねられそうになった5歳の私を庇って亡くなったから、写真の姉は今の私より6歳も年下だ。無邪気に笑う可愛い姉…私とは正反対……
「写真…埃被ってるな……」
私が姉の写真を拭こうと手に取った時、
「触らないでっ!」
突如現れた母が私から写真を引ったくると同時に私を突き飛ばした。
「綺華……可哀想な綺華………。文華!あんたの穢れた手で気安く綺華に触れないで!」
母は鬼の形相で私を睨み付けると姉の写真を元の場所に戻した。
「ほんとに…何で綺華なのよ……あなたのせいよ文華!あなたのせいで綺華は死んだの!私は…あなたなんか要らなかったのに…あなたが死ねば良かったのよ!」
「…ごめんなさい。」
私はただ謝る事しか出来ない。
姉の死後、私はずっとこのように母に責められ続けている。その度に私はただただ俯いて謝る他無い。
ーーー
自室に戻りカバンを置くと、私は机の引き出しから1冊のノートを取り出した。
赤茶色に汚れたそのノートを開くと、一人の人間の名前がページの隅から隅までびっしりと書かれている。
三枝文華…そう、私の名前だ。
その名前を覆うように赤茶色のインク…私の血液がまるで悪趣味なアートのように付着している。
私はその汚いノートのページを捲り、血が滲んだ新しいページにも同じように自分の名前を書いた。そして、ペン立てからカミソリを取り手首を深く切った。
私の直筆のフルネームの上にボタボタと滴る血液。こうすれば私は死ぬはず…それなのに……
「どうして…どうして私は死ねないの……?」
私の特殊能力が唯一殺せない人間…それは私自身。
何故なのかは分からない。そもそも私にこんな能力がある理由すら分からないのだから。
それでも私は毎日手首を切る。私が最も復讐したい人間は姉を殺した醜い私。母の言う通りあの時死ぬべきだったのは姉ではなく私なんだ。
「死ね…死ね……死ねっ!」
滴る血液が私の名前を赤く染めてゆく。でも、それでも多分私は明日も生きている。
「死ね…死ね……死ね…し…………お願い…もう死なせて……」
どれだけ深く刻んでも手首はとっくに痛みを感じなくなっていた。
私は眩暈に襲われそのまま机に突っ伏して気を失った。
そんな事を言った所で母からの返事などあるはずが無い。無駄に広い玄関に吸い込まれるように消える私の声。
私は2階の自室に戻る前にリビングへ向かった。
「ただいま…お姉ちゃん…」
お姉ちゃん…とは言っても姉は小学4年生の頃、飲酒運転の車に撥ねられそうになった5歳の私を庇って亡くなったから、写真の姉は今の私より6歳も年下だ。無邪気に笑う可愛い姉…私とは正反対……
「写真…埃被ってるな……」
私が姉の写真を拭こうと手に取った時、
「触らないでっ!」
突如現れた母が私から写真を引ったくると同時に私を突き飛ばした。
「綺華……可哀想な綺華………。文華!あんたの穢れた手で気安く綺華に触れないで!」
母は鬼の形相で私を睨み付けると姉の写真を元の場所に戻した。
「ほんとに…何で綺華なのよ……あなたのせいよ文華!あなたのせいで綺華は死んだの!私は…あなたなんか要らなかったのに…あなたが死ねば良かったのよ!」
「…ごめんなさい。」
私はただ謝る事しか出来ない。
姉の死後、私はずっとこのように母に責められ続けている。その度に私はただただ俯いて謝る他無い。
ーーー
自室に戻りカバンを置くと、私は机の引き出しから1冊のノートを取り出した。
赤茶色に汚れたそのノートを開くと、一人の人間の名前がページの隅から隅までびっしりと書かれている。
三枝文華…そう、私の名前だ。
その名前を覆うように赤茶色のインク…私の血液がまるで悪趣味なアートのように付着している。
私はその汚いノートのページを捲り、血が滲んだ新しいページにも同じように自分の名前を書いた。そして、ペン立てからカミソリを取り手首を深く切った。
私の直筆のフルネームの上にボタボタと滴る血液。こうすれば私は死ぬはず…それなのに……
「どうして…どうして私は死ねないの……?」
私の特殊能力が唯一殺せない人間…それは私自身。
何故なのかは分からない。そもそも私にこんな能力がある理由すら分からないのだから。
それでも私は毎日手首を切る。私が最も復讐したい人間は姉を殺した醜い私。母の言う通りあの時死ぬべきだったのは姉ではなく私なんだ。
「死ね…死ね……死ねっ!」
滴る血液が私の名前を赤く染めてゆく。でも、それでも多分私は明日も生きている。
「死ね…死ね……死ね…し…………お願い…もう死なせて……」
どれだけ深く刻んでも手首はとっくに痛みを感じなくなっていた。
私は眩暈に襲われそのまま机に突っ伏して気を失った。
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