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右上ノエル
潜伏
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脱獄から数年、私は29歳になった。
脱獄してからずっと指名手配されている為、偽名を使い全国の田舎町を転々としてきた。そして今居るのは幼い頃住んでいたとある田舎の片隅…。
ある日の夕方、仕事を終え住み込みの寮へ戻ろうとした時、近所の人達が話している声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ知ってる?殺人と詐欺と薬物で捕まって脱獄した指名手配犯の女…。」
その台詞に私の心臓が強く脈打った。
「あー、右上だっけ?やばいよねアイツ…。」
脱獄してすぐ闇医者に整形してもらったし、その後も何度も整形してるからバレる訳ない。そう自分に言い聞かせる私。
「そうそうそいつ!そいつがさぁ…噂によるとこの集落出身らしいんだよね……。」
「え?まじ?やばくない?」
まさか私が右上ノエルだと勘づかれた?
私の鼓動は速くなっていく。
「そんな奴と地元が一緒だなんてまじ最悪だよな!」
「ほんと、この地域の恥だぜあの女。」
話はだんだん私に対する罵詈雑言に変わっていった。まあ私の正体がバレない限りどうでもいいんだけどね。右上ノエルなんてとっくに捨てた人格だし。
バレた訳では無い事に安心した私が踵を返した時、
「ちょっとあなたたち!下らない悪口を言うのはやめなさい!」
振り返ると、噂話をしていた男女の集団に近所の農家のおばさんが怒っていた。
「はぁ?なんですか農山さん。あなたには関係ないでしょう?」
農家のおばさん…農山さんに詰め寄る男女。しかし、農山さんは動じずに言い返した。
「いいえ!私はノエルちゃんの事はよく知ってるわ!元気で明るくて礼儀正しくて……あの子が殺人なんてするわけないじゃない!きっと冤罪よ!」
必死に私を擁護する農山さん。その姿を見て私は思い出した。この人は小さい頃私に良くしてくれた近所のおばさん…美穂子おばさんだ!今まで逃げ隠れする事に必死で気付かなかったけど…美穂子おばさん…まだこの集落に居たんだ……。
「いや、農山さん…あの女が犯人だっていう証拠は揃ってるらしいっすよ?犯罪者なんて皆嘘つくだろ。」
呆れたように言う1人の男に他の人間も頷いている。しかし、美穂子おばさんだけは違った。
「きっと誰かにハメられたのよ……。とにかく私はノエルちゃんを信じるわ!あなた達も下らない悪口はやめなさい!いいわね!?」
美穂子おばさんに強く言われて男女はブツブツと文句を言いながらその場を立ち去った。
そして、私の目から大量の涙が溢れ出した。
知らなかった。今でも私を信じてくれる人が居るなんて……。私の味方なんてもうどこにも居ないと思っていたから。
小さい頃親にネグレクトされていた時、私はいつも美穂子おばさんの家に行って泣いていた。おばさんの優しさは今も変わっていない……。
私は涙を拭い決意した。
私を人殺しに仕立て上げた真犯人を見つけ出し、詐欺とクスリの罪だけ償ってもう一度人生をやり直す事を。
脱獄してからずっと指名手配されている為、偽名を使い全国の田舎町を転々としてきた。そして今居るのは幼い頃住んでいたとある田舎の片隅…。
ある日の夕方、仕事を終え住み込みの寮へ戻ろうとした時、近所の人達が話している声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ知ってる?殺人と詐欺と薬物で捕まって脱獄した指名手配犯の女…。」
その台詞に私の心臓が強く脈打った。
「あー、右上だっけ?やばいよねアイツ…。」
脱獄してすぐ闇医者に整形してもらったし、その後も何度も整形してるからバレる訳ない。そう自分に言い聞かせる私。
「そうそうそいつ!そいつがさぁ…噂によるとこの集落出身らしいんだよね……。」
「え?まじ?やばくない?」
まさか私が右上ノエルだと勘づかれた?
私の鼓動は速くなっていく。
「そんな奴と地元が一緒だなんてまじ最悪だよな!」
「ほんと、この地域の恥だぜあの女。」
話はだんだん私に対する罵詈雑言に変わっていった。まあ私の正体がバレない限りどうでもいいんだけどね。右上ノエルなんてとっくに捨てた人格だし。
バレた訳では無い事に安心した私が踵を返した時、
「ちょっとあなたたち!下らない悪口を言うのはやめなさい!」
振り返ると、噂話をしていた男女の集団に近所の農家のおばさんが怒っていた。
「はぁ?なんですか農山さん。あなたには関係ないでしょう?」
農家のおばさん…農山さんに詰め寄る男女。しかし、農山さんは動じずに言い返した。
「いいえ!私はノエルちゃんの事はよく知ってるわ!元気で明るくて礼儀正しくて……あの子が殺人なんてするわけないじゃない!きっと冤罪よ!」
必死に私を擁護する農山さん。その姿を見て私は思い出した。この人は小さい頃私に良くしてくれた近所のおばさん…美穂子おばさんだ!今まで逃げ隠れする事に必死で気付かなかったけど…美穂子おばさん…まだこの集落に居たんだ……。
「いや、農山さん…あの女が犯人だっていう証拠は揃ってるらしいっすよ?犯罪者なんて皆嘘つくだろ。」
呆れたように言う1人の男に他の人間も頷いている。しかし、美穂子おばさんだけは違った。
「きっと誰かにハメられたのよ……。とにかく私はノエルちゃんを信じるわ!あなた達も下らない悪口はやめなさい!いいわね!?」
美穂子おばさんに強く言われて男女はブツブツと文句を言いながらその場を立ち去った。
そして、私の目から大量の涙が溢れ出した。
知らなかった。今でも私を信じてくれる人が居るなんて……。私の味方なんてもうどこにも居ないと思っていたから。
小さい頃親にネグレクトされていた時、私はいつも美穂子おばさんの家に行って泣いていた。おばさんの優しさは今も変わっていない……。
私は涙を拭い決意した。
私を人殺しに仕立て上げた真犯人を見つけ出し、詐欺とクスリの罪だけ償ってもう一度人生をやり直す事を。
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