呪部屋の生贄

猫屋敷 鏡風

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左川ミエカ

悪戯メール

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あの後私は取り敢えずお酒を買ってノエルの怒りを沈めた。結局私はノエルの言いなり。10年前と何も変わっていない。

朝、通勤路の商店街を1人とぼとぼと歩いていると、小学生2人の話し声が耳に入った。

「ねぇねぇ!呪部屋って知ってる?」

1人の少女のその言葉に私の心臓は凍りついた。
呪部屋…あの日私とノエルが月原さんを閉じ込めたあの音楽室の話……?

「今は立ち入り禁止になってる旧校舎あるじゃん?あそこの音楽室にさぁ…出るんだって!」

「え…出るって……幽霊?」

少女たちが話しているのは紛れも無くあの部屋のことだ。私の頭にあの日の事が甦り罪悪感が増す。

「その幽霊を呼び出すにはね!音楽室の前で3回回って『ミサリちゃん、遊ぼうよ。』って言うんだよ!」

少女の口から出た衝撃的な言葉に私は震えた。
確かに彼女は言った…幽霊の名前は『ミサリ』だと。

「だけどね、呼び出したらミサリちゃんに殺されちゃうんだって!」

「えぇー!何それ怖い!…でもなんか変わってるね『ミサリ』って!普通花子さんとかじゃん?」

「だよね。なんでもそのミサリちゃんってのがさぁ、10年前に呪部屋から……」

これ以上は聞きたくない。
私は耳を塞いで走り出した。

(ミサリちゃん……絶対月原さんのことだ…………)

忘れよう…今の話は聞かなかったことにしよう……そう自分に言い聞かせながら私は会社へ向かった。

ーーー

会社に着くと社員達の雰囲気が何かおかしい。出勤した私に気が付くとこっちを見ながら何かヒソヒソと話している。

(私……何かミスでもしたかな?)

「あ、あの…どうかしたんですか?」

恐る恐る私は上司の上ヶ岡じょうがおかさんに尋ねた。

「どうしたもこうしたもないわよ!これ、どういうこと?こんなメールがあんたから10件以上届いたんだけど!?しかもこの会社の社員全員に!」

メール?私には一切身に覚えが無い。
しかし、上ヶ岡さんに見せつけられた携帯画面を見て私はぎょっとした。

『死ね死ね消えちまえドブス°[]°』

『…どーも、左川っすケド…てかさァこの会社もうすぐ潰れんじゃねぇの?会長とかマジキモイし……』

「死ね死ね……?私っ…こんなの書いてないです!」

冤罪を訴える私。しかし、上ヶ岡さんはそんな私の訴えを無視し私を平手打ちした。

「嘘つくのやめなさい!これ、あなたのアドレスでしょう!?」

上ヶ岡さんの言う通り送り主は確かに私のアドレスだった。でも私はやっていない。私が戸惑っていると同僚のルミが口を開いた。

「やめてください上ヶ岡さん!もしかしたら誰かがミエカの携帯盗んでやったのかもしれないでしょう!?」

私を助けようと必死で別の可能性を挙げてくれるルミ。しかし上ヶ岡さんは私の鞄のポケットからはみ出していた携帯を取り出し、

「じゃあなんでこいつ今携帯持ってるの?」

とルミを問い詰めた。
それは…とルミが困っていると、私と仲の良いもう1人の同僚リカが私達の前に出た。

「例えばですけど…ミエカが寝ている間に誰かが忍び込んでやった…とかじゃないですか?……言っちゃ悪いけどミエカのアパート古いし…。ついこの前も同じアパートの人が空き巣にあったって聞きました!」

リカのその言葉に上ヶ岡さんも「その可能性もありそうね…」と頷いた。

「…とにかく、今回の件はミエカのアドレスが第三者に悪用されたに決まってます!不正アクセスとか…!」

「ルミの言う通りです!ミエカは昨日新しいプロジェクトの企画が採用されたばかりなんですよ!?こんなくだらないイタズラして何のメリットがあるんですか!?」

必死に上ヶ岡さんに私の無実を訴えてくれるルミとリカ。2人の意見に上ヶ岡さんはため息をついた。

「…分かったわ。今回は私が上の人間を説得してあげるから、二度とこんなことが起きないようにしなさい!いいわね?」

そう言い残して立ち去る上ヶ岡さんに、

「す、すみませんでした!」

と私は咄嗟に頭を下げた。

ーーー

「ルミ、リカ、ありがとう…。」

上ヶ岡さんを説得してくれた2人に私はお礼を言った。

「別にいいわよ!だってうちら友達だもん!」

と笑顔で答えるリカ。

「あ、あのねっ…私っ…本当にやってないの!」

無実を訴える私に2人とも頷いてくれる。
暫く黙り込んでいると、

「あ、ミエカ!ミエカって一緒に住んでる人居たよね!?」

ルミのその言葉に私はハッとした。

(ノエル…ノエルが私の寝ている間に……!?昨日喧嘩したし…その腹いせに!?)

ーーー

「はァ!?イタズラ!?何で私がそんなことしなきゃなんねぇんだよ!?」

家に帰りノエルを問い詰めると案の定ノエルは怒った。

「だ、だって、こんな事出来るのは……」

言いかけた私をノエルは思いっ切り殴り倒した。

「てめぇなぁ!!ダチのこと疑うってどんな頭してんだ!?あぁ!?」

倒れ込んだ私を何度も蹴りながらノエルは怒り狂っている。

「ごっ……ごめ…………」

ノエルの暴力に耐えながら私はノエルの怒りが鎮まるのを待つしかない。
ノエルは私の上に馬乗りになると私の頭を掴んでこう言った。

「てめぇは私の財布なんだよ…そんなてめぇが仕事クビになったら私だって困るだろ?」

確かにノエルの言う通りだ。私はそこまで考えずにノエルを怒らせてしまったことを酷く後悔した。

「フッ…世間でまともに生きていける社会人サマのクセにアタマ足りねぇんじゃねーの?…まぁいいや。これからもずぅーーっと私の財布でいろよ?ぎゃははははは!!」

ノエルは私を突き放すと悪魔の様な笑い声を上げ家を出ていった。きっとまたお酒を買いに行ったんだろう。それだけならまだいいのだが…最近のノエルは前にも増してどんどんおかしくなっている。もしかしたら変なクスリでもやっているのかもしれない。いつになったら私はノエルから離れられるのだろう?そんな事を考えながらいつの間にか私は眠ってしまった。
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