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大会
目的は?③
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辰子の出番はいつなのだろうか。
キラキラ女子目当てで来た俺は、何も調べず、何もわからずこの会場にいた。
優は同じく何もわかってなさそうだったが、知らない高校生が戦う様子をスゲースゲー言いながら楽しそうに見ていた。
確かに生で見る柔道の試合は迫力が違った。
今、目の前でやっている試合は男子の試合だが、みんながたいがいい。デカイ男同士が戦う様子は圧倒されてしまう。
この中から将来のオリンピック選手がうまれたりするのだろうか。スゲーな。俺も帰宅部でぶらぶらしてないで、高校生のうちに何か将来につながるものを見つけたい。キラキラ女子とのワンチャン目当てという邪まな気持ちだけで来たのに、こんな真面目に将来を考えることになるなんて。刺激受けまくってるんだな、俺。
ただ、キラキラ女子探しを諦めた訳ではない。
「ちょっと便所行って来るわ。」
優にそう言って、徹也は席を立った。
よし。俺の明るい将来のためにもキラキラ女子探しだ。彼女を作って高校生活を謳歌する。そんな将来だって素敵じゃないか。夢に向かって歩くぞ。
てな感じで会場内をぶらぶらしていた。
まあ一応便所も行った。後で優に場所聞かれるかもしれないし。そのへんは抜かりなく。
で、便所の前でハンカチを拾った。控えめな花がらの上品なハンカチ。明らかに女物だ。よし、これを綺麗なキラキラ女子に渡してそこから恋が生まれるストーリー、見えたぞ。いいじゃん、悪くない。
よく見るとハンカチには「T.T」と刺繍がしてあった。イニシャルだろうが、TTと言われると、某芸人の兄弟設定のギャグしか浮かばない。
俺の将来の彼女、TTはどこにいるのかな。結婚したらTO。俺と一緒だ。運命かもな。ポワンと夢見心地でまだ見ぬ彼女との結婚まで思い描いていた、その時。
ドドドドドー。本当にこの効果音がぴったりの走り方で辰子が真っ直ぐにこちらへ走ってきたのだ。
「お、おう、辰子」
俺は圧倒されながらもそう声をかけた。
「ありがとう、探してたの!」
そう言って辰子はいきなり俺の手を握った。
何なんだよ。俺が探してるのは綺麗なキラキラ女子だぞ。俺は将来の彼女を探してたんだぞ。辰子じゃない。
「何?」
イライラを隠し切れない声でそう言った俺の手から、辰子はハンカチを奪い取っていった。
「このハンカチ、大切な物なの。ありがとう、見つけてくれて。お守りに持ってきたのに落としちゃって、探し回ってたんだよね。」
俺は、自分の勘違いと今の状況を完全に理解した。
「辰子のだったんだ、そのハンカチ。だからT.Tか。なんだ。」
何とか言葉の最後はなんだ、までで止めた。もう少しで、なんだがっかりした、と本音がこぼれるところだった。
「そうなんだけど、違うんだよね。このハンカチ、私のお母さんの物なの。高木玉美。玉のように美しい、だからお守りにしてるの。それに自分のハンカチじゃお守り感なくない?」
「んー、あー、そうなの?まあでも見つかってよかったじゃん。落としたのも厄落とし的な?ハンカチ落として試合落とさずみたいな?がんばれよ。」
綺麗な女子のハンカチではないと分かり、低くなったテンションのままテキトーに辰子に返事をした。
そして辰子はいつものごとく相手の反応をあまり気にしないまま、元気に、そしてもう1度俺の手をにぎりぶんぶん振りながら答えた。
「そうだね!ハンカチ落として試合落とさず!いい事言ってくれてありがとう!頑張るね!」
「小川くん、柔道好きなの?午前中の男子の部から見にくるなんて。クラスの女子は、柔道よくわかんないけど、応援したいって言ってくれて、私の出番の午後から来るって言ってたよ。」
「えっ!?んーそうだね、俺、見るの好きなんだ、柔道とかプロレスとか。」
あー、なんだよ。それじゃ見つかるわけないじゃん。もうそしたら好きだから見てる設定以外ないじゃん。もう完全に嘘バレるだろって話し方でもバレないのが辰子のいいところ。
「そっか!楽しいもんね、柔道もプロレスも!なんだ、もっと早くから好きだって知ってたらたくさん話しかけたのになー!言ってよ!」
「ははは、ごめんごめん。」
もう俺はやけくそだ。
「私、そろそろ戻るね!ありがとう!」
ハンカチをひらひらさせながら、辰子はまたドドドドーっと走り去って行った。嵐が去った。そして俺の将来の彼女との儚い妄想も散った。
キラキラ女子目当てで来た俺は、何も調べず、何もわからずこの会場にいた。
優は同じく何もわかってなさそうだったが、知らない高校生が戦う様子をスゲースゲー言いながら楽しそうに見ていた。
確かに生で見る柔道の試合は迫力が違った。
今、目の前でやっている試合は男子の試合だが、みんながたいがいい。デカイ男同士が戦う様子は圧倒されてしまう。
この中から将来のオリンピック選手がうまれたりするのだろうか。スゲーな。俺も帰宅部でぶらぶらしてないで、高校生のうちに何か将来につながるものを見つけたい。キラキラ女子とのワンチャン目当てという邪まな気持ちだけで来たのに、こんな真面目に将来を考えることになるなんて。刺激受けまくってるんだな、俺。
ただ、キラキラ女子探しを諦めた訳ではない。
「ちょっと便所行って来るわ。」
優にそう言って、徹也は席を立った。
よし。俺の明るい将来のためにもキラキラ女子探しだ。彼女を作って高校生活を謳歌する。そんな将来だって素敵じゃないか。夢に向かって歩くぞ。
てな感じで会場内をぶらぶらしていた。
まあ一応便所も行った。後で優に場所聞かれるかもしれないし。そのへんは抜かりなく。
で、便所の前でハンカチを拾った。控えめな花がらの上品なハンカチ。明らかに女物だ。よし、これを綺麗なキラキラ女子に渡してそこから恋が生まれるストーリー、見えたぞ。いいじゃん、悪くない。
よく見るとハンカチには「T.T」と刺繍がしてあった。イニシャルだろうが、TTと言われると、某芸人の兄弟設定のギャグしか浮かばない。
俺の将来の彼女、TTはどこにいるのかな。結婚したらTO。俺と一緒だ。運命かもな。ポワンと夢見心地でまだ見ぬ彼女との結婚まで思い描いていた、その時。
ドドドドドー。本当にこの効果音がぴったりの走り方で辰子が真っ直ぐにこちらへ走ってきたのだ。
「お、おう、辰子」
俺は圧倒されながらもそう声をかけた。
「ありがとう、探してたの!」
そう言って辰子はいきなり俺の手を握った。
何なんだよ。俺が探してるのは綺麗なキラキラ女子だぞ。俺は将来の彼女を探してたんだぞ。辰子じゃない。
「何?」
イライラを隠し切れない声でそう言った俺の手から、辰子はハンカチを奪い取っていった。
「このハンカチ、大切な物なの。ありがとう、見つけてくれて。お守りに持ってきたのに落としちゃって、探し回ってたんだよね。」
俺は、自分の勘違いと今の状況を完全に理解した。
「辰子のだったんだ、そのハンカチ。だからT.Tか。なんだ。」
何とか言葉の最後はなんだ、までで止めた。もう少しで、なんだがっかりした、と本音がこぼれるところだった。
「そうなんだけど、違うんだよね。このハンカチ、私のお母さんの物なの。高木玉美。玉のように美しい、だからお守りにしてるの。それに自分のハンカチじゃお守り感なくない?」
「んー、あー、そうなの?まあでも見つかってよかったじゃん。落としたのも厄落とし的な?ハンカチ落として試合落とさずみたいな?がんばれよ。」
綺麗な女子のハンカチではないと分かり、低くなったテンションのままテキトーに辰子に返事をした。
そして辰子はいつものごとく相手の反応をあまり気にしないまま、元気に、そしてもう1度俺の手をにぎりぶんぶん振りながら答えた。
「そうだね!ハンカチ落として試合落とさず!いい事言ってくれてありがとう!頑張るね!」
「小川くん、柔道好きなの?午前中の男子の部から見にくるなんて。クラスの女子は、柔道よくわかんないけど、応援したいって言ってくれて、私の出番の午後から来るって言ってたよ。」
「えっ!?んーそうだね、俺、見るの好きなんだ、柔道とかプロレスとか。」
あー、なんだよ。それじゃ見つかるわけないじゃん。もうそしたら好きだから見てる設定以外ないじゃん。もう完全に嘘バレるだろって話し方でもバレないのが辰子のいいところ。
「そっか!楽しいもんね、柔道もプロレスも!なんだ、もっと早くから好きだって知ってたらたくさん話しかけたのになー!言ってよ!」
「ははは、ごめんごめん。」
もう俺はやけくそだ。
「私、そろそろ戻るね!ありがとう!」
ハンカチをひらひらさせながら、辰子はまたドドドドーっと走り去って行った。嵐が去った。そして俺の将来の彼女との儚い妄想も散った。
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