不思議なことが起きても不思議じゃない日

舞浜あみ

文字の大きさ
上 下
11 / 13

雑踏から見た流れ星

しおりを挟む
「俺達に話を聞きに来たんですか?」
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
 紘彬が部室を見回しながら答えた。

「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
 紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
 紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
 聖子が持っていた紙を指した。
 差し出された紙を如月が手袋をめた手で受け取ると部室を後にした。

「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
 弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
 垂水が厳しい声で弥奈の言葉をさえぎる。

「でも、ここの部員の名字、被枕ひまくらにある名前ばかりだよねぇ」
 弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
 耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
 弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。

「わ、わたしは……」
 由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
 聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
 今度は結城が狼狽うろたえたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
 聖子はぴしゃりと言って結城の言葉をさえぎった。
「…………」
 一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。

「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
 垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。

 部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。

「学校を見て回られてたんですか?」
 垂水が訊ねた。
 紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
 母校というのは事実だが。

「いえ、署に戻ってたんです」
 小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
 警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
 それで一旦戻って調べてきたのだ。

「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
 如月にそう返されて垂水は言葉にまった。
 垂水は如月にうながされて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。

「その紙、まだありますか?」
 話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
 垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
 そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
 被枕は『大宮』

「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
 垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
 紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
 と言った。

「桜井さん、どう思いますか?」
 校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
 これから警察署に帰るのである。
 如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
 この箱は証拠品である。

「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
 そうなのだ。
 調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
 駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。

 わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。

五月二十一日――鞍馬の山――

 垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
 椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。

「それは?」
 カプセルを嚥下えんかした時、背後から声が聞こえた。
 振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
 垂水はそう答えてから、
「何か?」
 と紘彬達に訊ねた。

「確認したいことがありまして」
 如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
 如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。

 垂水は箱を手に取って改めた。
 箱に変わった点はなかった。

 が――。

「『はるひの』は入れてない」
 垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日かすが』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
 垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
 と言うことは――。

「部員に春日がいるんですか?」
 そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
 紘彬と如月が顔を見合わせる。
 昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
 垂水が弁解するように答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

静寂の園

渡波みずき
ミステリー
画家だった祖父の足跡を探して訪れた修道院にて、私はひとつのメッセージを受け取る。それは、遠く時間を隔てて、祖父から届いたもののように思われた。 第三回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞(最終選考)

五十円玉二十枚の秘密

天野純一
ミステリー
本屋でバイトする佐々木陽菜。毎週土曜日になると、謎の若い男がやってきて「五十円玉二十枚を千円札と両替してほしい」と頼んでくる。 その目的とは一体……?

大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽
ミステリー
サブとトクという二人の少年には、人並み外れた特技があった。めっぽう絵がうまいのである。 のんびり屋のサブは、見た者にあっと言わせる絵を描きたい。聡明なトクは、美しさを極めた絵を描きたい。 二人は子供ながらに、それぞれの夢を抱いていた。そんな彼らをあたたかく見守る浪人が一人。 彼の名は桐生希之介(まれのすけ)。あやかしと縁の深い男だった。

共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

処理中です...