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レストラン
七海
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「ほい、おにぎり2つ、一丁あがり!」
流石はプロのコックだ。手際の良さだけでなく、ラップの巻き方まできれいなのだ。
「あら!きれいなおにぎり。ラップを巻くとダイヤモンドみたいね。」
朝子は思わず褒めた。
「ははは、プロですから。食材が言ったのさ。ラップも雑にかけないで欲しいとね。」
「それじゃぁ渡してくるわね。」
朝子はまた裏口から出て行った。
七海は創が食材が話をするかのように言うことをいつも不思議に感じていた。そのことについて聞いてみたいと、そのたびに思うのだった。
何かに気づいたのか創が七海を見た。
「いいよ、なんでも聞いて。」
「あっ、あの、しょ食材はどう話をしますか、コックは、は話が聞けないと、だ、ダメですか?」
七海は聞きたかったことを一生懸命聞いた。スラスラと話すことができなくても、上司である創はいつも話を待つようにゆっくり聞いてくれる。
「うん、そうだね、当たり前のように食材の声、とか、食材が言ったとか言ってたね。それは気になるよね。」
七海はコクリと頷いた。
「感覚的なものになるとは思うんだけど、ちゃんと気持ちを考えてあげるんだ。さっきのラップのかけ方もそうだけど、おにぎりになったお米も、あまり潰されたくはないと思ったんだ。粒が潰れないように、ラップごしでも綺麗な粒が見えるように、そうして欲しいとお米が思ってるんじゃないかって。あとは、、、」
少しためらったあとに続けた。
「本当に聞こえるんだ。心の声みたいな感じで。新鮮だからあまり火を通し過ぎないで欲しい、とか、スパイシーな調味料と合わせて欲しい、とか。」
七海はまたコクリと頷いた。創が嘘をついているなんて、微塵も思わなかった。食材の気持ちを考える。自分はちゃんと食材と向き合えているだろうか。
「七海くんも食材とよく向き合っていると思うよ。」
心を読んだかのように創が言ったので、七海は驚いた。創は続けた。
「七海くんは食材の扱いがとても丁寧だし、簡単な料理も手を抜かないで作ってる。だから、七海くんに調理された食材たちも満足しているように見えるな。」
七海は嬉しかった。あまり話せないから、こんなことも言ってもらったことがなかったのだ。
「特にね、デザートがいいと思うんだ、七海くんの料理。」
「あっ、あっ、あの、ぱ、ぱパティシエにもな、なれたらいいなって思っていて、ど、独学なんですけど、べ、勉強、す少ししてて、、、あ、あの、ゆ、ユーチューブとかなので、べ、勉強って言えないかも、し、しれないけど、、、」
褒められたことが嬉しくて、つい七海はしゃべってしまった。
「うん、とてもいいことだよ。動画で勉強するのは分かりやすいし、立派な勉強だよ。もっと上達するね。デザートでもそれ以外のメニューでも、アイデアがあったら出してほしいな。全てを採用するわけではないと思うけど、このお店は七海くんのお店でもあるわけだから、七海くんのオリジナリティーも取り入れたいと思ってるんだ。」
七海はコクリと頷いた。嬉しかった。雇われているだけの自分を一コックとして対等に見てくれているのだ。
そんな姿を見ることができて創も嬉しかった。そして言った。
「伝言ノートを作ろうか。伝えたいことを書くノート。レシピのアイデアやそれ以外のことも。何でも書けるノート。」
七海は大きくコクリと頷いた。
流石はプロのコックだ。手際の良さだけでなく、ラップの巻き方まできれいなのだ。
「あら!きれいなおにぎり。ラップを巻くとダイヤモンドみたいね。」
朝子は思わず褒めた。
「ははは、プロですから。食材が言ったのさ。ラップも雑にかけないで欲しいとね。」
「それじゃぁ渡してくるわね。」
朝子はまた裏口から出て行った。
七海は創が食材が話をするかのように言うことをいつも不思議に感じていた。そのことについて聞いてみたいと、そのたびに思うのだった。
何かに気づいたのか創が七海を見た。
「いいよ、なんでも聞いて。」
「あっ、あの、しょ食材はどう話をしますか、コックは、は話が聞けないと、だ、ダメですか?」
七海は聞きたかったことを一生懸命聞いた。スラスラと話すことができなくても、上司である創はいつも話を待つようにゆっくり聞いてくれる。
「うん、そうだね、当たり前のように食材の声、とか、食材が言ったとか言ってたね。それは気になるよね。」
七海はコクリと頷いた。
「感覚的なものになるとは思うんだけど、ちゃんと気持ちを考えてあげるんだ。さっきのラップのかけ方もそうだけど、おにぎりになったお米も、あまり潰されたくはないと思ったんだ。粒が潰れないように、ラップごしでも綺麗な粒が見えるように、そうして欲しいとお米が思ってるんじゃないかって。あとは、、、」
少しためらったあとに続けた。
「本当に聞こえるんだ。心の声みたいな感じで。新鮮だからあまり火を通し過ぎないで欲しい、とか、スパイシーな調味料と合わせて欲しい、とか。」
七海はまたコクリと頷いた。創が嘘をついているなんて、微塵も思わなかった。食材の気持ちを考える。自分はちゃんと食材と向き合えているだろうか。
「七海くんも食材とよく向き合っていると思うよ。」
心を読んだかのように創が言ったので、七海は驚いた。創は続けた。
「七海くんは食材の扱いがとても丁寧だし、簡単な料理も手を抜かないで作ってる。だから、七海くんに調理された食材たちも満足しているように見えるな。」
七海は嬉しかった。あまり話せないから、こんなことも言ってもらったことがなかったのだ。
「特にね、デザートがいいと思うんだ、七海くんの料理。」
「あっ、あっ、あの、ぱ、ぱパティシエにもな、なれたらいいなって思っていて、ど、独学なんですけど、べ、勉強、す少ししてて、、、あ、あの、ゆ、ユーチューブとかなので、べ、勉強って言えないかも、し、しれないけど、、、」
褒められたことが嬉しくて、つい七海はしゃべってしまった。
「うん、とてもいいことだよ。動画で勉強するのは分かりやすいし、立派な勉強だよ。もっと上達するね。デザートでもそれ以外のメニューでも、アイデアがあったら出してほしいな。全てを採用するわけではないと思うけど、このお店は七海くんのお店でもあるわけだから、七海くんのオリジナリティーも取り入れたいと思ってるんだ。」
七海はコクリと頷いた。嬉しかった。雇われているだけの自分を一コックとして対等に見てくれているのだ。
そんな姿を見ることができて創も嬉しかった。そして言った。
「伝言ノートを作ろうか。伝えたいことを書くノート。レシピのアイデアやそれ以外のことも。何でも書けるノート。」
七海は大きくコクリと頷いた。
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