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結婚式
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しおりを挟む彼の優しさに私の目から涙が零れた。
立ったまま傍に居る彼を抱きしめていた。
極々自然体で……。
彼のズボンが私の涙でベタベタに濡れているのが分かる。
彼は私の頭を優しく撫でてくれた。
黙ったまま何も言わずに……。
その日の夜はツインの部屋でベッドも二つあるにも関わらず一つのベッドで二人抱き合いながら眠りについた。
父が危篤状態から脱したことの安堵と彼の優しさに甘えたくなってしまったから私から一緒に寝て欲しいとお願いした。
彼は私の願いを受け入れてくれた。
本当は私の事が心配だったと言ってくれた。
私の事を一番に考えてくれる彼に私はまた惹かれてしまったのだ。
「茜さん。夜はちゃんと眠れました?」
「あ、はい。すみませんでした。一緒に寝ようだなんて」
「いえ、僕もそうしたかったので」
「ありがとう」
「はい」
朝、ホテルのロビーの椅子に座りながら彼と会話した。
優しく私に微笑んでくれる彼の顔を見て私はほっとしていた。
この後父の病院へ向かって様子を見に行く予定。
特に何もなければそのまま彼の車で名古屋まで戻るつもりだった。
ホテルを出て病院へ向かうと母が既に病室に居た。
ICUの入り口付近にある椅子に腰かけていた。
「あら、涼太さん。どうしたんですか?」
「すみません。僕も気になってしまい昨晩こちらに」
「お忙しいのにすみません」
「お母さん、体調大丈夫?」
「ええ。大丈夫。私も取り敢えず一度家に戻ることにしたんよ。着替えとか手続きとかあるから」
「お一人で大丈夫ですか? 僕に出来ることがあれば何でも」
「大丈夫です。あの人の事は。それに意識も戻ったって先程先生からお聞きしましたので。峠はもう過ぎたと」
「そっかぁ~……良かったぁ……」
「そうですか。本当に良かったです」
「二人とも有難う。忙しい時期に本当にごめんなさいね」
「いえ。あ、お母さん。私ね、彼と夫婦になるの。これ見て」
私は彼にお願いして婚姻届を母に見て貰った。
母は嬉しそうな顔で『ホントっ! よかったわね』と言ってくれた。
彼が父にも伝えて欲しいことを母に伝えると頷いてくれた。
なんだかタイミング的には良くないなと思いながらもちゃんと両親に伝えることが出来て良かったと思った。
「こんなところで報告してしまいすみませんでした」
「いえいえ。逆に安心しました。お父さんも同じ気持ちだと思います。涼太さん、娘を宜しくお願いします」
母はそう言うと深々と彼に頭を下げた。
彼もまた母に頭を下げた。
私はその光景を見ながら涙が止まらなくなってしまった。
自然と出てくる涙。
拭っても出てくる涙。
そんな私を母は笑顔で抱き締めてくれた。
「茜。本当に良かったね。これからは涼太さんと2人で頑張るのよ」
「う……う……ん……。お母さん……ありが…と……」
立ったまま傍に居る彼を抱きしめていた。
極々自然体で……。
彼のズボンが私の涙でベタベタに濡れているのが分かる。
彼は私の頭を優しく撫でてくれた。
黙ったまま何も言わずに……。
その日の夜はツインの部屋でベッドも二つあるにも関わらず一つのベッドで二人抱き合いながら眠りについた。
父が危篤状態から脱したことの安堵と彼の優しさに甘えたくなってしまったから私から一緒に寝て欲しいとお願いした。
彼は私の願いを受け入れてくれた。
本当は私の事が心配だったと言ってくれた。
私の事を一番に考えてくれる彼に私はまた惹かれてしまったのだ。
「茜さん。夜はちゃんと眠れました?」
「あ、はい。すみませんでした。一緒に寝ようだなんて」
「いえ、僕もそうしたかったので」
「ありがとう」
「はい」
朝、ホテルのロビーの椅子に座りながら彼と会話した。
優しく私に微笑んでくれる彼の顔を見て私はほっとしていた。
この後父の病院へ向かって様子を見に行く予定。
特に何もなければそのまま彼の車で名古屋まで戻るつもりだった。
ホテルを出て病院へ向かうと母が既に病室に居た。
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「あら、涼太さん。どうしたんですか?」
「すみません。僕も気になってしまい昨晩こちらに」
「お忙しいのにすみません」
「お母さん、体調大丈夫?」
「ええ。大丈夫。私も取り敢えず一度家に戻ることにしたんよ。着替えとか手続きとかあるから」
「お一人で大丈夫ですか? 僕に出来ることがあれば何でも」
「大丈夫です。あの人の事は。それに意識も戻ったって先程先生からお聞きしましたので。峠はもう過ぎたと」
「そっかぁ~……良かったぁ……」
「そうですか。本当に良かったです」
「二人とも有難う。忙しい時期に本当にごめんなさいね」
「いえ。あ、お母さん。私ね、彼と夫婦になるの。これ見て」
私は彼にお願いして婚姻届を母に見て貰った。
母は嬉しそうな顔で『ホントっ! よかったわね』と言ってくれた。
彼が父にも伝えて欲しいことを母に伝えると頷いてくれた。
なんだかタイミング的には良くないなと思いながらもちゃんと両親に伝えることが出来て良かったと思った。
「こんなところで報告してしまいすみませんでした」
「いえいえ。逆に安心しました。お父さんも同じ気持ちだと思います。涼太さん、娘を宜しくお願いします」
母はそう言うと深々と彼に頭を下げた。
彼もまた母に頭を下げた。
私はその光景を見ながら涙が止まらなくなってしまった。
自然と出てくる涙。
拭っても出てくる涙。
そんな私を母は笑顔で抱き締めてくれた。
「茜。本当に良かったね。これからは涼太さんと2人で頑張るのよ」
「う……う……ん……。お母さん……ありが…と……」
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