「私はまた、失う」

うた子

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退院

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私は、震災と原発事故の被災者で避難中の身であること、両親が迎えには来られる状況ではないこと、全ての事情を医師に伝える。

もちろん、私を泊めてくれていた青年にはこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないと考えた。

その結果、この時はずいぶんと長い付き合いになっていた東京で暮らしていた間だいぶ仲が良くなっていた極太客に連絡し、頼み、迎えに来てもらうことで退院することが出来た。
なぜそんなにうまく行ったのかはよくわからない。
彼が弁護士だったからだろうか。

頭に縫い跡と禿げが増え、肋骨も折っていたし、膝には蚯蚓腫れのような引き攣った傷跡が出来た。
なんて丈夫な命だろう。
私は全然死なない。

今の私は元気だが、それでも自分の中の半分の歴史を失ってしまったような気持ちを持って生きている。

それだけ愛していた、故郷を、心から。

今、私が多少の災難や苦しみに苛まれても、それでもなんとか生きられるのは、この原発事故での避難経験を含む、今までの経験から大抵のことは「なんてことないや」と思えるようになったのと、得難い希望、と言うものを手に入れたからだ。

その希望、の話はまたいつか。




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