「私はまた、失う」

うた子

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祖母が見つかる

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すぐに父の元に行き、原発が爆発していることを伝えた。

父は、そうか、とだけ答えた。

なんだか、とても疲れているように見えた。
あの父が。
いつも横暴で、私を殴って虐げてバカにしてきた父が、時々は優しくまるで普通の「お父さん」になって私を困惑させて来た父が。
そんな父の覇気のない声を聞いて、なんだかかわいそうに見えた。
もう、戻れないのかもしれない、と、父も思ったのだろうか。

母が、デイサービスに行っていて落ち合うことが出来ていなかった父方の祖母がいる場所がわかった、と言った。
行ってくる、と言う。
その前に、叔父も母方の祖父、祖母のいる避難先がわかったと言う。
どうやって見つけてきたのかは、私は知らない。

けれど、ガソリンはかなり貴重だったので、最後にこの廃校を出るまで残しておかなければならない。
どこもガソリン不足だ。
歩いて行くしかない。

私と母はまず母方の祖父、祖母の避難したらしい建物まで半日かけて歩いて行った。
なんとか会うことが出来て、母は安心していた。
みんながちゃんと生きているかどうかを確認する為には、顔を見なければならない。

電話は全く繋がらず、メールもちょっとした瞬間にしか繋がらない状態。

次に、母は、デイサービスに行っていた父方の祖母の面倒を見に、そちらの避難先に移ると言った。
祖母はほぼ寝たきり、時々椅子に座るにも人の手を借りなければならない。
きっと避難先では寝たきりで、ご飯を食べる時に手伝ってくれるような手が空いている人もいないはずだと言った。

それを了承し、私もまず一緒に母と父方の祖母に会いに行き、顔を見て安心して「ばあちゃん良かったね」と声をかけた。
たくさんのデイサービスに来ていたであろうお年寄りたちが寝かされている部屋は異様だった。

その、あまりにも異質な空間である部屋で、母は父方の祖母の横に膝をつくと肩を抱く。
祖母をしっかりと見据え、元気づけるように強くハッキリとした声で、励ますように言った。

「今日からは、私がいますからね」

もう大丈夫ですからね、と。

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