「私はまた、失う」

うた子

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従弟の不安

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「被災者を誘導する人」が、私たちのことを案内したのは、とても田舎にある山の上にある廃校だったからだ。
家で共に暮らしていた父方の祖母はデイサービスに行っていた最中の震災、避難だった為、どこにいるのかがわからず気がかりだった。
誰が一体どこに避難させられていて、誰と共にいるのかもわからない。

もちろん、母方の祖父や祖母もどこに避難しているのかわからないし、従弟や、近所に住んでいた親戚、同級生、みんなどこにいるのかわからない。
津波だって凄かったのだ、海側に住んでいた友人たちは無事だろうか。
生きて、いるのだろうか。
携帯は全く通じない、メールすら通信不可能。

とりあえず行きなさいと言われた廃校の校舎内で、夜を明かさなければならない。
けれど、もうそこは足の踏み場もないほど避難して来た人でいっぱいだ。
ただ、良かったことがひとつ。
そこには、従弟と、叔父と叔母がいた。

私の従弟は、田舎で発達障害の検査が出来る精神科や心療内科などがなかった為に診断はされていなかったが、幼い頃から今までの様子を見るに、自閉症スペクトラムだと思われる。
知的な遅れが一切なかった為、ある程度気づかれずに大きくなるまで、つまりは二次障害が出るまで放置されてしまったパターンだ。

今考えると、自閉症スペクトラムと言う障害を持った従弟にとって、あの状況はとてもキツかっただろう。
知らない場所、初めての場所に突然放り込まれ、たくさんの雑音、子供の泣く声、怒鳴る人の声、大きな音、特性により食べられるものが少なく偏食なのに、食べ物だって自分では選ぶことが出来ない。
そんな中、せめて、と思われる、自分の落ち着く為のものすら持って来ていない、着の身着のままだ。
健常者の方ですら辛いと言うのに、自閉症スペクトラムの特性を持つ者にとっては、ほぼ地獄に等しい耐え難い環境だったであろう。
何より彼、従弟はまだ大人ではなかった。

近所の人たちから差し入れられた毛布にくるまって、従弟は震える声で、一定の感情のこもらぬ調子で、ウルトラマンに出て来る怪獣の名前をひとつひとつ小声で繰り返し呟いていた。
それがきっと、あの時、あの場で、彼が落ち着く為に出来ること、唯一の方法だったのだろう。

私は幼い頃から、従弟が少し周りの人間よりも変わっていて、もしかしたら何か他の人とは違った部分があるのではないかと言うことには気づいていた。

なるべく昼間は避難所を出て、外を一緒に散歩しよう、と声をかけて歩いて一番近いコンビニまで二人で一緒に歩いた。
一度、普段なら空である商品棚に、小さなカップラーメン2,3個だけ置いてあったことがあり、私はそれを購入すると従弟に振る舞った。

やっと食べ慣れた、好きな物を食べることが出来たと言って、とても喜んでくれた。
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