上 下
51 / 52
本編 魔神の誕生と滅びの帝都

51 運び込まれる箱

しおりを挟む
 想定していなかった事態が起きた。
 弓が次々に壊れたのだ。
 想定以上の力をかけたのだから当然だろう。
 当然なのだが、俺は弓の耐久力なんてこれっぽっちも計算に入れていなかった。
 今更ながらにさくっと材質と構造から耐久度を割り出したら、余裕でぶっ壊れる力がかかっていた。

 さっきの攻撃で削れた敵兵力は百というところか。
 さあ残り千九百。
 楽しくなってきたぜ。

 そんな時、フェルベルドが非戦闘部隊に指示を出していた。
 何かを持ってこいと言っているようだ。

「オヌシのあの魔法はどのぐらい維持できるのじゃ?」

 突然すぐ隣からケルガの声がした。
 いつからいたのかさっぱり分からない。
 コイツ、本当にただの参謀なのか?

「小一時間ぐらいは保(も)つはずだ。
 砦周囲の魔力を吸いながら力を維持しているんだが、俺自身が魔力を感じされないのでおおよそだ。」

 ちなみに探知魔法では、空気中の薄い魔力を量ることは出来ない。
 この辺りはいずれ改善していく必要があるだろう。

「では、何とかなるかもしれんのぉ。」

 ケルガが言った。
 そしてフェルベルドが指示していた武器が運び込まれてくる。
 大弓(だいきゅう)、しかも金属製。
 それが次々に配られていく。

「あれは?」

 俺はケルガに聞いた。

「昔とある弓の名人がおってな、それはそれは凄まじい力で強弓を放つ男じゃった。
 それを見たとある貴族が軍の金を使って、その男が使っていた弓と同じ物を作らせたのじゃ。
 大量にな。
 けれど作ったは良いが、堅すぎて誰も扱えない。
 処分に困っていた不良在庫となり押し付け合いの末、この砦の倉庫に放り込まれておったのじゃ。」

 どうしようも無い話だ。
 そしてさらなる不良在庫と思われる鉄の矢が箱で運び込まれてくる。
 鉄の矢と聞くと強そうではあるが、鏃(やじり)の部分ならともかく、シャフトまで鉄で作ると、重すぎて人間の筋力ではまともに飛ばすことは出来ない。
 しかも矢の長さが、通常の1.5倍になっている。

 フェルベルドが兵士達に大弓の装備を指示する。
 兵士達は弓を装備し弦を引く。
 弓がしなる。
 どうやら魔法の効果で扱えるようになっているらしい。

 兵士達の準備を確認し、フェルベルドが号令をかける。

「撃てぇ!」

 鉄の矢が魔物達に向かって飛んでいく。
 慣れていないせいもあって、一部トンチンカンな方向へ飛んで行ってしまったものもあるが、到達した矢はオークの盾を軽々と貫通しさらに数匹の魔物を貫いていく。
 凄まじい威力だ。

 状況が不利になった敵側に何らかの指示が出たようだ。
 生き残っているオーク達が盾を捨て、速度を上げて一気に突入してくる。
 さらにハシゴと持ったゴブリン達が後に続く。

「第二波、準備!」

 フェルベルドが号令をかける。
 大弓を持った兵士達が弦を力一杯引き絞る。
 一発目よりも様になっている。

「撃てぇ!」

 再び放たれる鉄の矢。
 砦に向かって突撃してくる魔物達は格好の的となって貫かれていく。

 俺はその突撃の中心に向かって、風と炎を合成した魔法を放つ。
 音が大きく、圧縮空気の衝撃が激しいだけの、魔力消費の少ない張りぼて魔法だ。

 すでに先頭を行く味方は、鉄の矢の餌食となっている。
 そんな中、突如、自軍の中で爆発音と衝撃が発生したらどうなるか。
 魔物達は大混乱となった。
 特にハシゴを持っていたゴブリン達の狼狽ぶりが酷かった。
 あっさりとハシゴを捨て、四方八方へ散ろうとした。

「撃てぇ!」

 砦から響くフェルベルドの号令。
 「撃てぇ」を「待てぃ」に変えたら、どこかの芸人と同じになるんじゃないかと、下らないことが頭をよぎった。
 隊列が乱れ、鉄の矢というあの世への片道切符を手にする魔物達。

「どうやら勝負は付いたみたいだな。」

 俺の言葉に黙って頷くケルガ。
 今回の勝利は、どうしようもない不良在庫を作ってくれた、名も知らぬ貴族に捧げよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~

最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」 力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。 自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。 そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈ 身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。 そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる! ※この作品はカクヨムでも投稿中です。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

処理中です...