上 下
43 / 52
本編 魔神の誕生と滅びの帝都

43 魔物達から守るもの

しおりを挟む
「そろそろ頃合いか。」

 俺は言った。
 エスフェリアとアグレスは、かなり体調が悪そうだ。
 魔王の精神魔法の影響をかなり受けてしまっている。
 俺は全くといっていいほど影響が出ていないので、どれほどヤバいのか感じ取ることが出来ない。

「帝都の東の門を抜け、クミシュ砦に向かいます。」

 エスフェリアが言った。
 俺たちは東の門へ向けて建物を出る。
 この建物は街を練り回っていたときに気になっていた建物だ。
 宮殿からの脱出通路の出口として、隠し部屋が設けられていたのだ。

 街の中は地獄と化していた。
 泡を吹いて倒れている避難しなかった町民、叫び声を上げながら何も無いところで剣を振る兵士。
 地面を這いずりながら助けてと繰り返し呟く人もいた。
 残念ながらそれらの人を助けることは出来ない。
 現時点において、俺たちは無力だ。
 エスフェリアが悔しそうな顔をする。

「今度こそ必ず帝都トレンテを取り戻します。
 そのために・・・必ず戻ってきます。
 過去では無く未来に。」

 エスフェリアは自分に誓っているようだ。
 俺はいつまで彼女の手伝いをするのだろう?
 安全な場所へ連れて行けば、俺の仕事は終わりでは無いのか?
 ここを取り戻す手伝いまではする義理は無いだろう。

 ・・・。
 結論は出ない。
 とにかく脱出だ。

 もはや東の門は防衛施設としての機能を失っていた。
 警備する兵士達がまともに活動できない状態となっているからだ。
 中にはまだ正気を失っていない者もいるが、仲間の介抱で俺たちを気に留めている状況では無い。

 俺たちはそのまま街の外へ出る。
 魔領は西側にある。
 そのため、戦いも西側が主戦場のはずだ。
 俺はそう思っていたが、世の中そんなに甘くは無かった。
 異様な気配を漂わせる魔物の群れが、出口を包囲するように展開している。 

「あれはなんだ?」

「ゴブリンやオークの群れです。
 おそらく元々帝国に潜んでいた者達でしょう。
 ただ、今までの周回では、ここに到達するのはもっと後のはずでした。」

 エスフェリアが言った。

「あれを突破しないとデッドエンドなんだよな。
 だったらやるしか無い。」

 敵は俺の視覚で確認できる範囲で220。
 俺は疑似魔術回路を構成する。
 そして俺たちは魔物達に近づいていく。
 当然、魔物達は俺たちに気がついていたが、特に何もしてくる気配が無い。
 一歩、また一歩、近づいていく。
 
 魔物達の心理としてはこうだろう。
 弱そうな人間が三人、歩いて自分たちに近づいてくる。
 武装もしていない。
 いちいち陣形を崩して対処するまでも無い。
 手の届く範囲に来たら殺せばいいだろうと。

 そして一番近い魔物との距離は10メートルに達した。
 さすがにこれだけ近づくと、魔物達も対処しようという動きを見せる。
 オークが一匹、斧を携えて俺たちに接近してきた。

 エスフェリアとアグレスは俺の後ろに回ってもらっている。
 そして俺は光魔法を発動させる。
 多重強化した光魔法はレーザーと化し、俺を中心として水平120度を右から左になぎ払った。

 俺たちに最も接近していたオークの体が真っ二つに割れる。
 もちろん10メートル先にいた魔物達も、先頭にいた奴らは同じ末路を辿った。
 しかし、さすがにダメージを与えるのは二列目程度が限界だった。

 いきなりの攻撃にまだ反応できない魔物達。
 俺はさらに光魔法を発動させ、今度は左から右になぎ払った。
 さらに魔物の体が裂けていく。
 今ので80は戦闘不能に出来たはずだ。

 俺の2回目の攻撃が終わったところで、何か叫び声のようなものが聞こえた。
 するとオーク達が直列の陣形を組んで突っ込んできた。
 なぎ払い対策で攻撃を受ける部分を減らそうというのだろう。
 誰が命令したのか分からないが、論理的に考えて魔物を指揮する奴がいるということなのだろう。
 そしてマズいことに後方でゴブリンが弓を番えている。

 おれはエスフェリアの顔を見る。
 この状況にあって、まったく恐怖を感じていないようだ。
 たぶん今までの経験則から、俺がなんとかすると確信しているのだろう。
 仕方ない、期待に応えておこう。

 俺は再び光魔法の疑似魔術回路を構成する。
 今度は薙ぎ払わない。
 全力で真っ正面に投入だ。

 俺はありったけの強化魔法を魔術回路に組み込む。
 魔力を感知できない俺でも分かるほど、風を巻き起こしながら辺りの魔素を吸収していく。
 オーク達は目前だ。
 血を吸って使い込まれた斧の模様がよく見える。
 このままいくと一秒後には俺の頭はスイカ割りの残骸のようになっているだろう。

 俺は魔法を放つ。

「目をつむれ。」

 俺は後ろの二人に叫んだ。
 前回の失敗から、俺も目を瞑った。
 この期に及んでこれ以上できることは無い。

 光の魔法を使ったはずなのに、吹き飛ばされそうな空気の圧力を感じる。
 倒れないように必死に堪える。
 俺の頭はまだ割られたスイカにはなっていないようだ。
 そして俺は目を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~

最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」 力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。 自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。 そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈ 身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。 そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる! ※この作品はカクヨムでも投稿中です。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

処理中です...