上 下
30 / 52
本編 魔神の誕生と滅びの帝都

30 不特定多数の不徳

しおりを挟む
「剣を収めなさい。
 ギスケは味方です。」

 エスフェリアは言った。
 警戒心むき出しで俺に剣を向けていた騎士達は、命令に従い剣を収める。
 しかし全員俺を凝視したまま、いつでも殺ってやるぜという顔をしている。
 たぶんさっきの光魔法がやり過ぎだったのだろう。
 さすがにこの距離で剣の一撃を食らったら、素人の俺では、転生系の物語にシフトチェンジすることになるだろう。
 つまりオダブツだ。

 そんな状況を気にせずエスフェリアは話を進める。

「襲撃者達の撃退には成功しましたが、もう一つやり残したことがあります。
 ゴルディン、申し開きはありますか?」

 ゴキディンがそこにいた。
 奴は今回の事態では、呆然としているだけでただの役立たずだった。
 エスフェリアは、その役立たずに何やら詰め寄っている。

「な、何のことでございましょう殿下?」

 ゴキディンが人間の言葉を喋る。

「この襲撃に荷担して、魔族を招き入れたことに関してです。」

「な、な、何を申されます。
 私には何のことだか・・・。」

「アグレス、あれを。」

「はい、こちらがゴルディン様が出された指示書です。」

 アグレスが何やら書状らしき物を出した。

「そ、それは・・・。」

 慌てるゴキディン。
 こいつ、結構嘘がつけない奴なのか?

「見覚えがあるのですね。」

「い、いや、知りませぬぞ。」

「あなたがそれを従者に渡し、さらに出入りの商人経由で魔族の内通者に届けさせたことは調べが付いています。
 ずっと監視させていましたから。」

 ゴキディン観察か。
 さすがに皇族ともなると、庶民とは違った趣味を持っているな。
 俺は聞いてなかったが、エスフェリアは今までの死に戻りで、既に内通者を特定していたようだ。

「まさか・・・。
 私は無実、えん罪だぁぁぁ。」

 突然叫んで逃げ出そうとするゴキディン。
 あっという間に騎士に捕縛される。
 カサコソ逃げるのには失敗したらしい。
 ゴキディン失格だな。
 生で触らなければいけないとは、騎士も仕事とは言え災難だ。

「サイアグ、監督不行き届きですね。」

 エスフェリアは近くに控えていたサイアグに話しかける。

「はい、不徳の致すところでございます。」

 眼光が鋭いまま表情を変えず、頭だけ下げるサイアグ。

「それでどうですか、ギスケは?
 魔法を学んで10日足らずで、あなたのお得意の魔法を再現して見せたのですよ。」

「10日・・・。
 それは・・・素晴らしい逸材でございますな。」

 ほんの一瞬だけ、表情が変わった気がする。

「貴方が放逐したオルドウルのレポートを、ギスケは大変役に立ったと言っているわ。」

「それは・・・なんとも。
 私の目が曇っていること、面目次第もございません。」

 おい、もしかして・・・エスフェリアはサイアグを煽ってるのか?
 ちょっ、火薬庫に火を投げ込む遊びは感心しないぞ。

「それで、ギスケの処遇はどうすれば良いと考えますか?」

「このような才能を持った者を放っておくことは、帝国のとっての損失。
 私の元でさらなる研鑽を積ませようと存じます。」

「そう、それは良かったわ。」

 ちょっと待て。
 俺がサイアグの元?
 エスフェリアはいったい何をしようとしているんだ?
 一言言いたい。
 サイアクだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢は、どうやら世界を救うために立ち上がるようです

戸影絵麻
ファンタジー
高校1年生の私、相良葵は、ある日、異世界に転生した。待っていたのは、婚約破棄という厳しい現実。ところが、王宮を追放されかけた私に、世界を救えという極秘任務が与えられ…。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~

最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」 力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。 自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。 そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈ 身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。 そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる! ※この作品はカクヨムでも投稿中です。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...