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一章 チュートリアルな第一層

8 槍で殺りたい

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 危なかった。丸腰の状態であのままいたら、コボルトみたいな奴らにフルボッコされていただろう。おかげで貴重なスタミナポーションを一個消費してしまった。とりあえず僕は薬屋に、採取したキノコを売りに行く。店に入ると僕を見た婆さんが「ヒョヒョヒョ」という笑い声を上げる。そもそも本当に笑い声なんだろうか?まあ、それはどうでもいいや。「さっそく何か採ってきたのかい?見せてみな」そう婆さんが言った。僕は採取したキノコを見せる。

 青いキノコ  100シュネ × 35  
 白いキノコ 2000シュネ ×  1

 キノコを持っていても仕方が無いので、すべて売ることにした。合計5500シュネだ。白いキノコは高級品だった。スタミナポーションが6000シュネだから500シュネ赤字だ。所持金は3万2500シュネとなった。突然の出来事にポーションを使用してしまったけれど、上手くすれば地道に稼いでいくことは出来そうだ。僕はホッと胸をなで下ろす。資金がどん詰まりしていたら、村に帰ることすら出来なくなってしまうからだ。

 安心したところでお腹がすいてきた。僕は手近な店に入った。どうやら酒場のようだ。まだ日も暮れていないにもかかわらず、店内では酒を飲んでいる客が多い。そして素晴らしいことにボッチ席がある。僕のための席だ。そこに座り、豚肉のソテーとパンを注文する。注文を取りに来た親父が「酒は?」としつこく聞いてくる。押されると断れない僕は「一番安いやつを」と答えた。ワンドリンク制なんだろうか?そもそも僕は12歳なんだけど、この国には未成年という定義が無い。子供だとしても、誰にはばかること無く酒が飲めるのだ。しかし転生してからは、好んで酒を飲んだことは無い。

 注文した料理と酒が運ばれてくる。料理を運んできたのはグラマーな女の人だ。つい胸の方に目が行ってしまったけれど、すぐに視線をそらす。感づかれてないよね?今日は朝食も食べておらず、完全に腹ぺこだったので一気に料理を口に放り込む。そのせいで食道に料理が詰まる。僕は酒のカップを掴み、流し込む。「ぐふぇふぉ」僕は色々な衝撃を受けて涙目になる。まずこの酒、アルコール度数が無茶苦茶高い。そして味が酷い。それを流し込んだ物だから、口から喉、食道が偉いことになる。そして胃に到達すると、異常な熱さを感じた。

 しばらくその状態を堪え、何とかやり過ごすことが出来た。まさか食事中に何かと戦うことになるとは。僕は残りの料理を平らげる。酒は残したいところだったんだけど、親父の目がギラリと光る。僕は頑張って飲んだ。お会計は2500シュネだった。

 アルコールが回り、ふらふらになりながら宿に戻る。宿の太っちょな女将さんに水をもらい、部屋に戻って倒れ込む。もはや行動不能。明日は月極賃貸に引っ越しだ。まだ日も暮れていなかったけれど、どうにもならないので寝ることにした。なんだか駄目人間になっているような気がする。

 朝が来た。若干頭痛がするものの、我慢できるレベルではある。僕は宿を引き払い、荷物を月極賃貸へ移動した。そこはほとんど何も無い部屋だった。辛うじてベッドだけはある。率直に言おう、これは木の台だ。床より高くなっているだけだ。肌触りは・・・木だ。そして堅い。そのうち寝具も揃えなければならないだろう。現在の所持金ぴったり3万シュネ。さあ、どうしよう?

 3万シュネあればあの槍が買える。それで所持金はゼロ。もはや食事をすることもままならない。しかし武器も持たずにダンジョンに突入したら、昨日のようになることは目に見えている。こんな序盤で究極の選択を迫られるとは。「トホホ」そんな言葉が口からこぼれる。

 僕は何をしにここまで来たのだろう?ふと、初心を思い出す。そうだ冒険をしに来たのだ!冒険は危険が付きものだ。よし槍を買おう。金なんてまたキノコを集めれば何とかなるさ。僕はそう結論を出した。そして武器屋へ向かう。

 僕が武器屋に入ると、マッチョ親父が「おっ、また来たか」と言った。顔を覚えられている。コミュ障の僕は顔を覚えられるのが苦手だ。とにかく槍を買って、とっととダンジョンへ向かおう。僕が槍を買うというと、マッチョ親父が「値切らないのか?」と聞いてきた。値切って良いの?僕がアタフタしていると、「仕方ない、今回は特別にサービスだ」と、槍の価格を2万5000シュネにしてくれた。カッツカツだった僕にはありがたい。このマッチョ親父になら抱かれてもいい、その時の僕の精神は壊れかけていた。

 槍を購入した僕は所持品を確認する。

 所持金5000シュネ
 魔法の袋(小)
 ライフポーション(低)×3
 スタミナポーション(低)
 ダンジョン第一層のマップ
 コンパス
 採取ナイフ
 ランプ(残量大)
 ギルドカード
 初心者の槍

 さあ、今回は武器を装備してのダンジョン探索だ。前回のようなヘマはしない。僕は再びダンジョンへと足を踏み入れる。
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