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1章 幼き魂と賢者の杖

26 手当の手当が欲しい

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 漆黒が暴発、否、収縮していく。
 そして消えた。

「え?」

 ここにいた誰もがあっけにとられた。

 後に残ったのは、魔術師が二つ。
 胴体と首が別々になっていたのだ。

 魔術師は突然倒され、魔法の暴走は回避された。
 そしてその先に見知った顔を見かけた。

「エリザさん!?」

 希望の家、洋裁担当のエリザさんは僕の方を見た。
 いつも通りの気難しい顔だ。

「師匠、お久しぶりです!」

 カイデウスさんが、喜びを含んだ声で言った。

「オキス、手当てしておやり。」

 エリザさんが賢者の杖を拾い上げ、僕に渡す。
 色々バレているんだろうな、杖を受け取りながらそう思った。

『やったぁ。
 勝ったぁ』

 杖を受け取った瞬間、『僕の中』から女の子の声が聞こえる。

『みんなの治療をしてあげようよ。』

 杖からルディンの声が聞こえる。
 ルディンは分かるけど、もう一人は誰?

 僕は杖を受け取る。
 回復魔法を出血の一番ひどいレイリスさんから順番に、一人一人かけて回る。

「お、おい。
 どういうことだ。」

 冒険者四人は驚きの声を上げて僕を見る。

「賢者の杖のおかげですよ。
 僕でも魔法が使えるようになるみたいです。」

 賢者の杖のおかげと言うことにした。
 まあ嘘では無い。
 杖が無ければ、まともに傷を回復させるような魔法は使えない。

 カイデウスさんが僕から杖をひったくると、かざしたり、回したり、振ったりした。

「・・・使えないぞ。」

 賢者の杖は魔術回路を編むのを補助するアイテムだ。
 だから魔法が使えない人間が手にしても意味が無いようだ。
 賢者の杖を僕に返す。
 僕がそれを受け取ろうとした瞬間、再び引ったくられた。

「どうも、みなさんこんにちは。
 俊影とオキス君以外は初めましてだね。」

 ローブの男が賢者の杖を持って立っていた。

「いやあ、面白いものを見せてもらったよ。
 俊影がいるから出てくるか迷ったんだけどね。
 こんなに面白いものを見せられたから、ちょっと顔を出したくなったんだ。」

 次の瞬間、ローブの魔族の腕が吹き飛ぶ。
 エリザさんが魔族に近づく、否、順序が逆だ、気配が追えない。
 賢者の杖を持った腕が宙を舞い、もう片方の手で魔族はなんとか杖をつかむ。

「うぎゃぁぁ、ちょっとタンマ、タンマ。
 この杖、魂が人間だから、人間しか使えないんだよ。」

 え、僕、使えたけど?
 使えないというのは魔族のハッタリなのか、使えたのはルディンのおかげなのか、
 魔族は素早く後退すると杖を腰に挿し、空いた手で床に転がっていた未完成の賢者の石をつかむ。

「俊影のラブコールはうれしいけど、僕はシャイでね。
 最近ずっと熱烈に追いかけ回してくれたしさ。
 挨拶も済んだことだしおいとまするよ。
 じゃあね。」

 魔族が手に持つ賢者の石が光り出す。
 激しい光の後、そこには返り血を浴びたエリザさんが立っていた。
 動きの順序が逆になるが、エリザさんが距離を詰めていたのだ。
 魔族はいない。
 先ほど吹き飛ばした腕だけが残されていた。
 おそらく深傷を負わせつつも、逃げられてしまったのだろう。
 
 エリザさんの武器が分からない。
 いつも着ている普通の服で、見た目は素手だ。
 攻撃方法も全く見えなかった。
 魔力も感じない・・・どころか気配も感じない。
 冒険者四人も強かったが、さらに次元が違う。
 とんでもない怪物と一緒に住んでいたらしい。

「杖は持って行かれたね。
 さあ帰るよ。」

 元冒険者、俊影のエリザは気難しそうな顔でそう言った。




 勘弁して欲しいけど、婆さん無双だった。
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