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1章 幼き魂と賢者の杖
9 虫は無視できない
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ここは人口千人ほどの町デイボン。
外から来ている人間を足さない場合の数字だ。
この町の郊外にある孤児院が僕の今の住居だ。
孤児院の名前は「希望の家」、よりによってエスポワールかよと突っ込みたい。
希望の家には子供が二十三人、大人が二人いる。
「うわぁぁん。」
目の前に大声で泣いている男の子がいる。
悪ガキ面の子が足を引っかけて転ばせたのだ。
「ぴーぴー泣きやがって、うっせえな。」
さらに追撃を加えようとする。
そこへ臆病そうな子が足を震わせながら立ち塞がる。
「駄目だよ、やめてよ。」
間に立ち塞がった男の子は膝をがくがくさせ、泣きそうになりながら止めようとする。
悪ガキ面の子が間に入った臆病そうな子の足に蹴りを入れ、部屋から出て行った。
間に立ち塞がった勇気のある子の名前はジキル6歳だ。
転んだのはルディン4歳。
部屋から出て行った悪ガキ面はカシム6歳だ。
僕はそのとき何をしていたかというと、観察していた。
ここに来てからまだ3日だ。
孤児院と子供としてのルールを把握しておく必要がある。
言い訳みたいに聞こえるが、決して怖かったから傍観していたわけでは無い。
そして子供の喧嘩に大人がしゃしゃり出るのもという考えもあった。
肉体年齢4歳だけど。
喧嘩もイジメも日常な、それがこの希望の家だ。
希望の家の朝は早い。
日の出とともに水くみ、家畜の世話が始まる。
子供ばかりなので、水くみはかなりの重労働だ。
その後は朝食の時間だ。
朝食として出てきたのは、パサパサして香りが全くない黒いパン、味付けが存在しない豆スープ。
あまりの内容に新入りだから、虐められているのかと思ってしまった。
ところが全員同じ食事をしているところを見ると、これがいつもの朝食らしい。
どうやらスープはパンを流し込むのに使うようだ。
だれも美味しいと思って食べていない、空腹を満たすためだけの食事だ。
夕食は希望の家で育てている作物から一品追加される。
ちなみに大人達は一緒に食べないので、たぶんもっと美味しいものを食べているのだろう。
朝食が終わると、年少組は希望の家の掃除と農作業に分かれる。
年長組は町の職人の手伝いに出かけていく。
僕は農作業組に回された。
雑草を抜き、作物についた虫の駆除をする。
この地域は温暖な気候なので、虫が結構ついている。
お昼前には自由時間になるのだが、お昼といっても昼食は出ない。
希望の家の子供達は、みんなスリム体型だ。
「オキス君、こっちにおいでよ。」
常に臆病なオーラが出ているジキルから声をかけられた。
横には虐められそうなオーラを放っているルディンがくっついている。
その年にしてオーラを纏っているとは、なかなかの強者達だ。
僕の元ボディーカードも、ただならぬオーラをまとっていたし。
どうやら裏山に出かけるという話だ。
僕はついて行くことにした。
「食べられそうな山菜が結構あるね。」
僕は周りを観察しながら、食べられそうなものをいくつか見つけた。
「草は食べないよ。
それより、こっちにいいものがあるよ。」
ジキルはドングリのような実を拾い上げた。
近くに落ちていた石で殻を割る。
それを僕に差し出してきた。
食べてみると少し甘い。
量が少ないので満足感は無いが、味は悪くない。
3人で落ちている実を片っ端から平らげた。
がさごそという音が聞こえたのでそちらに目を向けると、ルディンが木に登り始めていた。
木の上の方に甘そうな赤い実がなっている。
しかし登り方がかなり危ない。
「危ないよ。戻ってきて。」
ジキルがルディンの方へ駆け寄る。
ルディンは途中で動けなくなって、グスグスと泣き出してしまった。
「ゆっくり降りて。」
ジキルが木の下で手を掲げる。
次の瞬間ルディンが落ちる。
ジキルは下敷きになった。
「うわぁぁん。」
この声デジャブ。
ルディンは大声で泣き出したが、ジキルが支えたおかげで怪我はなさそうだ。
「良かった、大丈夫で。」
下敷きになったジキルはかなり痛かったようで、目に涙をためている。
ふとジキルの腕から結構出血していることに気がついた。
「汚している部分をこっちに向けてくれる?」
僕は回復魔法の魔術回路を編む。
そして魔力を通す。
「すごい、痛みが引いた。」
傷自体を完全に塞ぐには至っていないが、出血は止まり炎症が緩和されたようだ。
「痛みを消すおまじないだよ。」
そう言って魔法を使ったのはごまかした。
たぶんバレない。
そもそもおまじない並みの効果しか無いからだ。
砦の時に気がついたのだが、魔法を使える人間が周りに全然いなかった。
今のところ魔法が使えるほどの魔力を持った人間に出会っていないのだ。
爺からは、人間も魔法を使うという話は聞いている。
魔法が使える人間が希少だとすると、こんな辺境にいるわけが無いのかもしれない。
裏山から戻るとジキルが頭を殴られた。
「なんであたしだけ仲間はずれにしたの!」
口より先にまず手が出る女の子パメラ5歳。
ジキルはまた涙目になっている。
もはやそういう星の下に生まれたと思うしか無い。
「あ、腕をケガしてる。」
頭を殴っておきながら、怪我の心配をするパメラ。
「大丈夫、オキス君のおまじないのおかげでもう痛くないから。」
午後は四人で家畜小屋の掃除をした。
井の中の蛙にでもいいから、田舎で魔法無双できるといいな。
外から来ている人間を足さない場合の数字だ。
この町の郊外にある孤児院が僕の今の住居だ。
孤児院の名前は「希望の家」、よりによってエスポワールかよと突っ込みたい。
希望の家には子供が二十三人、大人が二人いる。
「うわぁぁん。」
目の前に大声で泣いている男の子がいる。
悪ガキ面の子が足を引っかけて転ばせたのだ。
「ぴーぴー泣きやがって、うっせえな。」
さらに追撃を加えようとする。
そこへ臆病そうな子が足を震わせながら立ち塞がる。
「駄目だよ、やめてよ。」
間に立ち塞がった男の子は膝をがくがくさせ、泣きそうになりながら止めようとする。
悪ガキ面の子が間に入った臆病そうな子の足に蹴りを入れ、部屋から出て行った。
間に立ち塞がった勇気のある子の名前はジキル6歳だ。
転んだのはルディン4歳。
部屋から出て行った悪ガキ面はカシム6歳だ。
僕はそのとき何をしていたかというと、観察していた。
ここに来てからまだ3日だ。
孤児院と子供としてのルールを把握しておく必要がある。
言い訳みたいに聞こえるが、決して怖かったから傍観していたわけでは無い。
そして子供の喧嘩に大人がしゃしゃり出るのもという考えもあった。
肉体年齢4歳だけど。
喧嘩もイジメも日常な、それがこの希望の家だ。
希望の家の朝は早い。
日の出とともに水くみ、家畜の世話が始まる。
子供ばかりなので、水くみはかなりの重労働だ。
その後は朝食の時間だ。
朝食として出てきたのは、パサパサして香りが全くない黒いパン、味付けが存在しない豆スープ。
あまりの内容に新入りだから、虐められているのかと思ってしまった。
ところが全員同じ食事をしているところを見ると、これがいつもの朝食らしい。
どうやらスープはパンを流し込むのに使うようだ。
だれも美味しいと思って食べていない、空腹を満たすためだけの食事だ。
夕食は希望の家で育てている作物から一品追加される。
ちなみに大人達は一緒に食べないので、たぶんもっと美味しいものを食べているのだろう。
朝食が終わると、年少組は希望の家の掃除と農作業に分かれる。
年長組は町の職人の手伝いに出かけていく。
僕は農作業組に回された。
雑草を抜き、作物についた虫の駆除をする。
この地域は温暖な気候なので、虫が結構ついている。
お昼前には自由時間になるのだが、お昼といっても昼食は出ない。
希望の家の子供達は、みんなスリム体型だ。
「オキス君、こっちにおいでよ。」
常に臆病なオーラが出ているジキルから声をかけられた。
横には虐められそうなオーラを放っているルディンがくっついている。
その年にしてオーラを纏っているとは、なかなかの強者達だ。
僕の元ボディーカードも、ただならぬオーラをまとっていたし。
どうやら裏山に出かけるという話だ。
僕はついて行くことにした。
「食べられそうな山菜が結構あるね。」
僕は周りを観察しながら、食べられそうなものをいくつか見つけた。
「草は食べないよ。
それより、こっちにいいものがあるよ。」
ジキルはドングリのような実を拾い上げた。
近くに落ちていた石で殻を割る。
それを僕に差し出してきた。
食べてみると少し甘い。
量が少ないので満足感は無いが、味は悪くない。
3人で落ちている実を片っ端から平らげた。
がさごそという音が聞こえたのでそちらに目を向けると、ルディンが木に登り始めていた。
木の上の方に甘そうな赤い実がなっている。
しかし登り方がかなり危ない。
「危ないよ。戻ってきて。」
ジキルがルディンの方へ駆け寄る。
ルディンは途中で動けなくなって、グスグスと泣き出してしまった。
「ゆっくり降りて。」
ジキルが木の下で手を掲げる。
次の瞬間ルディンが落ちる。
ジキルは下敷きになった。
「うわぁぁん。」
この声デジャブ。
ルディンは大声で泣き出したが、ジキルが支えたおかげで怪我はなさそうだ。
「良かった、大丈夫で。」
下敷きになったジキルはかなり痛かったようで、目に涙をためている。
ふとジキルの腕から結構出血していることに気がついた。
「汚している部分をこっちに向けてくれる?」
僕は回復魔法の魔術回路を編む。
そして魔力を通す。
「すごい、痛みが引いた。」
傷自体を完全に塞ぐには至っていないが、出血は止まり炎症が緩和されたようだ。
「痛みを消すおまじないだよ。」
そう言って魔法を使ったのはごまかした。
たぶんバレない。
そもそもおまじない並みの効果しか無いからだ。
砦の時に気がついたのだが、魔法を使える人間が周りに全然いなかった。
今のところ魔法が使えるほどの魔力を持った人間に出会っていないのだ。
爺からは、人間も魔法を使うという話は聞いている。
魔法が使える人間が希少だとすると、こんな辺境にいるわけが無いのかもしれない。
裏山から戻るとジキルが頭を殴られた。
「なんであたしだけ仲間はずれにしたの!」
口より先にまず手が出る女の子パメラ5歳。
ジキルはまた涙目になっている。
もはやそういう星の下に生まれたと思うしか無い。
「あ、腕をケガしてる。」
頭を殴っておきながら、怪我の心配をするパメラ。
「大丈夫、オキス君のおまじないのおかげでもう痛くないから。」
午後は四人で家畜小屋の掃除をした。
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