陰陽怪奇録

井田いづ

文字の大きさ
上 下
7 / 9
ねじりおに

七話 怨を返し鬼を断つ

しおりを挟む

 意識が、うっすらと戻ってくる。あれ、俺は寝てた?

 ゆっくりと目を開けると、目の前には淡いブロンドの髪の女性が眠っている……って、セシル?!

 驚いて思わず飛び起きそうになったが、自分の手がセシルを抱きしめていることに気づいた。おいおい待ってくれ、俺は一体何をやっているんだ?!

 昨日は夜中に苦しくなって、セシルが突然部屋にやってきて聖女の力をわけてもらって、それから……。記憶がない。ないけれど、多分この状況は俺が原因だと思う。

 何やってんだよ俺……。

 目の前のセシルを見つめる。可愛いな。初めて見た時から可愛らしいと思ったけれど、教会では脱走しようとしていたし白龍に乗っても怖がるどころか楽しんでいたし、結婚の契約についても初めて聞いたことなのにその場で決断したし。見た目と違って意外に強いんだろうなと思う。
 でも、夕食の時にケーキを見て泣き始めた時には驚いた。生贄になって死ぬと思っていたのに、これからも生きていられることに感極まっていた。きっと今までずっと怯えて生きてきたんだろうな。あの時本当は抱きしめてあげたかったけれど、出会ったばかりの俺がそんなことしても気持ち悪いと思われるだけだ。

 まつ毛長いな。肌も白くて綺麗だし、髪の毛もツヤツヤしてる。なんかいい匂いするし……って聖女に対して何を考えているんだよ!いくら結婚したと言っても契約だし、あくまでもセシルはミゼルに選ばれた聖女様だ。

 本当にこの子が俺と契約してくれたんだ。なんだかまだ信じられない。これからずっと一緒に生きていくパートナー。聖女の虹の力をわけてくれるたった一人の大事な人。

 夕食の時には、これから一緒に色々食べましょうと言ってくれた。今までは寂しかった食卓も、セシルがいるだけで華やいだように感じる。

 俺なんかでよかったんだろうか。ってそんなこと考えても仕方ないけれど。俺は白龍使いの騎士、セシルは虹の力を持つ聖女である以上、お互いに白龍によって定められた相手だ。俺はセシルで嬉しかったけど、セシルは嫌がってないのかな。

 昨日は手を握って力を分けてもらった。あれだけでもかなりの力を分けてもらうことができたけれど、今後膨大な白龍の力を行使するに当たってもっと多くの力を分けてもらうことになる。

 潤んだ唇に目がいく。少しふっくらとしていて魅力的だ。この唇に口付けたらどんな気持ちになるんだろう。セシルはどんな表情になるんだろう……ってだから俺は聖女様相手に何を考えているんだよ!

「ん……」

 目の前のセシルが身動ぎながらゆっくりと目を開けた。あ、瞳の色もエメラルドグリーンでやっぱり綺麗だな。間近で見ると宝石みたいにキラキラしている。

「おはよう、セシル。昨日はごめん、大丈夫?」

 思わず声をかけるけれど、セシルの様子がおかしい。どんどん顔が真っ赤になっていく。

 あ、これはまずいかもしれない。

 すぐに起き上がってセシルから離れるけれど、同じように起き上がったセシルは顔を真っ赤にして固まっている。

そうだよね、本当にごめんなさい。

「あれから昨日の記憶がないんだけれど、多分俺が君の手を握ったまま寝てしまったんだよね?」

 問いかけるとセシルは首をブンブンと大きく縦にふる。やっぱりそうですよね~……。

「本当にごめん、迂闊だった。嫌だったよね」

 頭をかきながら謝る。我ながら情けないよ全く。

「い、いえ、あの、嫌ではないですけど……驚いてしまって」

 ……え、嫌じゃないの?本当に?

 にやけてしまう顔を片手で隠すことで精一杯だった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

パーフェクトアンドロイド

ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。 だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。 俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。 レアリティ学園の新入生は100名。 そのうちアンドロイドは99名。 つまり俺は、生身の人間だ。 ▶︎credit 表紙イラスト おーい

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 アルファポリス文庫より、書籍発売中です!

処理中です...