オディアクート大陸記

右島 芒

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甘えと信頼と二人の正体 その1

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   何だかあんまり寝れなかった気がするのは何故だろう?顔を洗って歯を磨いた後も欠伸が出て瞼が重い。そしてそこはかとなくやたらウィンベルの胸が目に付き言いようの無い気分になる、あえて言うなら微かな憎しみ?そんな気分も居間から香ってくる朝食の匂いに流され誘われるように食卓に着いていた。朝から賑やかな食卓だったけど私はどうしてもガラさんとアーロの名札の事が気になっていた。二人の名前は分かっているのだから不自由は無い、無いけれど・・・
「どうしたのリーナ君?ぼんやりして何か見えてる?」
「飯食ってる最中にボーっとすんなよ。気管支に入って咳き込むぞ。」
二人に話しかけられてハッとする、食べている最中には流石に行儀も良くない。私は一旦名札の事は見ないようにして食事に集中する事にした。食事が終わりマリーちゃんと食器を片し終えて二人でぼんやり庭を見ながら今日も畑仕事かな?と考えているとガラさんが皆を呼ぶ声がした。何の事かと思い居間のテーブルに集合する。
「ハイ皆注目、リーナ君うちに来て3日目です。ここ数日で色々有りましたが彼女の体調も回復したようなのでそろそろ我々も彼女の旅がまだ途中だと言う事を加味しつつある計画を行いたいと思います。」
 すっかり忘れてました。そういえば私親書を届けてる途中でした。
「当の本人も今思い出したみたいなのでまずは彼女の目的地であるユーヴォリに向う為に我々も準備をしないといけない。」
「それってわざわざ私を送るために何かするって事ですか?駄目ですよ!命を救って貰った上にこんなにも良くして貰ったのに、これ以上何かして貰ったら、私これ以上皆に甘えられません。」
だけどガラさんはそんな私を見て笑顔で私の頭を撫でてこう言った。
「甘えて良いんだよ、僕らからすれば君はまだ子供だ。子供は大人に甘えられる時に甘えるものだよ、それにね僕らとしても調度良いタイミングだったんだ。ねえアッチャン。」
「そうだ、嬢ちゃんが行きたい方向にたまたま俺達も行く用事があった、ただそれだけだ。俺達がやりたい様にやるのに嬢ちゃんを巻き込んでるだけだ。」
例え本当にそうだとしてもそれではいけないと思いながら彼らの優しさに甘えてしまいたいと思い始めている自分が居てどうすれば良いのか分からなくなり頭と心がぐちゃぐちゃなって自分でも良く分からない内に泣いていた。泣きじゃくる私を慰めてくれるウィンベルとマリーちゃん、そんな私を見てオロオロとうろたえるガラさんとアーロ、何処かで誰かが言っていた事を思い出す。私はとても幸運の持ち主なのだと。

 私が泣いてしまって話が止まってしまったが実際問題私の旅に同行するにはいくつか片付けなければいけない事が有るそうで、まず一番の問題は畑の収穫だった。
収穫次期の野菜を出来る限り採ってしまわないといけない、これは5人総出で大仕事になった。夕方暗くなるまで泥と土だらけになりながら収穫した大量の野菜は半分をユーヴォリで売りもう半分は納屋の地下にある倉庫で保管するらしい。
そんなに保存出来るの?と聞いたところ連れて行かれた倉庫は夏に近い時期だというのにとても寒かった。どういう仕組みなのか鑑定で調べると倉庫の床と壁に霊峰ティデスの山頂で取れるマナを多く含んだ永久氷河の氷と寒さに強く断熱効果のあるデティスの杉で作られている。低い温度を保てる場所ならば野菜の長期保存が可能だそうだ。
ふえぇ、地元にいる時以上に畑仕事をした、真っ黒に汚れた体を私とウィンベル、マリーちゃんで一足先にお風呂を使わせてもらった。いい湯加減のお風呂に3人とも蕩けるように浸かっていると外から小言が聞えてきた、お風呂の湯加減を見てくれているアーロだった。「長湯してのぼせてもしらねぇぞ」
そんな小言に私の隣でウィンベルが小さな声で「お母さんか」とツッコミをしていたのを笑いながら結局長風呂してしまい3人で少しフラフラしながら縁側で涼んでいると今更になってクマのメドベージェフさんが居ない事の気が付いた。私がウィンベルにいつから居なかったかを尋ねると彼女は。
「あの子はガラからの仕事で森に出てるよ。明日の夜には帰ってくるから心配しなくてもいいよ。」
彼女はそう言うが私の前では大人ぶった事を言ってはいたけれどどこか幼い感じが見え隠れしていたからかお腹空いてないかなとか、淋しくないかなとか考えてしまうとウィンベルに伝える。すると彼女は寂しがりはするかもしれないがお腹は空く事は無いから安心して良いと言う、どうやらメドベージェフさんはウィンベルの使い魔と私に紹介していたが実際は女神である彼女の神使だから神様に限りなく近い存在だという。本来は食事は必要なく自然の中のマナがあれば生きて生けるらしい、大陸の中でも特にマナの濃いこの大樹海の中ならどんなに走り回ってもお腹が空く事はないそうだ。
「それじゃ、あの子が帰ってきたら目一杯褒めてあげてよ。察しの通りあの子はまだまだ子供だからね、きっと地が出るほど喜ぶよ。」
なら彼が帰ってきたら沢山褒めてあげよう、隣にいるマリーちゃんも「マリーも一緒に褒めてあげる」と言っていたので一緒に褒めてあげようねと約束した。
ガラさんとアーロがお風呂を出るまでの時間を他愛の無い話をしながら夕飯までの時間を過ごした。沢山働いた所為か夕飯がとても美味しくて困ってしまう。いつも以上に食べれてしまった・・・アーロの料理が美味しすぎるのがいけないと思う。
今夜のメインは猪の肉を使った肉じゃがと言う料理だった。甘辛い味付けでジャガイモもニンジンもホクホクな上に味が浸みている。
副菜の夏野菜のサラダも採れたてだから新鮮で更にかけてあるドレッシングがまた辛すぎず酸っぱ過ぎずいい塩梅で美味しかった。
食事後の至福感に浸っているとすぐさま睡魔が襲ってくる、駄目よここで寝転がろうものなら意地悪な顔をしたあの小言が聞えてくるに違いない。ううっ、しかし瞼はどんどん重くなる、チラリと食後のお茶を飲みながら談笑しているガラさんとアーロを見ると私の視線に察したのかガラさんは「寝てもいいよ」と優しく言ってくれたがアーロはやはり意地の悪い顔をしながら「ブタになるぞ」と言ってきた。
ムカつくけれど抗いようの無い睡魔との戦いに敗北寸前の瀬戸際に私はふと思ってしまう、お腹一杯で寝ちゃいそうになってる私って年頃の女子としてどうなのかなって・・・ああ、瞼が落ちる瞬間に見えたのは私を見て苦笑いしている二人の姿だった・・・
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