龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第5話ー4 Aパート

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妙に長い走馬灯の様なものを見ていた気分だった。気が付けばいつもの様に自室のベットの上で体中医療用の護符が張られまくりの状態で横になっている。体中が錆付いたかの様に軋み激痛が走る。何とか顔を横に向けると看病してくれていた月子がそのまま寝入っていた。
「また心配かけてるな。これじゃどっちが守られてるか分かったもんじゃない。」
実戦演習の初日を明日に控えて何度目かの月子との試合で俺はまた月子に吹き飛ばされて気絶していたらしい。いつもの様に下らない事で月子をまた怒らせてはその逆鱗に触れ吹き飛ばされる。月子と出会って1月弱だがほぼ定番になっていた。最近では月子も学園に慣れてきたようで俺意外と言っても三光院兄弟妹と良く喋っている特に五六八とは仲が良い。歳も近い事も合って随分打ち解けたみたいだった。ただあいつに合わせてるのか飯の量が最近日に日に増えている気がするのが怖い。
「育ち盛りだから大丈夫、大丈夫?いやいや、この小さな体の何処に入るんだろうかね?」
俺は苦笑いしながらつい月子の頭を撫でる、すると月子がじっと俺の顔を睨んでいる事に気が付いた。
「減点1。」
「起きてたのかよ、その減点は撫で方が駄目だったのか?それと何点からの減点方式か教えてもらえると精神的な疲労が減るんですが?」
頬を膨らませて背を向ける月子、また機嫌を損ねちゃったかな?
「今99点、今日ちょっとやりすぎちゃったから…」
「今回も割りときつかったけどいつもの事だろ?俺もまだまだ未熟だって事だよ、止めるなんて言うなよ。」
時計を見ると9時を5分ほど回っていた道理で腹が空いている。
「月子、夕飯は?」
「まだだけど、食堂閉まってるよ?」
「大丈夫、ママがなんか余りモノくらい残してくれてるって。」
かなり遅めの夕食をとりに二人で食堂に向かうと案の定アデリアさんが俺たちの分を残してくれていた。生徒が一人も居ない食堂はとても広く感じる。俺と月子、それに晩酌ついでのアデリアさんの三人で夕食になった。
「それでこんなに遅くになった訳だ。月子、いくら看病だからって男の部屋に入るのは感心しないね、この唐変木でも一応男だからね。」
ワイングラスを片手に残り物をアレンジしたつまみを食べながら俺を睨み付けるアデリアさん。
「何だよもう酔っ払ってんのか?俺が月子に酷い事する訳無いだろ。」
「勇吾君に限ってそんな不埒な事しないと思います!」
ワイングラスを一気に煽り空になったグラスまたワインを注ぐ。
「甘いなー、あたしが国にいた頃は毎日の様に男共に言い寄られては両手両足ばきばきに折ってやったのにその日の晩には夜這いに来るようなのが男ってもんだよ。」
「オーガ族の男連中と一緒にすんな!」
2メートル以上の巨体に筋骨隆々、屈強なオーガーの男達をボコボコに出来るアデリアさん。オーガの人達の価値観の中に腕っぷしの強さはかなりの比率を収めている、それに加えてアデリアさんは綺麗な人だからかなりモテただろう。
「そう言う訳だから、月子も少しは警戒しなよ。そこの朴念仁でもmmくらいは下心あるんだからね。」
いよいよ俺への当たりが妙に強くなってきているこのままだと酒の勢いに任せて絡まれ続ける事が目に見えてきたので早々に退散する事にしよう。
「月子、明日はいよいよ本番の日だからさっさと帰って寝ようぜ。」
月子も察してくれたのか良いが回り始めているアデリアさんに会釈して席を立つ。帰ろうとする俺達にあからさまに不満そうな顔をしているアデリアさんだったが学生相手に管を巻くほど悪酔いはしていないようだったので不満そうだったが「おやすみ、早く寝なさいよ」言って俺たちを見送った。

部屋に戻った俺は眠くなるまでの時間、日課である符のストックを作る事にした。現代術式の用途別に作る符ではなく師匠から直伝された万能型の符を作り置きしておく事が魔力量が少ない俺にとっての生命線になっている。一定の魔力を込めながら一枚一枚手書きする事で俺専用の符が完成する。師匠に師事したのが施設に引き取られて直ぐだった、両親を一編に亡くした俺は施設で誰とも馴染めずに一人きりだったけどある日師匠が現れた。師匠いわく俺には術師としての才能があるから弟子にしてやると、いきなりそんな事を言う小人サイズの大人に何故だか俺はその言葉を信じてしまい師弟関係がその日から始まった。直ぐに術を教えてくれると思いきや体力作りだと言って施設の周りを何周もさせるし精霊との交渉や術の詠唱を上手くなる為といって施設の子達に積極的に話しかけさせられた。今思えば術の習得は二の次で俺を立ち直らせる事のほうが重要だったのかと思いもする。本当にあの人は何者なんだろう?でも師匠のお陰で今の俺はある。ふと昔の事を懐かしがって居ると月子の部屋と繋がっているドアからノック音がした。
「まだ起きてるよ。どうかした?」
「ドアから明かりが漏れてたから気になっただけなんだけど、まだ寝ないの?それ、何してるの?」
寝巻き姿の月子がドアから入ってくる。シャワーを浴びた後なのだろう髪の毛が濡れている。
「月子、また髪の毛乾かしてないな、俺が上げたドライヤーは?」
「うう、うちアレあんまり好きじゃないのほっとけば乾くからいい!」
子供みたいな事を言うから子ども扱いしたくなる。これを言うとまた怒りそうだから心の中で言うに留めよう。
「駄目だ、ドライヤー持って来い俺がまたやってやるから。」
「いーやですー!そうやって子ども扱いする!」
「なら子供扱いされない様に髪も毛乾かせ、朝起きたらまた寝癖凄い事になるぞ。ほら早く持って来い。」
月子は渋々部屋に戻りドライヤーを持ってきて俺に手渡す。
「そこに座って。」
最初は半乾きの月子の銀色の髪を乾いたタオルで優しく水分を拭き取ってから櫛で毛先まで梳く。ドライヤーを中温にしてゆっくりと乾かしていく、いきなり強い温度で乾かそうとすると髪の毛が痛んでしまうからだ、これは十子姉さんに教わった事だけど。
「悔しいけど勇吾君に髪の毛乾かして貰うの気持ちいいよ。」
俺が座っていた座椅子に座らせると月子も大人しく髪を乾かさせる少しゆるくなった表情を見ながら丁寧に月子の髪を乾かして最後にもう一度櫛で梳く作業を行う。
「聞きそびれちゃったけど勇吾君は何してたの?」
「符を書いてる途中だよ。」
「どうやって作るの?見せて!」
まあ、丁度髪の毛も乾いた事なので月子に見せるために一枚書いて見る事にする。俺の符術は師匠から教えられたものなのでルーツは大陸らしい細かい事は長くなるので割愛するけど本来は桃の木の板などに術式を書き込んで護符にするのが携帯性と経済性を考えて少し効力は落ちるけど使いやすいのは紙の符紙なので俺はこっち派である。
用意するものは硯と墨これは結構重要でなるべく良い物を使う事にしている。特に墨は相性が有り俺の魔力が乗り易い漢後期クラスの古墨が最適だ。符紙も専門の職人が製紙した物を使っているがまあこれは普通に出回っているのでそれほど高くない。まあ出回っていると言ってもこの業界内だけど。俺の真横で出来上がった符を覗き込んでいる月子に俺は何となく聴いて見た。
「月子は今まで見たこと無かったのか?」
「叔父様じゃなかった師父は武術一筋で術とかは軟弱だとかで一つも教えてもらう機会が無かったから最近授業を受けて初めて知るほうが多いの。」
「なるほどな…そうだ。月子ここで基本術式のおさらいです。テストに出るぞ。術式の基本となる始動から発動までの手順を述べなさい。」
「えっ急に!えっと、最初は体内魔力の励起でしょ…」
急に振られてびっくりしている月子が授業内容を思い出しながら指を折りながら答えていく。
術はどんな形式や流派でも基本は一緒、まずは自身の魔力を使う術式に合わせて活性化させる。常時活性化している術者はそう居ない燃費が悪いからね。使うつどに瞬間的にスイッチを入れる。次に術式の構築、どんな術を使いたいかを決めてそれを思い描く。これはほぼ魔力の励起と同時に行う。次は使う術によって様々だけど詠唱、触媒の使用など多岐に渡るけど手順は同じ、そして発動といった具合になるけどあくまでも一般的な術者の枠組みで俺の横で首を捻っている月子はこれに当てはまらない。俺たち術者がどんなに修行しても体内魔力は生涯増える量は微々たる物で生れつき決まっている。数字にすれば人間で最大200くらい、長命で魔力量が豊富なエルフ族で500くらい。エルフの人達くらいあれば自前の魔力でも大規模なものや強力な術式を放つ事が出来るけど人間は違う。自前の魔力はあくまでも引き金に過ぎない、普通の術者の魔力量は100に届くか届かないか程しかない。人間は自前の魔力では大した術を使うことは出来ない殆どが自然魔力『マナ』を最終的に使わないと完成しない。自身の魔力を火種にして術式を媒介にし自然魔力を消費して初めて発動できる。だけど人間の凄い所はマナが無くとも術を使う術を少しずつ発明してきた所だろう。俺の符術もその一つ。
そして、月子の事だけど…
「何、じっと見て…!勇吾くん!もしかして!駄目だよ、まだ!」
「何うろたえてるの?」
「…別に、なんでもない!」
一人でコロコロ表情を変える月子の事だけど彼女は人じゃない見た目は人と代わらないけどその体内魔力量は俺の体感だけど1000を超えるのは確かだ。彼女には術式すら必要なく自前の魔力だけで炎、雷、風などの属性を用いた攻撃を行える。果ては膨大な魔力を消費しても直ぐに回復出来てしまう。何だか急に膨れ面になってしまったこのあどけない少女は龍族なのだから。
「さて、髪の毛も乾いてるんだからもう部屋に戻れ。明日の事考えて寝れなかった何て言ったら笑い事たぞ。」
「そこまで子供じゃありません、もう!勇吾君の意地悪!」
そう言うと月子は肩を怒らせながら部屋に戻ろうとしたが振り返って俺を見る。
「…明日がんばろうね。」
「ああ、そうだな。気楽に行こうぜ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」

部屋の明かりを消しテーブルの照明だけを着けて再び符の製作を始める。正直な気持ち月子は俺より強い、純粋な戦闘能力なら十子姉さんと肩を並べるだろう。それでも何故礼司兄は俺に彼女を守らせているのだろう?この数週間自分の実力の無さを嫌と言うほど思い知らされた。
こんな俺が彼女を守るなんておこがましいと思った事さえある。
だからこそ、彼女を守れるように常に最善、最良の行動を取れるようにせめて準備と心構えは万全にして置きたい。
「このままじゃ、カッコ付かないしな・・・」
気が付いたら空が明るくなっていて授業開始までの数時間仮眠する事にしたが結局月子に起こされるなんて事になったのは流石に恥ずかしかった。
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