龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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大8話-17

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「ああそうだ、お前明日面かせ。柾陰も呼んで来い。」
そう言うと礼司は立ち上がる。缶ビールの空き缶を片手でゴミ箱に投げ入れると見事に入った。
「?それは構いませんけど何の御用ですか?礼司ししょ、神代先生。」
師匠と呼ぼうとした千草をだったが睨みつられたので言い直した。変な処が細かいのがこの男である。
「何チョッとしたアルバイトだ。良い鬱憤晴らしになるかもしれないぞ。」
「別に私は鬱憤など溜まっていませんが。」
少し不満そうに言う千草だがその顔を見ている礼司は意地悪そうな顔をしている。
「そうか?まあそう言う事にしといてやる。でも『月子』の名前を出した時眉間に皺が寄ってたのは気のせいか?」
そう言って手をひらひらしながら席を離れていく礼司を睨みつける千草、図星だったようで顔が赤くなっている。怒りに任せて木製のテーブルに拳をたたき付けると見事粉々に壊れてしまった。

 月子は真っ暗な部屋の中ベットの上で膝を抱え丸くなっていた。子供の様に泣いて泣き顔を勇吾に見られそのうえ抱かかえられて部屋に戻って来た。勇吾の声と暖かさに触れるたびに縋り付きたくなりそう思う度に千草の言葉が胸に刺さる「うちは勇吾君の優しさに甘えているだけ。」
呟いた自分の言葉は何度も何度も月子の頭の中を廻っていくそして心も体も重くなる。体を動かす事が出来ないほどに。
だが感覚だけは鋭くなり眠る事が出来ずにいた。
眠ってしまえればどれ程楽だろう、廊下から聞える足音、窓の外から聞える虫の声、全てが煩わしく聞こえてしまう。
耳を塞ぎ更に内に篭ってしまう月子。
どれ程の時間が経ったのか解らないほど真っ暗な部屋で勇吾の部屋と繋がるドアの向こう側に気配を感じた。勇吾がドアの直ぐ向こうに立っている、しかし勇吾は立っているだけでノックをする事もなくそこに立っている。5分以上何もする訳もなく立っていた勇吾から声が掛けられる。
 
 「月子、起きてるか?晩御飯食べてないだろ。おにぎり作って来たんだ食べないか?」
 彼の声が聞こえた。それだけで私の体は正直で勝手に動いてしまう。声のする方に手が伸びてしまう。勇吾君を求めてしまう。勇吾君と話したい、勇吾君の顔が見たい、勇吾君に触れたい。だけど、それは私が勇吾君に甘えているだけで勇吾君がうちに優しくしてくれるのはパートナーだから?でも私はそれ以上の存在になりたい。私だけを見て欲しい、私だけに笑いかけて欲しい。何て我侭で身勝手な気持ちだろう、こんな気持ちのまま勇吾君の顔を見られない。きっと今の私は凄く嫌な子だ。あの人が言った言葉が今なら凄く解る、きっとうちは彼との関係を壊すのが怖い。このままでも勇吾君さえいてくれれば幸せだと分かっている。
でもそれは一緒に闘うパートナーのままでいつか別の人が勇吾君の隣に居るのを後ろから見ている事しか出来ない。
そんなのは嫌だ、嫌だ・・・だけどそれを思う権利すら私には無い。だってこの想いを彼に伝える勇気が私には無い。
それでも目の前に在る彼の優しさに縋りたくなってしまう、
なんて卑怯でずるい、弱い存在なんだろう。
 
 結局私は彼の声に返事する事が出来なかった。こんな情けない姿を見せられなかった。扉が少し開いてた。私は彼が入ってくると思い身を強張らせる、だけど直ぐに扉は閉まりそこにはお盆に載ったおにぎりが4つ。食堂で見かけるおにぎりよりも少し大きくて歪な形をしている。直ぐに彼が握ってくれた物だと分かった。そのうちの一つを手に取り一口頬張る、少ししょっぱかった。涙が止め処無く溢れる、彼の優しさが伝わる。さっきだって私に声を掛けようかずっと迷いながら扉の前で悩んでいたはずだ。彼の作った不恰好なおにぎりをもう一口かじる。彼の性格その物のようなおにぎり、
女心には鈍感なくせに優しくて私には厳しい事を言うくせにいつも私を見ていてくれる。どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。どうして私はこんなに勇気が無いのだろう。一人ならこんなにも貴方の事が好きと言えるのに。
「好きなの・・・勇吾君の事が大好きなの。」
泣きながらおにぎりを頬張っているうちに私は瞼が重くなっているのに気が付いた。何て単純なんだろう、空腹が満たされて眠くなるなんて・・・本当に嫌になる。


 月子の部屋に握り飯を届けて一時間ほど経った。ドアから離れ様子を伺った。食べてくれるだろうか?形も大きさもばらばらで我ながらもう少し器用に作れないものかと思うが味は問題ないはずだ。塩むすびで何を誇らしげに言っているのだろう俺は・・・顔が見たかったが声を掛ける事すら躊躇していた。こんな薄い扉なのに凄く遠くに月子が居る。しばらくするとドアの向こうで物音がした。俺はドアに駆け寄り中の様子に耳を当てると微かに寝息が直ぐそこで聞えた。
ドアを静かに開けると空になった盆の脇で静かな寝息を立てている月子を見つける。今さっきまで泣いていたのだろう目にはうっすらと涙のあとが残る。俺は起さないように彼女を抱かかえてベットに運ぶ。その寝顔を見ながら言いようの無い苦しさを覚える。
「月子、泣くなよ。お前の泣き顔を見ると苦しいんだ。」
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