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第一八章

レベル274 ピクサスレーンの現在

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「父上、これはいったいどういう事ですか!?」
「どういう事も何も、お前が望んだことだろう」

 エルメラダスが、父親であるピクサスレーンの国王に詰め寄る。

 世界中の国々が集まって開かれた会議、救世会。
 そこで決まったクイーズの追放に不満を覚えたエルメラダスは、自分が国王になって撤回させようと考えていた。
 なので、父親に王座を降りるよう説得を行っていたのである。

 最初は頑なだった国王だったのだが、ここ最近、急にその話を進めだしていた。
 それ自体は問題ではなかったのだが……

「なぜ、私が将軍職を退くことになっておられるのですか!」

 エルメラダスが国王になるにあたり、現在の要職は全て解任するという。
 サンフレアでの太守補佐は当然の事、将軍職まで。

「当然の事であろう、今の国王の仕事は兼務で出来るような内容ではない」
「太守補佐はともかく、将軍職まで退く必要はありますまい。過去にも国王が将軍と併任していた事もあったではないですか!」
「平時ならそれも良かっただろう、だが、今は時代の転換期。王の仕事は山ほどある、一日24時間働いても足りんぞ……わしゃもう疲れたわい」

 そう言う、王の目の下には隈が出来ていた。

 クイーズが呼び込んだ、鍛冶師、細工師のおかげで、ピクサスレーンの下町は経済も上向きで税収も上がっていた。
 そんな鍛冶師達とラピスが組んで、新たな鉄の加工方法が試されていた。
 それを知った国王は、国を挙げて支援するとして多くの加工場を建設していった。

 そんな鉄の改革が行われていた時代。
 当然、仕事はかなり増えている。
 だが、当時は嬉しい悲鳴と思って喜んでいた。

 そこへ来て、その技術を独占できそうな状況が生まれる。

 クイーズが追放されれば、それらが全て自分の物になる訳だ。
 そういった理由もあり、彼の追放に積極的に係わっていく事になる。
 だがそれが、結果的に自分の首を絞める結果となった。

 ラピスの手を離れれば、当然、自分達で管理する必要が出てくる。
 さらに時代は鉄の技術革新だけでは収まらなかった。

 ヘルクヘンセンではまったく新しい素材、プラスチックが生み出される。
 海岸沿いの国々からは、海洋資源が豊富にとれるようになる。
 北の国では新たな鉱山が続々と発見されている。

 さらに、ダンジョンでしか採れないメタル鉱石の価値が急高騰。
 これにより、産業には無価値と思われていたダンジョンに光があたるようになり、そこが鉱山並みの収益を生み出す。
 ピクサスレーンは辺境にあり、ダンジョンの数は豊富にある。

 まあ、あるだろうなとは思っていた。あるだろうなとは思っていたが、実際、メタル鉱石で出来たダンジョンを見つけてきたドヤ顔の冒険者を見たときには、どれだけ殴り飛ばしてやろうかと思った事か。

 これ以上、仕事を増やさないでくれ!
 あの腹黒ウサギが、何も言わず手を引いた時点で気づくべきだったのだ。
 うまい話には裏がある。それを、これほどまでに思い知る事になろうとは、思いもよらなかった。

 元々、ピクサスレーンにはこれと言った産業という産業がない。
 高レベルのモンスターを倒し、その素材を集め輸出する。それぐらいものだった。
 まあ、それだけで国が潤うといった理由もあったが、周りの土地が危険な地域なので、それ以上を行うことも難しかった訳だ。

 世界の果ての危険な場所にある国、人が減ることはあっても増える事はない。
 なので、この国では文官がほとんどいない。
 モンスター討伐がお仕事の中心なので、どこの領主も自らが武器を取って戦う猛者ばかり。

 脳筋じゃないと生きていけない土地柄だったのである。

 そんなとこに、輸出入の急増、新産業発掘など、誰が対応できるものか。
 必然、国のトップである王様の負担が大きくなる。
 なにせ、任せる人材がまったくいないのだ。自分でやるしかない。

 さらにここに来てダメ押しまで入る。

 首都の下町でレストラン街が急成長。
 世界中から注目を受ける観光地へ発展。
 そうなると、移民も大量に押し寄せてくる。

 壁を作って街を広げる必要があるし、人の移動の管理も必要。
 他の国から人材を引き抜こうにも、世界規模で起こっている産業革命の為、どこも人は足りていない。
 今から自国で育てるには遅すぎるし、育てる伝手もない。

 もはや王様はノイローゼ寸前。唯一の癒しは、孫たちと戯れること。

 なにやら、孫のリライフは共に居ると体が軽くなってくる。
 元々がエリクサーと呼ばれる最高級の回復薬、生命の雫。
 スキルではないが、本人自身に周りを癒す効果があった模様。

 長年、悩まされてきた腰痛ともおさらばでき、王様は、もう娘達に全てを任せ、自分は孫たちとの悠々自適な隠居生活。などと考え始めるのも当然の事。

 と、なると、困ったのがその娘達。
 急にやりたくもない仕事を押し付けられる訳だ。

「親父! オレが将軍職ってどういう事だよ!」
「エルメラダスが将軍職を退くのだ、カユサル、お前がやらぬで誰がやる、王族はもうお前達しかおらぬのだぞ」
「俺には音楽活動が・」

「いつまで趣味の世界に浸っておる、王族としての責務を果たさぬか」

 ぬぐぐぐと歯を食いしばるカユサル。
 同じく、ぬぐぐぐと渋い顔をしているエルメラダス。
 4人居た王の子供達は今やこの二人。二人でこの国を率いていかなければならない。

 ――――いや、

 カユサルとエルメラダスが顔を見合わす。
 居た、もう一人。
 それも、長男の次に期待されていた人物だ。

 その人物は実績をみても王に最もふさわしい。
 なにせ、この国の悲願であった旧王都サンムーンを開放したのだ。
 聖剣・聖盾という、攻撃と防御の世界最高峰の装備を持ち、かつて、最も強大な国、聖皇国を打ち立てた人物と同じ、聖剣の担い手というスキルまで持っている。

 それだけでも十分すぎるというのに、アンデッドが支配する死者の王国、フォーゼリア。
 その国を討ち滅ぼし、呪われた大地を開放したという噂まである。
 かつてその国は世界の半分を支配したという。

 それをたった一夜で城を落とし、アンデッドをほとんど浄化した。

 今なお、残党を浄化して周り、南の国々からは聖女とまで呼ばれ始めている。
 その実績は、世界中を探しても比類なきものであろう。
 そんな人物が我ら王家の血筋に居る。

 どうして、その者を差し置いて自分達が王になれよう。
 性別が変わってしまったという些事はあるが、始祖も元々は性別を偽っていたという噂だ。
 などと、二人は意思の疎通を図る。

「父上、実はカシュアはまだ存命で……」
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