上 下
265 / 279
第十七章

レベル265

しおりを挟む
「本当に4人だけで大丈夫なのでしょうか?」
「敵がアンデッドだけなら問題ありません」
「範囲攻撃だから、下手したら味方を巻き込みかねないんだよね」

 そう言うとカシュアは、フフに背後から、エフィールに左右から敵を追い立てるように指示を出す。

「それじゃあハーモア君は、いつもの構わないかね?」
「おう! 任せとけ!」

 ハーモアが巨大なライオンに変身する。
 ベルスティアとその部下達は、それを見て驚愕の声をあげる。
 そのまま敵陣に飛び込んで暴れまわるライオン。

 背後左右から敵を追い立て、ハーモアが中央で暴れて引き付ける。
 集まった所をホーリーノヴァで一掃、というのがカシュア達のパターンである。
 ハーモアもレベルが上がり、ほぼ獣状態にまで獣化する事が可能になった。

 そのおかげで、防御力もスピードもあがり、動きの遅いアンデッドにはその姿を捉えることすら難しい。

『おめえ様は戦わなくていいのかよぉ』
「ボクの出番は最後の最後だからね! まさに真打登場!」

 そう言って聖剣を掲げるカシュア。
 その聖剣から放たれた眩しい光が、前方を照らし出す。
 すると途端、動きが遅くなっていくアンデッド達。

「これをやってるだけで、なぜかみんな動きを止めるんだよ」
『あんま調子に乗ってると痛い目にあうぜぇ』
「なあにボクにはこの剣がある、少々の事には……って、うわっ!」

 その時、カシュアの全身を黒い霧が包み込む。

『そりゃぁ、そんだけピカピカさせてりゃ、狙われるのは当然だろぉがよぉ』

 それを見て、慌てて腰の邪王剣ネクロマンサーを抜くベルスティア。

『ありゃあレイスの上位種、ダークスピリット。このままじゃ、体を乗っ取られてダークプリンセスの出来上がりかもしれねえぜぇ』

 その時、ふと、違和感に襲われるベルスティア。
 今までは気にかけてもいなかったネクロマンサーの言葉。
 いつもは飄々と語るネクロマンサー。

 だが、なぜかその言葉にだけは熱を感じられた。

 もしやコレが、真実でもなく偽りでもない言葉なのか。
 そう思ったベルスティアは改めて周りを見渡してみる。
 カシュアが黒い霧に包まれても、カシュアの仲間達は誰一人として動揺していない。

『ん、どうしたぁ? なあに俺様を使えばあんなものすぐに取り払えるぜぇ』
「確かにそうでしょうね。でも、あなたじゃなくてもいいのではありませんこと?」
『チッ、余計な知恵をつけちまったか……』

 次の瞬間、目もくらむような光の奔流が辺りを包み込む。
 一瞬にして、カシュアを包んでいた黒い霧が、虹の泡となって舞い上がっていく。
 見ると、カシュアの全身から光の奔流が溢れている。

 そしてそれは、カシュアが掲げる聖剣を中心に、光の柱となっていく。

「あれが本物の聖女……」
「美しい……」

 周りの兵士達から感嘆の声が漏れる。
 中にはカシュアに向かって祈りを捧げている人もいるほど。

「ちょっと気持ち悪いんで止めてくれないかな? いくよっ!」『ホーリーノヴァ・光の太刀』

 そう言いながら、光の柱を剣のように振り下ろす。
 なんだかんだ言っても、ノリノリのカシュアである。

「ちょっとバカシュア! まだ早いでしょ!」
「イタッ、イダダダ! いやなんかそんなノリで?」
「ノリでやってんじゃねえわよっ!」

 地面に叩き付けられた光は、そこにいたアンデッド達を浄化していく。
 だが、まだ早かったのか、光の柱にしたのが悪かったのか、左右にはまだまだ残っていた。
 怒ったフフがカシュアに魔法をぶつけている。

「お、おい……見てみろ、アンデッド達が……」
「集まって、来ている……?」

 ふと見ると、残ったアンデッド達が武器を取り落として、光の柱が落ちた場所に集まってくる。

「ふむ……君達もまた、空に還りたいのだね」
「先ほどの事で、扇動していたダークスピリットを失ったからでしょう。彼らとて、全てが争いを望む訳ではありません」
「死んでからも、上の者に振り回されるのは変わらないのかな」

『それが、力なき者の宿命だろぉがよぉ』

 ならばボクは、力ある者としての宿命を果たさなくちゃね。そう呟いて、一人歩いていくカシュア。

 そんなカシュアにアンデッド達が群がってくる。
 ある者は、足に縋り付き、ある者は、腕を引っ張る。
 それはまるで、カシュアを地獄へと引きずり込もうとしている亡者のごとき様。

 だが、そんな亡者の一人一人に手を掲げ、笑顔を振りまくカシュア。
 手を掲げられた亡者は、虹の泡となり、空へ舞い上がる。
 次々と舞い上がる虹の泡は、上空にオーロラを描き出す。

「人の魂とは、これほど美しいものだったのか……」
「人の魂を救う、彼女のような存在こそ、王にふさわしいのかもしれませんね」
『それは違うぜセニョリータ、死んでから救われても仕方がねえ。人は生きてるうちに救われなきゃならねぇ』

 それが出来るのは英雄や勇者じゃない、地道な努力をしている政治家だけだ。
 英雄や勇者が必要な世界ってのは、荒れ果てている事が大半だ。
 あいつらが救った世界はただ、マイナスがゼロに戻ったにすぎない。

 そこからプラスに変えて行く事こそが、本当の意味で救うって事じゃないか。

「争いを好む、あなたらしくない言葉ですわね」
『おいおい、俺様は別に戦闘狂って訳じゃねえぜぇ。あるべき使い方さえしてくれたら不満はねえんだがなぁ』

◇◆◇◆◇◆◇◆

「ようは、あなたは戦えさえすれば満足なのでしょ」

 その日の晩、カシュアの様子を見にラピスがやってきた。
 そして話を聞いたラピスが、そう言ってネクロマンサーを見やる。

『言うほど好きじゃねえよ。ただ、千年、腰に吊り下げられたままってのはカンベンしてほしいぜぇ』
「なら簡単に解決できる方法がありますよ」

 そう言って今度はカシュアを見やる。

「簡単な事ですよ、あなたが敵をアンデッドに変える。それをカシュアが浄化する。そうすればあなたも満足でき、カシュアのレベルもあがる。ほら、いいこと尽くめでしょ」
「ええっ!?」
「アンデッドも無限という訳じゃありません。最近は狩場探しにも苦労してますし」
「ま、待ってよ、そんな事しなくても十分稼いでいるよ!?」

 何言ってるんですか、まだ1レベルしか上がってませんよ、あなた。
 と言ってカシュアにカードを見せるラピス。

「えっ、なんで? 今日もいっぱい倒したよ?」
「最初の一匹はともかく、残りのはそれを見て、戦意を喪失してたからね」

 フフが当時の様子を語る。

 カシュアの光は、一瞬だがアンデッド達を正気に戻す。
 そして、正気に戻った者達は自ら浄化を望む。
 望んで浄化した者達は経験値にはならない。

「たぶんそれを繰り返せば、例のスキルも使用可能になるのでしょうけど。経験値も必要ですしね」
「いやいやいや、ラピス君。いくらなんでもそれはひどくね?」
「どの道、戦争は避けられません。そうでしょ?」

「それは、そうですけど……本当にいいのでしょうか?」

 なら考える事はありません、カシュアに全部任しとけばいいのですよ。と、にっこり笑って答える。

「ほら、ラピス様ならこんなに簡単に解決できる」
「解決の方法が最悪だよ!」
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

前世大賢者のつよかわ幼女、最強ちびっこ冒険者になる!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:3,636

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:44,039pt お気に入り:35,543

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,152pt お気に入り:1,782

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:39,752pt お気に入り:30,002

成長チートと全能神

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:224

処理中です...