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第十六章

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「うわぁ、これはまた……」
「派手にやらかしていますねぇ」

 隣のパセアラさんは、えっ、と呟いたまま微動だにしない。

 とりあえず、この精霊石について詳しい事を聞こうと、ヘルクヘンセンの王都に居るであろう骸骨の元に向かったのだが。
 竜車の窓から見えるヘルクヘンセンの王都がどうもきな臭い。
 あちこちから煙が立ち昇り、まるで何者かに襲撃をかけられているかの様。

 骸骨が反乱でも起こしたのか!? と思って少々気がかりだったのだが、それどころではなかった。

 なんと! 王城がきれいさっぱりなくなっている。
 そして変わりに真っ黒な鉄のようなもので覆われた建物がいくつか。
 さらに鉄塔があちこちにたてられ、そこからはモクモクと煙が立ち昇っている。

 美しかった西洋風の街並みはいづこへやら、縦横無尽に街のあちこちを走るパイプのようなもの。
 至る所に建造中の建物から火花が散っている。
 あれ、ガスバーナーみたいのもので溶接しているぞ。

 あいつ、いったいどれだけ時代を進めたんだ?

「まるでスチームパンクな世界になってますね」
「たった一ヶ月で変わり過ぎだろ?」
「まあ、ダンディは元々その方面には強いですし、ガスバーナーみたいに構造が簡単なものなら再現は難しくないでしょう」

 今、アイツの頭の中には3つの世界の知識が詰まっている。
 オレが居た世界では様々な道具の機械的構造を持ち出せる。
 しかし、それを使うにはこの世界にはない、電気、ガス、石油などの燃料が必要となる。

 それを、この世界ともう一つの世界から、魔法かそれに準じる何かを代替させているのかもしれない。
 だからアイツを自由にさせたくなかったんだよな。
 何やからすか予想もつかないから。

 口をパクパクさせて王都方面を指差しながら、何かを言いたげに顔を向けてくるパセアラ。
 だから言ったでしょ、アイツに好き放題させると取り返しの付かない事になるって。
 竜車が駅につくと慌てて王城があった辺りに走っていくパセアラさん。

 そんなに慌てても、もう手遅れだと思います。

「おおパセアラ! 帰って来てくれたのか!」

 などと手を広げて迎えにでてくれたお父様を無視してダンディに詰め寄る。

「ちょっ、ちょっとダンディ、これはいったいナニゴト!?」
「ハッハッハ、ゼラトゥースの奴等はまったくダンディを使いこなしていなかった訳だ」
「お父様は黙ってて!」

 ハイって言ってシュンとなるお父様。

「なあに我輩は唯、新たなる素材を作り出すことに成功しただけである。その名もプラスチックというな」

 プラスチック!?

「油田でも見つけたのですか?」
「残念ながら、この世界には石油に代わるものは存在しない。まあなければ、作れば良いのだよ」
「石油を?」

「いいや、我輩が作り出したのは精霊水と呼ばれるものだ」

 ダンディの知る3つ目の世界、そこには精霊水と呼ばれるものが存在する。
 神域と呼ばれる場所より沸きだしているドロドロのヘドロのようなもの。
 火を近づければ簡単に爆発するし、水を近づければ一気に凍りつく。

 土で覆えば鋼鉄よりも硬くなると言う。

 その精霊水を加工する事により、アポロのカードをクラスチェンジさせた、あの精霊石が作られると言う。

「精霊水を高温で熱し、気化した部分のさらに軽いものだけを集め、圧縮して固体へ変化させたものがその精霊石であ~る」

 で、その過程がどうもガソリンの製造方法と似ている。
 だとしたら、ゴミとして扱われている燃えカスの部分、もしかしたらプラスチックのような素材にならないだろうか。
 そう考えたらしい。

「まだまだ、黒く濁った歪なものではあるが、そこそこ丈夫で非常に軽い素材が出来上がったのだよ」

 で、その元となる精霊水とやらはどうやって作り出したんだ?
 えっ、アクアとサヤラに手伝ってもらった?
 あの二人、居ないと思ったらこんな所に呼び出されていたのか。

「ところでお主は誰かな?」
「オレだよオレ」
「ふむ……頑張ってる我輩に対しての、主からのプレゼントかな?」

 うぉっ、やめろ! 抱きつくんじゃねえ!
 ちょっ、おまっ、オレを担ぎ上げて何処行く気だ?
 いや~! やめて~! たっけてラピえも~ん!

◇◆◇◆◇◆◇◆

「何も蹴ることないじゃない?」
「蹴るわっ!」

 オレをベッドに押し倒して、いったいどうする気だったんだ?
 あれからダンディの寝室へゴーされる。
 そしてベッドイン、しそうになったので必死になって蹴り飛ばした。

「そもそも、あんなとこで正体バラしちゃ駄目でしょ? なんの為に仮装してるんだが」
「だからといって、やりようってものがあるんではないだろうか」
「ウッシッシ、オモロイからもっとヤレ」

 サウの奴は楽しそうにしてパタパタ浮いている。
 もういいから元に戻してくれ。
 ここなら別に構わないだろ。

「まあまあいいじゃないのよぉ。目の保養にもなるし」
「いい加減その姿で女言葉はやめろ。あと今度やったらぶっ飛ばすからな」
「フッフッフ、ならば今度は眠らせてから連れてくるようにしよう」

 今度は二度とねえ!
 出来るだけ、ここには近づかないようにしよう。

「そんな事よりダンディ、アポロの件は聞きましたよね? あの精霊石というのはいったいどのようにして使うものなのですか?」

 精霊石、それはダンディが知る第三世界の道具である。
 その世界では、人は魔法というものが使えない。
 しかし、魔法と似通ったメカニズムが存在する。

 それが精霊石だ。

 精霊石に願いを込める事によって、精霊が呼び出され、その精霊が魔法を使う。
 かまどに火をつけたければ、炎の精霊を呼び出し、薪に火をつけてもらう。
 用事が終わった精霊は精霊石と共に消えて行く。

「水の精霊たるアクアが存在しうるということは、この世界にも多少なりとも精霊がいるのではないかと思ってな」

 そう言いながら、机の上に幾つかのサイコロのような石を転がす。
 ふうむ、コレが精霊になるのか?
 そう思いながらオレがその石に手を差し伸べたとき、ポン、ポポンという音と共に石が変化した。

「ヘイ、オヤブン、お呼びでっか」
「オヤブン様、どうぞご命令を」
「オヤビン~、オイラ、ハラ減った」

 見る見るうちに無数の小人で埋め尽くされる机の上。

『わっ、なんか可愛いのがいっぱい』
「しかしなんか、どいつもこいつもバカそうだな……イダダダ、止めろ、オレの髪を引っ張るな!」
「ほうほう、何をやっても変わらなかったものがこんな簡単に。それはアポロの精霊王のスキルの所為であるか」

 そいつらはワラワラとオレに襲いかかってくる。
 ちょっと正直な感想を述べただけじゃないか。
 そんなに怒るなよ。

「ふむ、それではこれは必要なかったかもしれんな。アポロの話を聞いて依代でも必要かと思って作ってみたのだが……」

 そう言って奥のカーテンを開くダンディ。
 そこには、グラマラスなボディをした、美人の彫像が佇んでいた。

『……こ、これは?』
「これに精霊痕を移せば、精霊として実体を持つのではないかと思ってな」

 えっ、試してみたい?
 こんな体が欲しかったって、アポロさんが随分興奮しておられる。
 じゃあ一旦戻すか。

 そしてオレはその精霊石の彫像に向けてカード掲げる。

『出でよ! 精霊聖痕・アポロ!』

 空中に浮かび上がった聖痕が彫像に吸い込まれる。

 次の瞬間、彫像から光が溢れ始める!
 表面部分がまるで卵の殻の様にポロポロと剥がれ落ちていく。
 そして全ての光が収まった後、そこに居たのは――――生まれたままの姿をしたアポロであった。

 つってアレ? アポロさん? さっきまでの美人の彫像は?

「……えっ、何で? どうして? というか、胸が以前よりしぼんでいるような気も」

 いいえ、それが正確なバストですね。と胸囲にシビアなギターちゃんが呟く。
 どうやらカードになる前の姿で実体を得た模様。

「ハッハッハ、あの彫像の姿になるとは誰も言っておらんだろう」
「コロス……」

 まあまあ、おさえてアポロさん。
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