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第十六章

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「まあそれもこれも、人間達がお坊ちゃまの事を目の敵にしなければすむ話なのですけどね」
「なかなかそういう訳にもいかないのよねえ。皆さん想像力が豊かですから」

 そう言って、目の前におかれた黒い青汁に口をつけるユーオリ様。
 どこからともなく現れた一人の男性がテーブルに飲物を並べて行く。
 配膳が終わったのを確認して、ラピスがその場に居た人達にテーブルにつくよう求める。

「それでは、まずは現状の報告をお願いいたします」
「ならば私から」

 そう言って立ち上がるアンダーハイトの国王。

 アンダーハイトは前回のクイーズ追放会議で、奴隷化の解放を条件として賛成に回った。
 そもそも契約がクイーズだったので、どのみち解放は必要だったのだが、解放後、新たな制裁は加えないという約束をとりつけた訳だ。
 未だ国内に砦は残っており、今後も聖皇国の影響は免れないが、だいぶ自由に動くことは可能になった。

「今まではクイーズ卿との契約であったが、その上位には聖皇国がいた。だが、それがなくなった訳だ」

 ニヤリと笑いこう続ける。

「今後、我々は他国の意思ではなく、我々の意思でクイーズ卿へ尽くす事を誓おう」

 敗者は勝者に従うのが鉄則だが、我等が敗北を喫したのは、あくまでクイーズ卿である。
 ならば、我らが従うのはクイーズ卿であるのが自然な事。
 なあに、表向きは他国に足並みをそろえておけばいい。

 裏での行動は、我らの得意とする物であるのだからな。と、その辺りはやけにこだわりのあるアンダーハイトであった。

「パイレーツ諸島連邦もクイーズ卿への尽力をおしまない」

 そう言って別の人物が立ち上がる。

 海神ウィルマの主であるのなら、我らにとっても主となる。
 海があってこそ、我らの国がある。
 その海を制覇されている海神に逆らうことができようもない。

 それになにより、船の事がある。
 今までの木の船では、どんなに分厚くしようとも、海のモンスターが暴れれば容易く藻屑とかしてしまう。
 それが、あの鉄の船であれば、どれほど被害が抑えられることになろうか。などと、興奮した面持ちで答える。

 今現在、空母ウィルマはパイレーツ諸島連邦の港で浮いている状態。

 ただ寝かせておくのももったいないので、船の製造をそこで行っている。
 船首を凹型に変形させ、へこんだ間で吸収したメタル鉱石を加工して船を作り出す。
 パイレーツ諸島連邦の人達にも協力してもらい、まるで造船工場のように変化している。

 そこで作られるメタル船は非常に強固で、今までの船など足元にも及ばない。

 海の魔物に襲われても持ちこたえ、これがなければもう暮らしていけない、と言われるほど。
 それを失うような事があれば一大事。
 そりゃもう、パイレーツ諸島連邦は決してクイーズには頭が上がらない理由だ。

 追放の際、賛成に回ったのも、ウィルマの指示によるものだ。

「なに、やっぱり係わっていたんじゃないの?」
「私はウィルマには何も言っていませんよ。賛成に回れ、とも、反対に回れともね」
「詭弁ね」

 パセアラのジト目を逸らしながら話をフロワースに振る。

「エンテッカルでは現在、民衆のデモが発生しています」

 エンテッカルは早くから音楽の文化を取りいれ、フロワースは英雄の導き手のスキルを持つモブディに、音楽の才能を持つ人物を集めさせていた。
 最近流行りだした音楽という文化。
 まだまだ未知数なその分野、才能がある人物を見極めるのは至難の技だ。

 しかし、モブディには英雄の導き手という、才能ある人物を見抜くスキルを持っている。

 彼をプロデューサーに抜擢、次々と歌い、踊れる人物を掘り起こす。
 アイドルユニットを作り上げ、国中に歌を響き渡らせる。
 なお、社長は本人もあずかり知らぬクイーズだったりする。

 で、そんな社長が追放処分になった訳だ。

 勿論そんなアイドルユニットを有する会社も運営停止状態。
 いつの間にか出来た、熱狂的なファン達が集って抗議集会。
 それが国民の間に広まって一大デモが起こっているらしい。

「まっ、率先しているのは私ですけどね」

 エンテッカルは独自の方針で強力な武力を備えている。
 しかし、それを内側に向けるわけにも行くまい。
 新貴族、旧貴族と板が一枚でなければ、強硬な策にも打って出られない。

「近々良い報告ができそうです」

 そう言って満足げな表情で締めるフロワース。
 パセアラはそんなフロワースに少々慄く。
 年齢は自分とそうかわらなそうなのに、随分と辛らつな手を使うフロワースに驚いている。

「ピクサスレーンの動きはどうですか?」
「少々困った事になってましてねぇ……」

 ため息を吐いてエフィールがそう答える。

 クイーズの追放の決定に対してエルメラダス姫様が憤慨。
 今すぐ王位を継承させよと王様に迫っているそうな。
 どうしても駄目だと言うのなら力ずくで、みたいな事になりそうで、必死でカユサルがなだめている。

 その際にリライフの事も暴露して、大層、王様が頭を悩めているそうな。

「導火線に火がついた状態、いつ爆発する事やら……」
「そこはカユサル様に頑張ってもらうしかないですね」
「彼もほんと苦労人ですねぇ」

 聖皇国はどうですか? とラピスが暢気そうにコーヒーを飲んでるユーオリ様に聞く。

「ん~、うちは聖獣様次第ですからね。全人類に反旗を翻すことになろうとも、聖獣様の命令なら従うんじゃないですかねえ」
「ニースは人間好きですからそんな事は起こりえないでしょう。夢の中でもカシュアと一緒に人の味方をしていたようですし」
「それは嬉しいわねえ。そんな事より、エクサリーさんはいつ聖皇都に帰ってくるの? おばさん、やっぱりあの子が淹れたコーヒーがいいんだけど」

 そんな事よりって……と呆れたような声で呟くパセアラ。

「そう言うヘルクヘンセンはどうなの? パセアラちゃんは大丈夫?」
「ヘルクヘンセンはダンディが本格始動を始めました。むしろやり過ぎないか警戒するぐらいですね」

 その後も色々と議題を重ねて行くラピス達。
 それを見てパセアラは、だんだんバカらしくなってきた。
 いったい自分は何の為に、女王の座を追われてまでクイーズを庇おうとしたのか。

 そんな必要などまったくない。むしろクイーズを追放しようとした連中には手痛いしっぺ返しが待っている。

「いいえ、あなたは誇って良いのですよパセアラ様」

 そんないじけているパセアラに、そう応えるラピス。

「私達はその先を見つめて行動していました。しかし、一つだけ見落としていたことがあったのです」
「そこまで準備していて、一体何を見落としていたというのかしらね?」
「そう、私達は見落としていた、遠くを見すぎて、すぐ近くにある足元を。それは、お坊ちゃまの心、気持ち。追放処分を受けた事をお坊ちゃまがどう思うか。それを考えて無かった」

 その心、気持ちを救ってくれたのは……パセアラ様、貴女だったのですよ。羨ましそうな瞳でそう答えるラピスであった。
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