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第十六章

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 その日の夜、結局ここで野営は無理だということで、早速パセアラに時空魔法でワープポイントを作ってもらい、サンフレアの宿屋へ戻ってくる。

「本当に助かったよパセアラ、あんなところで野宿なんてしたらリアルで帰らぬ人になってしまう」
「別にお礼を言われるほどではないわ。報酬もきちんと貰っているしね」

 そう言ってダンディのカードを取り出し、にへらと相好を崩す。
 そんなに嬉しかったのかな。
 パセアラの奴は笑うと、とても子供っぽい表情をする。

 それを人に見られるのは嫌らしく、いつも口元を隠して笑う。

 それが今は、誰憚ることなくカードを見つめてにやけている。
 しかし気を付けろよ、あんま好きにやらせてると取り返しの付かないことになるぞ。
 オレみたいに。

「大丈夫よ、ダンディはなんだかんだいっても分別はあるほうだと思うわ。むしろ私が心配なのは……」

 そう言ってラピスの方をチラリと見やる。
 まあ、偶に暴走はするが、こうしてなんとかやっていけるのもラピスのおかげだろう。

「それが計算の上で、でなければいいんだけどね……」

◇◆◇◆◇◆◇◆

「こんな夜中にどこにいくのかしらね」
「あら、起こしてしまいましたか?」

 誰もが寝静まった夜、こっそりと宿屋を抜け出すラピス。
 そしてそれを見咎め、声をかけるパセアラ。

「コソコソと何をしているのかしらね」

 今回の件、クイーズにとっては災難だっただろう。

 生まれたばかりの子供とも引き離されて、最愛の妻ともいつ会えるやも知れない。
 竜王クラスは足止めをくい、動かすことはできなくなった。
 ごく少数の手勢のみで、人のいない、モンスターの世界へ行かなければならない。

 だが、このウサギもどきにとってはどうだろうか。

 自分より力の強いカードモンスターは、ほとんどが身動きがとれなくなった。
 カシュア、ロゥリは基本ラピスには逆らわない。
 アポロとティニーが居るとはいえ、向こうの世界では危険で人型をとれる状況ではない。

 クイーズを独り占めするには最高のシチュエーションではないだろうか。
 クイーズは、この状況を打開しようとしているラピスに信頼をおいているが、そもそもそういった状況を作り出したのが……
 あまりにも、ラピスにとって出来過ぎている状況になっていないだろうか?

「ふむ……仕方ありませんね、あなたも来ますか、私たちの首脳会談に」

 そう言うとラピスは、とある魔道具を取り出す。
 それは扉が描かれた一枚のカード。
 かつてパセアラも持っていた魔道具。

「救世会への招待状……なぜ、あなたがソレを!?」

 その魔道具は、ソレを持つ者を強制的に召喚するもの。
 つい数日前、クイーズをこの世界から追放する採択を行う為に使われたもの。
 それは各国の代表者しか持ち得ないはずのもの。

「分析してコピーさせてもらいました」
「分析って……ソレの大元を持つ者は、今はファンハート帝国のベルスティア帝王……」

 ハッとした表情でラピスを見やるパセアラ。

「それでは参りましょうか」

 ラピスのその声と共に、どこからともなく現れた扉が迫ってくる。
 それはラピスとパセアラを飲み込むとバタンと閉まる。
 そして現れた時と同じように消えて行くのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「まさか本当にあなたがかんでいたとはね、呆れてものも言えないわ」
『言ってるじゃねえかぁ』

 キッとパセアラが、その場に居たファンハート帝国の帝王、ベルスティアを睨み付ける。

「今のは私じゃありませんわ、この剣が言ったのです」
「剣が喋るわけないでしょう」
「そうは言われましても実際に喋っていますし……」

 まあそれはどうでもいいでしょう。と割って入るラピス。

「最初に誤解を解いておきますが、お坊ちゃまの追放に私は一切係わっていません」
「なら、なぜここに、各国の代表者が集っているのかしらね?」

 そこに居たのは、ファンハート帝国帝王ベルスティアを筆頭に、聖皇国のユーオリ、エンテッカルのフロワース、ピクサスレーンのエフィール、バルデス。
 さらにアンダーハイトと、パイレーツ諸島連邦のトップがそろい踏みだ。

『一切係わってねえから、そういう結果になったんじゃねぇの?』
「口の減らない剣ですね、邪王剣ネクロマンサー」
『おいおい、今の俺様は、蘇生剣リザレクショナーだぜぇ』

 ラピスはその剣を一瞥して続ける。

 確かに、この件に関して事前に手を打とうとしなかったのは事実。
 しかしそれは、そうするのが最善だと判断した結果。
 仮に、今この時を押さえたとしても、その後は更に難解な問題へと発展しかねない。

「夢、でしょうかね」

 以前クイーズは、ラピスがモンスターの王国を作り上げ、人類へと攻め込むという夢を見たと言う。
 その夢の中でラピスは、全てが終わるまでクイーズを封印し、眠らせていたと言う。
 それはもしかしたら、未来の私からの警告、だったのかもしれません。と呟く。

「さすがの私も、お坊ちゃまを封印、等という事は……よほどの事がなければ考えません」

 よほどの事があれば……そう、たとえばクイーズの身近で不幸な事があれば……
 クイーズ自身を捕らえる事は難しいだろう、しかし、人質をとられれば?
 このまま人類から目の敵にされれば、その可能性も否定できない。

「ならば一旦、全てを白紙にしてしまおうと?」
「大事なのはその先なのです。いずれどこかで袂を分かつと決まっているのなら、出来るだけ有利な条件でそれを行う」

 さらにそれを利用して、次の手、で先を押さえればいいのですよ。と不敵な笑みを浮かべるラピスであった。
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