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第十二章

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「ふうむ……ならば、この姿はもういいか」

 目の前の人物の体が急に膨れだし、3メーター程の巨体に変わる。
 その体は上半身は鷲、下半身はライオンのような風貌で2本足で立っている。
 それは砦で見た、グリフォンドールと言われたモンスター、それに酷似している。

 たぶん、あれが成人した姿であろう。

「何をしている山神よ!」

 そこへ先ほどまで目の前の居た人物と、同じ姿をした人が走り寄ってくる。
 あれが本物の王様かな?
 慌てた風に巨体のグリフォンドールへ詰め寄る。

「その者をここで殺せば、この国は破滅まったなしだぞ!」
「なぜ殺すことになっておるのだ?」
「その姿を見せたという事は、生かして帰さないということだろう」

『やっぱり戦闘は起こりそうだね!』

 まだ決まってないだろ?
 その山神って言われたグリフォンドールも、戦いを仕掛けてくる様子は見受けられない。
 たぶん、隠していても意味がないと悟っただけじゃないかな。

「その通りだ小僧よ、お前と戦う利点はない。隠して置くことも意味が無い」

 おや、心が読めるので?

「フッ、驚かんのだな。こうして目の前に居れば多少は伝わってくるわ」
「山神よ! あまり情報を開示するでない!」
「なぜだ? どうせコイツが今後のおまえ達の主人になるのだろう」

 そう言われて絶句する王様らしき人。
 あなたはこの国を見捨てるのか。と小さく呟く。

「役者が違うわ、お前達に、この小僧をどうこう出来る手段は無い。何が与し易しだ、コイツはある意味、あの耳や骨よりもやっかいだぞ」

 そう言って楽しそうな視線をオレの方へ向けてくる。
 耳とか骨とかってラピスとダンディのことか?
 なんでオレがあんな腹黒連中よりやっかいなんだよ?

 オレは清廉潔白な純情ボーイですよ。

「さて、ワシはこの者と交渉に入らねばならんのでな、お前は出て行ってくれるか」
「我等を見捨て、そいつを新たな傀儡にしたてあげるか……」
「人聞きの悪い事を言うな、ワシは出来る限りお前達に力を貸した、だというのに、このような結果に終わったのは、全てお主の責任であろう」

 王様らしき人は悔しそうな顔で山神を見つめる。
 その内、踵を返して戻って行こうとする。
 そんな王様に追い討ちをかけるように、

「おっと待て、この書類に判だけ押していけ」

 そう言う山神。

 そのセリフに思わず腰の剣に手が伸びる王様。
 顔を真っ赤にして山神を睨み続ける。
 内輪もめは他所でやってくれないかな?

 結局、判をつくの? つかないの? もう、それだけでいいんだけど。

「所詮……我々にとっては、山神の傀儡となるか、聖皇国の傀儡となるかの違いでしかないか……」

 ポツリとそう呟くと肩を落として俯く王様。

「賢明な判断じゃな、そういう聡しいところだけは褒めてやろう」
「随分な上から目線だな、あんた。それとそっちの王様? だっけ、傀儡、傀儡と言っているが、こっちゃ穏便に終わらせてやろうしてるだけだぞ」

 そもそもが、そっちから仕掛けてきたことだろう。
 一国のトップを操り人形にしたんだ。
 本来なら国土蹂躙の上、一族斬首が普通。

 正直、聖皇国の皇帝以外だったら当然そうなっていただろう。

 それをまあ、なんとかとりなして、血を流さない方法を考えた結果だ。
 奴隷契約と言うのも、そんな事した奴を無罪放免で放置できるわけが無い。
 二度と同じ事が行えないように縛り付けるのは当然の事。

「なんだったら、最後の一兵まで抵抗するか? 無駄な血が流れるだけだぞ」

 オレはラピスが用意していた書状を放り投げる。
 それはここ一ヶ月の間、この城に出入りした他国へ派遣している間者らしい者のリストだ。
 先ほども言ったが、この城の状況はミュージックプレイヤーのドローン機能で丸裸だ。

「色々工作していたようだが、今すぐそいつ等の首を刎ねてもいいんだぜ」

 王様はその書状を見て絶句している。

「ここまで……我等の情報が筒抜けだったというのか……!?」
「だから言ったじゃろう、お主等とは役者が違うとな。最早この国に勝ち目は無い」
「ま、待て、山神よ! お前ならこの小僧の心の中が読めるだろう! ならば何か弱点でも……」

 心の中ねえ……オレは腹黒じゃないからな、探られて痛いものなどありはしない。

「そういう所じゃな、お主のやっかいな部分は。普通の奴は、悪いと思って悪巧みをする、じゃがお主は、悪いと思わずに悪巧みをする」

 おいそりゃどういう意味だよ!
 なんでそんな根っからの悪人みたいになっているの?
 オレは何時だって誠心誠意、真心を込めておもてなしがモットーですよ!

『言われてみたら、そんな気もするね!』

 おい、カシュア、てめえまで!

「どうあっても……我等に勝ち目はないと……」
「唯一可能性があるとすれば、この者を捕らえ人質、あるいは懐柔するか。まあそれがどれほど難しいか、小僧が一人でここに来たという事はそうならない絶対の自信がある訳だ」
「…………分かった、条件を呑もう。山神の傀儡でいるよりも、まだ人の傀儡のほうがましかもしれん」

 そう呟いて書類に判子をつく。
 よし、これで仕事は終わりだ!
 帰ってエクサリーといちゃいちゃするぞっ!

「ちょっと待て、まだ我等との交渉が終わっておらん」
「山ん中にでも引っ込んでろ、こっちから手を出すつもりはねえよ」
「まあ、そう言うな、我等が力、欲しくは無いか?」

 いらねえよ。
 もう腹黒はおなかいっぱいだ。

 オレがそう言った時だった、突如部屋の中に旋風が巻き起こる!

「せめてワシの力、見てから言ってもらいたいものだな」
「………………」
『ほらやっぱり、戦闘は避けられなかったね!』
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