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第十二章

レベル190

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 ふと気が付くと、もと居たライブハウスの防音室に戻っていた。
 目の前にはギターちゃんが頬を膨らませてそっぽを向いている。

「私の音の世界は異世界と言ってもいいぐらい完全に隔離されているはずなのに……あのハウリングボイスの所為ですね、それに英雄の旋律……」

 なにやら俯いてブツブツ呟きだした。
 さっきまでのアレは現実だったのか?
 エクサリーがバラードを歌い、ラピスが……グラインドピアノ、カユサルのセレナーデと一緒にピアノを鳴らしていた?

 グランドピアノのセレナーデさんには、こっそりと英雄の旋律というスキルが生えていた。
 そのグランドピアノから奏でられた音楽を聞いたものは、10分ほどの間、潜在能力が引き上げられると言う。
 その能力向上を得たエクサリーのハウリングボイスが、あの音の世界まで届いて来ていたのか?

「今度こそ、もっと完全な音の世界を……」
「そこまでです! 今後『音の世界の使用を禁止』します!」

 バタン! という大きな音を立ててラピスが防音室に飛び込んでくる。
 そのラピス、オレを見かけるや否やオレの頭を抱きしめてくる。

「お坊ちゃま、良かった……ご無事でなによりです」
「フゴッ、フゴゴゴ……」

 ここは天国かと思ったのも束の間、ラピスの胸に圧迫されて息が出来ない。
 息がっ! 息が出来ない!
 バンバンとラピスの背中を叩いて危険を伝えるが分かってくれない。

 ヤバイ! このままじゃご無事じゃなくなっちゃう!

 レベル45のラピスの力じゃオレがどう足掻いても勝てやしない。
 ギターちゃんが真っ赤な顔でラピスの手を引いているがビクともしない。
 そっ、そうだ! カシュアだ、カシュアなら!

『もんずだぁーがーどぉ……』

「アンっ」

 っていうエロい声を上げるラピス。

「何するんですかお坊ちゃま!」
「ゲホッ、ゲホ……そりゃこっちのセリフだ!」

 コロス気か!?
 随分大げさ過ぎるだろお前。
 ほんのちょっと探知が出来なくなったぐらいで。

「何言ってるんですか、お坊ちゃまが居なくなって三ヶ月以上経っていますよ!」
「えっ?」

 さ、三ヶ月?
 ど、どういうこと?
 確かに、時間の感覚がおかしくなっていた気はするが……

「しかし、まさか身内が原因とは……確かに、状況を考えればその可能性も十分にあった訳で、……どうやら随分と冷静さを欠いていたようですね」

 言わなくていい事も随分言った気がする。などと神妙な顔で呟いている。
 えっ、何やったの?
 三ヶ月もの間、オレは行方不明になっていた訳で……

 やべえ……ラピスの行動が読めなさすぎて怖い。

 と、なにやら開いた扉の向こう、ライブハウスの中にガヤガヤと人が集ってきている。
 そうでしたお坊ちゃま、すぐに私と来てください。と、手を引かれて外に連れ出される。
 そのままラピスはオレを担ぐと、猛スピードで町を駆けて行く。

 その先にはあの、音の世界で見たステージが待っていた。

 近づくにつれ、誰かの歌声が聞こえる。
 切なく、胸を締め付けるラブソング。
 遠くへ行ってしまった愛する者の帰りを待つ、切ないストーリー。

 今は唯、伴奏も無く、歌声だけが響いている。

『出でよ! マンドラゴラ・ギター!』

 ――ギュイィィーン!

 その傍まで来たオレはラピスに降ろしてもらい、ギターを呼び出す。
 そしてエクサリーの歌声に合わせて力強く掻き鳴らす。
 自然、オレとステージの間を遮っていた観客達が、左右に分かれ一本の道筋が現れた。

 なぜか始めて聞くはずなのに、その曲を知っている。分かっている。ずっと、あの音の世界で鳴り響いていた音の一つ。

 その曲をギターで鳴らしながら、ゆっくりと開いた道をステージに向かって進む。
 そのステージで歌っている美女と視線が交差する。
 泣き笑いのような笑顔でオレを迎えてくれる美女、エクサリー。

 オレがステージの上に立つ。
 ピアノの伴奏が聞こえてきだした。見るとラピスがピアノを弾いている。
 そして……曲が始まる。

「私が出来る事は歌うこと。貴方に届く歌声を精一杯伝える事。クイーズ、必ず帰ってきてくれると信じていた」

 そうか、やはりエクサリーの歌が、あの音の世界まで響いてきていたのか。
 エクサリーの想いが歌声となって、ラピスが、セレナーデさんが、観客達が、その歌声をオレの元まで届けてくれたのかもしれない。
 それがなければ、オレはここに戻って来れなかっただろう。

 だけど! そんなこちゃ~言えねえ! オレのセリフは唯一つ!

「前に言ったはずだろ? エクサリーはオレの帰る場所なんだって」
「クイーズ……」

 エクサリーが両目いっぱいに涙を湛えてオレに飛びついてくる。
 ソレを見て観客達は大興奮。
 至る所でキッス、キッスの大合唱。

 オレとエクサリーはそっと小さな口付けをする。

「とても素敵なバラードだったよ」
「ええ、でも音楽はバラードだけじゃないよね?」
「その通りだ!」

 とたん、会場を埋め尽くす激しい音が鳴り響く。
 切ないバラードのあとは、心を揺さぶるロックが良く似合う。
 揺らいだ心を歓喜で埋め尽くすんだ!

「すごい……今までと違う、まるで音に殺されそうなぐらいの迫力……」
「お坊ちゃま、一体どこでそんなテクニックを……」
「まあちょっとばかしな、オレだってエクサリーに捧ぐ為に練習してたんだよ」

 ざっと三ヶ月ほど。
 一睡もせずに延々と。
 そりゃ上達もするわな。

 オレは声を張り上げて歌う。

 エクサリーの想いに答えるため、オレという人物を知ってもらう為。
 オレの音の全てを人々に伝える。
 エクサリーの声が、観客達の声援が、オレを連れ戻してくれたこの世界に感謝の心を込めて。
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