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第十二章

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「えっ、クイーズが居なくなったって……どういうことラピス?」

 突然、ラピスが店にやってきたと思ったら、すぐさま部屋にエルメラダス姫様とカユサル様を呼び付ける。
 そして私にも、覚悟があるのなら同席してください。というので、何か分からないけどついて行った。
 そしたら突然、クイーズが居なくなったって。

 居なくなったって、何? えっ、家出とか? どうして、なんで?

「すいません、貴方に説明している余裕はありません」

 いつになく冷たいラピスの言葉に、その重要度を垣間見た感じで、心が急速に冷えていく。
 ラピスのこんな余裕の無い姿なんて始めて見た。
 いったいクイーズの身に何が?

 心臓が早鐘を打つように鳴り響く。

 ふと左手が暖かくなる。
 見ると左薬指に付けているエンゲージリングから熱が漏れている。
 そしてホウオウちゃんの声が頭の中に響く。

『大丈夫よ。私が居る限り、あなたを未亡人になんてさせないから』

 その熱は、何時の間にか冷え込んでいた私の体を温めてくれる。

「それで、そういったスキルに心当たりはありませんか?」
「その前に、その、反応が無いと言う感じか? どのようなものか教えて欲しい。よもや、クイーズが死んだ、などという訳ではあるまいな?」

 何時になく慌てているラピスは状況説明が疎かになっている。

「その可能性も……なきにしもあらずです」
「っ!?」
『落ち着いてエクサリー! 大丈夫、私達には蘇生や、輪廻転生なんてスキルを持ってる奴がいるんだから!』

 でもそのスキルは現在、使えないと聞いている。
 まるで足元に空いた大きな奈落に、落ちているかのような浮遊感に見舞われる。
 もし、クイーズが、居なくなったら……私は……わたしは……

「それだけでは分からん、詳しく話せ」

 姫様の冷静な言葉に、ふと現実に引き戻される。
 さすがは将軍職も務める姫様だ、私やラピスと違って、こんな時でも冷静に対応出来ている。
 私も両拳をギュッと握り締めてラピスの言葉に耳を傾ける。

 左手の指輪が、そんな私を応援するかのように少し温度を上げる。

 なんでも、ラピスの持っているカード統率のスキルは、各カードの存在する方角と距離が漠然とだけど分かるんだとか。
 それと同じような感じで、モンスターカード自体のスキルを持つ、クイーズの居場所も知ることが出来る。
 また、カード統率に+が生えてからは、クイーズの危機を察知することも可能になったとか。

「そいつは初耳だな……この腹黒ウサギめ。とはいえ、今更カイザーを手放す事は出来ぬか」
「別に俺は師匠に居場所を知られても何も問題ない。むしろ、セレナーデの危険を察知してくれるなら願ったり叶ったりだ」

 しかし、急にクイーズの居場所が分からなくなった。
 そしてどこを探してもクイーズが見当たらない。
 どんなに神経を研ぎ澄ませても、分かるのは各モンスターの位置だけ。

 ふとラピスの表情を見てみる。それはどこか、親からはぐれた迷子の子供のような、切羽詰った顔をしていた。

「お坊ちゃまが最後にいらした場所は、ヘルクヘンセンのライブハウスです」

 そこから忽然と姿を消したそうだ。
 誘拐に適したスキル。
 完全に外界との交信を遮断するようなスキル。

 その様なものがないかと、姫様とカユサル様に問いかけている。

「ない、ことはない。だが、完全には……新種の魔道具ならあるいは……」
「全てのスキル、魔法を遮断する。そのようなものは…………聖皇国の宝物庫!?」
「っ!? そういえば、すっかり忘れていましたが、あのダンジョン、外から中に入る仕掛けがあったのですよね」

 それにダンディも言っていた、今後そのようなスキル、が生まれる可能性も有ると。

「俺はその仕掛けの方を当たってみる!」
「ならば私は、そのようなスキル・魔道具が生まれていないか調査してみよう」
「恩にきます」

 二人が去った後、その場を動けないで居る私の元にラピスがやってくる。

「エクサリー、もしかしたら貴方は、私達の最後の希望になるかもしれません」
「えっ、どういう事?」
「お坊ちゃまの身に何が有ったとしても、貴方さえここに居れば、きっとお坊ちゃまは、どんな事をしてもここに戻ってくることでしょう」

 私はあっけにとられた顔でラピスを見やる。

 そうだ、クイーズは以前言ってた、何が有ろうとも私の元へ帰ってくると!
 そんなクイーズの台詞を私が信じなくて誰が信じるの。
 震える両足にグッと力をいれて立ち上がる。

「お坊ちゃま不在の今、貴方こそが今の我等のマスターです。なんなりとご命令を」
「ならば命じる。必ず、必ずクイーズをここへ、ここへ連れてきて」
「了解しましたマイマスター、必ず、お坊ちゃまをここへ連れ戻して見せます!」

 私とラピスは自然、共に微笑み合うのであった。
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