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第十一章

レベル182 『モンスターカード!』で、ゲットしてみたら二人は永遠の愛を誓います。

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「と、いう事なんで、エクサリーとの結婚を許してください!」
「私も、私も……クイーズがいい、クイーズ以外は……考えられない」

 あれからエクサリーとおやっさんを連れて、祖父母の居る場所へ特攻を掛けた。
 地元の竜王を倒し、剣聖まで退けたんだ、これ以上何を望む。
 きっとオレは、おじいさんの中でストップ高に違いない!

 となると、今しかないと、結婚の許しをえる為に凸ってみた、そしたら見事に色々折れた。

「何か勘違いされているようですが……我が商会に、英雄や貴族は必要ないのですよ」
「えっ?」

 なんでもおじいさんの話では、物事にはそれ相応の器というものがあるという。
 小さな商会に、貴族や英雄などが入り込めば、あっという間に崩壊してしまう。
 ましてやオレのような大貴族、婿入りなんかされた日にゃ、利権やなんやと引っ掻き回されること必須。

 英雄だってそうだ。

 英雄と成るほど手柄を立てた、という事はだ、英雄となるような出来事があった訳で、そんな出来事って奴は、たいがい多くの人に影響を与えている。
 そしてその影響、いい事、ばかりだとは限らない。
 影響が大きければ大きいほど、深い闇もまた発生する。

 戦争で手柄を立てた場合、自国にとってはそりゃ英雄だろう。しかし、敵国にとっては悪魔の所業でしかない。

「どれだけ人から敬われているか、は、どうでもいいのです。どれだけ人に憎まれていないか、それこそが商売人にとって大事なことなのですよ」

 ガーンってショックを受けるオレ。
 言われて見ればその通りだ。
 オレがエクサリーと結婚する事でエクサリーを危険にさらす。

 心当たりがありすぎる!

「お、オレの今までの行動は……」
「見事に逆効果だったって事ですねぇ」

 今回、剣聖を退けた。それは即ち、この国に喧嘩を売ったも同然。
 ラピスが勝った事で良く思わない連中も居るだろう。
 ああああ……オレは一体なんて事を……

 ふとラピスを見やる。ついっと視線を逸らす。もしかしてコイツ……

「ならば私は、商売人を辞めてもいい!」

 と、突然、エクサリーが立ち上がる。

 なんの為に商売を行うのか?
 お金? そんなものはクイーズの嫁となればいくらでも入ってくる。
 名声? それだってクイーズは持っている。

 私が商売人を目指したのはそんな物の為じゃない。

 自分の行動で誰かが喜んでくれたら嬉しい。
 自分の行動を誰かに褒められると嬉しい。
 そして、誰かに自分を愛してもらいたい。

「その誰かは、私にとってクイーズなんだって、他の誰にも埋める事は出来ない。クイーズ以外の他の誰かで、そんな充実感は決して得られない」

 たとえこのまま商売人を続けられたとしても、クイーズの居ない世界では、ただ惰性で続けるだけとなってしまう。

「え、エクサリー……」

 か……、感動した!
 エクサリーがそこまでオレの事を思ってくれていたなんて!
 くっそ、何が何でもエクサリーを危険にさらしてなるものか!

 どんな敵が来ようとも、必ずオレが蹴散らせてくれる!

「それで、商売人を辞めてどうするつもりだ」

 だがおじいさんは、そんな熱く語るエクサリーに静かに問いかける。
 そんなのオレが養って、

「ちょっと黙っていてください」

 はい。
 なんだこのじいさん、すげえ迫力。
 エクサリーの迫力は、もしかしてこのおじいさん譲り?

「そんなもの分からない。私はずっと商売人に成る事を目指していた」
「ならば、」
「もしそれが駄目なのならば考える。考えて悩んで相談して、それでも商売人がいいと思うかもしれない」

 だけど今だせる答えは唯一つ、私は決してクイーズの傍を離れられないっていうこと。

 それを聞いておじいさんはじっと目を瞑って考え込む。
 おやっさんは一言も発しない。
 ただじっと腕を組んでエクサリーの話に耳を傾けている。

「中々話は平行線のようだね!」

 なぜかそこにカシュアが割り込んできた。

「ようは貴族や英雄が駄目だって事だよね」

 そう言ってオレの方へ視線を動かす。

「君はモテモテだからね! 君を巡って色んな人が努力をしている」

 エクサリー君は見た通り言うまでも無いだろう。
 アポロ君も君の為に毎日魔法の練習を怠らない。
 姉上もまぁ、グリフォンを買い与えようとするのはちょっと引くけど、それだけ君を想っているって証拠だ。

「今度は、君が努力する番じゃないのかい?」

 なるほど、その通りだな。

「カシュア、貴族や英雄の位を放棄するのはどうすればいい?」
「はい、そこまでです!」

 と、ラピスが手をパンパンと叩きながら立ち上がる。

「まったくカシュアは、いつも、いらんでいいことばかり……コホン」

 おもむろにモンスターカードを机の上に広げるラピス。

「これだけの戦力が、エクサリーを、あなた方の商会を、お守りするのですよ。何の不満があるというのですか」

 この私の実力を知らないと言いませんよね? なにせ目の前で剣聖を打ち倒したのですから。と続ける。
 えっ、あの会場、おじいさん達も来てたの?

「そのスキルについては調べさせてもらった。確かにとんでもない戦力じゃ、じゃが、それはそこの御仁が生きている間だけのこと」

 子が生まれ、孫が生まれ、そうなったとき、その戦力を急に失って、その子や孫はどうなる。
 万が一、何かの手違いで命を失ったらどうする。
 人の命に絶対は存在しないのじゃからな。

 そう問いかけてくるおじいさんにラピスが答える。

「まだまだ秘密にしておこうと思っていたんですけどね、お坊ちゃまが居なくとも、カードは消えませんよ」
「「えっ!?」」

 オレとカシュアが声を上げる。
 どういうこと?

「お坊ちゃま、そのスキル、どういった時に発動されてますか?」
「ん、スキルの発動? カードを呼び出すとき……だけ!?」
「そう、お坊ちゃまの『モンスターカード』のスキルは、カードを呼び出すだけなのです」

 呼び出した後は……魔道具として扱われる!?
 そういえばそうだ! 聖皇都の宝物庫ダンジョン、スキル封じがされていた状態、カードは呼び出せなかったが、持っていたカードは使えた。
 呼び出していないカードについては消滅するかもしれない、でも、既に呼び出しているカードについては、消えないって事か!?

「ただし、モンスターカードのスキルが無くなれば、カードが呼び出せなくなるので新しいモンスターをゲットすることが出来ませんがね」

 それも、無地カードをいくつか取り出しておけば……
 なるほど、オレのスキルは、モンスターカードという魔道具を作り出すスキルだった訳か。
 ……お前、前にオレが死ぬと消えるって言ってたよな。

「当時はお坊ちゃましかカードを操作出来る権利がありませんでしたからね。しかし今は……」

 カード統率のスキルを得たことにより、ラピスもカードの操作が可能となった。
 カード譲渡システムが実装されたおかげで、アスカさんやカユサルなども譲渡されたカードについては使用できる。
 即ち、オレとラピスが同時にやられない限りは現状どおりモンスターカードが使える。

 オレとラピスがやられても、カユサルが生きていれば、セレナーデさんとソーサーは無事だという事に。

 ……今度こそ他に隠している事はないだろうな?
 オレのジト目の視線を避けるようにコホンと一つ咳払いをすると、おじいさんの方へ向き直る。
 そして、何事もなかったかのように笑顔で手を広げて語る。

「あなた方にとってこれは凄いチャンスなのですよ! ただ首を縦に振るだけで、これだけの物を手にすることが出来るのですから!」
「なんか詐欺師の商法みたいになっているぞ」
「シッ、お坊ちゃまはいったいどっちの味方なんですか」

 と、おじいさんも立ち上がる。

「あなた様の言うとおりだ。とんでもない戦力、ただ、それだけでもない。あなた様のような狡猾なお人が居れば、ちょっとやそっとじゃ揺らぐことはないじゃろうな」

 そう言って、ニヤリと笑いながら手を差し出しだす。
 ラピスがその手を取って答える。

「あらいやですね、私はそんな狡猾な女ではありませんよ」

(((よく言う)))

 ラピス以外の全員の心が一つになった瞬間であった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「うゎぁあ……すごい眺め……」

 地面に吸い込まれるような夕日の中、ドラゴン(大)に変身したロゥリの背中に乗ってエクサリーと二人、ドライブと洒落込む。

「ありがとうエクサリー、オレ、あんな風に言ってくれて感動したよ」
「ううん、いつもクイーズからばかりだった、本当は私から告げなければいけなかったのに」

 二人、そう言って互いに黙り込む。
 自然、額と額がごっつんこ。
 真っ赤な顔で見詰め合う。

「エクサリー、実は受け取ってもらいたい物があるんだ」
「うん」

 そう言ってオレは一枚のカードを取り出す。
 それはあの、竜王ホウオウが入ったカード。
 ラピスしか攻撃出来なくなったときに、何気なくクリスタルカードで見たもの、それは……

『出でよ、エンゲージリング』

 燃えるような、真っ赤な色をしたダイアモンド、その宝石が乗った、小さなリング。
 それは、エクサリーの左手の薬指にぴったりなサイズ。
 これだけは、どうしてもオレの手で手に入れたいと思った。

「エクサリー、オレと結婚してください」

 エクサリーの瞳から一滴の涙が頬を伝う。
 また先に言われちゃったね。って言って笑うエクサリー。
 そんなエクサリーに目を奪われる。

「クイーズ、私と結婚してください」
「もちろんだとも!」

 そして二人の影は、巨大なドラゴンに見守られて、ゆっくりと重なっていくのであった。


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レッドダイヤモンドには永遠の命という意味が込められています☆
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